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女医にこそ向いている!ママドクターが伝える産業医のススメ

女医にこそ向いている!ママドクターが伝える産業医のススメ

産業医と聞くと「企業相手の仕事で大変そう」「臨床とは業務内容が違いすぎる」など、どこか不安を覚える先生もいるのではないでしょうか。

実際には「多彩な業種の企業とかかわることで世界が広がる」「時間の調整がしやすい」など、業務面や働き方において、女医に向いている分野といえるのです。

そこで、内科系臨床医から産業医へとフィールドを広げ活躍しているママドクター・さくら先生に取材。
実際の業務内容や育児中のママドクターにおすすめの理由をうかがい、現状が見えにくい産業医の世界をのぞいてみました。

※編集部より:本記事はエムステージ運営「joy.net」から、特に注目度の高かった記事をピックアップしてお伝えしています。

Dr.さくら

大学卒業後、内科系医局に入局も、後期研修中はバイトなしでは生活できない経済状況に。
たまたま取得した産業医資格を生かし、30歳で産業医デビュー。
2企業からスタートし、病院の外来、専門領域の専門医・指導医資格取得の勉強などと並行しながら、産業医としての経験を積む。
指導医資格取得後も大学と産業医の仕事を両立させ、現在は10数社と契約。
1児の母となり、さらに「産業医は仕事と子育ての両立がしやすい」と実感しているという。

部屋の中に立っている女性

中程度の精度で自動的に生成された説明

Q1:医師が産業医になるために必要な条件とは?

産業医科大学卒の医師の場合には、2か月間の基本講座を受けて産業医を取得し、業務を行うことができます。

その他の先生でしたら、日本医師会や産業医科大学が行う研修50単位を修了すると認定書が交付され、産業医資格を得ることができます。

忙しい先生方が時間も費用も効率よく資格を取るなら産業医科大学が夏期に開催する、産業医学基礎研修会集中講座(6日間・50講座)を受講する方法がおすすめです。
私自身もこの講座を利用しました。

Q2:資格取得後はどうやって仕事を探すのですか?

資格を取っても、実際に仕事を得るには“狭き門”と言われる産業医の世界。
私のように産業医の経験ゼロ、右も左もわからないという方には、医師紹介(または産業医専門紹介)エージェントの利用が便利です。

私は、最初のうちは同行して、企業との間に入ってくれるコーディネーターが付くエージェントを選んで正解でした。

企業訪問の日程調整や、臨時面談の設定をお任せできる上、安全衛生委員会との関わり方、人事部との関係構築のコツなど、“産業医のいろは”について、手とり足とり教えてもらいました。

一番助かったのは、企業との交渉事をコーディネーターにお願いできることです。

例えば、企業からドクターへのクレームが入った場合、逆にドクター側から企業側にクレームが生じた場合など、間に入って調整してくれるコーディネーターがいると、物事がスムーズに運びます。
企業相手に、自分一人で交渉する精神的・時間的負担から解放されるので、多少マージンは取られても、それ以上のメリットがあります。

子育て中のママドクターにとっては、子どもの急病などの緊急時に代役を立ててもらえるなど即時対応してくれる点も安心できます。

また、人間同士の付き合いでもあるのでコーディネーターとの相性はとても重要です。
しっくりこなかったら担当者の変更も可能ですので、複数のスタッフがいる、ある程度の規模のエージェント会社を選ぶことをおすすめします。

Q3:子育てとの両立がしやすいと感じるのはなぜですか?

産業医の業務は基本的に平日、定時で終わることができ、1回の訪問時間は2時間前後。
時間管理がしやすいことが一番の理由です。

私は高齢出産だったこともあり、子育てをしながら夜中まで働くのは難しい環境でした。

研修病院の常勤で働いていたので、妊娠中も夜中の2時・3時でも平気で呼び出され、体力的にもこのまま続けていくのは難しいと感じていました。
幸い、目指していた指導医も取れたので、子育てに手間がかかる時期は、産業医の仕事を増やして、力を入れていきたいと考えています。

最近の企業では女性の社会進出が増え、業種によっては女性社員が多く、女性医師の方が話しやすいということで、女性ドクターを希望する企業が少なくないのは事実です。

最近は妊娠・出産後も働き続ける社員が増えており、自分の子育て経験が面談などを通して仕事に生かせることも、ママドクターの強みでしょう。
同じ経験をしているからこそ、子育てと仕事の両立の悩みについても共感できますし、より相談者の気持ちに寄り添ったアドバイスもできます。

Q4:具体的な仕事内容を教えてください。

産業医の業務は多岐にわたり、企業規模や業態、「専属」か「嘱託」によっても、業務内容は大きく異なります。

産業医の大部分を占める嘱託産業医の場合、基本的に月1回企業を訪問し、安全衛生委員会への出席や職場巡視などを行います

健康診断の事後措置や、過重労働や心身の疲労を申し出た従業員の面接も、産業医の重要な業務です。

また、義務化されたストレスチェックにより、「高ストレス者」に対する面接・指導も、新たな業務に加わりました。
そこで専門家による診断が必要と判断した場合は、適切な医療機関に紹介します。

Q5:業務を行うのは、企業の従業員に対してだけなのですか?

従業員一人ひとりをケアするだけでは根本的な問題解決につながりません。

マクロ的なアプローチが不可欠であり、企業(主に人事部)への働きかけ、教育なども産業医の重要な業務だと感じています。

“人事部教育”と聞くと難しそうですが、産業医の役割は、従業員の安全と健康を守ることが仕事の生産性を上げ、ひいては会社の業績アップにもつながるという認識を、組織にもってもらえるように働きかけることです。
そして、実は、これが従業員、及び企業を守ることにもつながっていくと考えております。

企業が抱えている問題点を人事とともに洗い出し改善していくことで、少しずつ新規のメンタル不調者の面談を減らすことや労災の減少・喫煙率低下などにもつながります。

職場環境や業務フローの見直しなどを実践したことで、業績が上がった事例もありました。
そういったプラスの変化を実感できると、産業医への信頼が高まり、協力体制が整ってくるものです。

Q6:臨床との違いについて教えてください。

産業医と臨床医の違いは大きく2つあります。

まず産業医は健康な人を診る、つまりクロではなくグレーゾーンの人たちを診るということ。

病院やクリニックには、何らかの症状があり、医師に診てもらいたい方が来られます。
しかし、産業医は病気を患っているわけでなく、ご自身では何も困っていない方を診るので、アプローチ次第では怒り出す人もいます。

特に、自覚症状のない人を精神科に送るのは至難の業。
いかに相手の気分を害すことなく、産業医の助言を受け入れてもらえるか。
どんな説明や言い方をすれば自分の身体や精神の不調に気付き、納得して受診してもらえるのか。
一人ひとり違うアプローチを考える必要があります。

気も遣いますし、一番難しいところでもありますが、「ちょっとおかしいな?」という人を、適切な医療機関に紹介するという意味では、臨床医の経験が一部活かせるという強みもあります。

もう一つは企業の中で働くということです。

この点でいうと、従業員の立場を意識する必要があります。
ストレスチェックの結果で産業医が面談する際、従業員のプライベートな情報を得ることも多いため、プライバシーの保護には配慮が欠かせません。

もし、「これは人事に伝えた方がいい」と思っても、本人が拒否すれば記録に残さないなど、面談者の意志を尊重した、細やかな配慮を心がけています。
これは従業員と産業医の信頼関係づくりにもつながります。

以前に人事から「面談で、退職するように本人に話してほしい」と言われて困ったことがありました。それは産業医の仕事ではないとお断りしましたけどね。

産業医の役割は企業と従業員の間に立ち、中立・公平な立場で、双方が納得いく助言や答えを導きだすこと
病気の診断・治療がメインの臨床とは大きく異なる点です。

Q7:最近の傾向について教えてください。

最近増えているのが、親の介護の問題や、ハラスメント(セクハラ、モラハラ、パワハラ、マタハラなど)に関するご相談です。

ハラスメントは本来産業医の直接関与すべき業務ではないのですが、ハラスメントに伴うメンタル不調を来した社員さんに産業医面談が必要になるケースなどがあり、相談に対応することが多々あります。

このため、ある程度のハラスメントや労務などに関わる法律知識があった方がいいでしょう。
労務管理を産業医が直接行うことはありませんが、産業医の意見書、判断などがどう影響するかなど、過去の事例や判例が頭に入った上でないと、会社に適切なアドバイスはできません。

そういう意味でも、産業医は医学的視点を持った専門家であると同時に、世の中の流れや問題、あるいは企業の現場での問題を敏感にキャッチし、法律や労務などの知識を含めた、より説得力のある提案・助言が求められます。

誤解を恐れない言い方になりますが、それを楽しめるかどうかで、自分が産業医向きか、そうでないかの判断をするのも一つの手です。

ほかにも、親の介護をきっかけに一過性に抑うつ状態になり、退職希望を提出した従業員の方がいた事例がありました。
介護を理由に離職すると、親子共倒れになる危険性が高いため、国や会社の制度を把握したうえで、介護離職を防ぐために有効なアドバイスを行い、離職を思いとどまらせることができました。
今では元気に働いており、たまに職場巡視であったりしますと、『さくら先生、こんにちは』と気軽に声をかけてくれます。

10年近く産業医として勤務している企業では産業医のさくら先生ではなくて、『さくら先生が産業医をしている』という感じで、会社に根付いているのか、従業員の方々がいろいろと相談に来てくれます。

Q8:スキルアップのために勉強したことはありますか?

私は企業の組織論やヒューマン・リソース・マネジメント、一時、『もしドラ』で有名となった、ドラッカーでいうマネージメント(笑)というものに疎かったので、個人的な興味から、ビジネススクールに通った時期があります。

産業医は会社のトップや人事部と直接やりとりすることが多く、当時学んだ組織人としての振舞いや考え方が、今仕事に活きているという実感があります。
日経新聞も読むようになりました。
日経の記事を引用すると説得力が増し、経営者や人事担当者には響きますよ(笑)。

また、何かの役に立てばと思い、労働衛生コンサルタントの資格も取得しました。
専門的に勉強したことで、安全衛生委員会でも「こういう外部機関・セミナーや助成金制度、あるいは法律ではここまでのことを要求しています」といった具合に、より踏み込んだ発言ができるようになりました。

知識が増えた分、自分の言葉に説得力が生まれ、仕事もやりやすくなった気がしますね。

Q9:どんな医師が産業医の仕事に向いていますか?

産業医にとって一番大切なのは、人の話を聞くのが好きだということです。
その人のために何とかしてあげたいという、近所のお節介なおばさん的な感覚がある人の方が向いていると思います。

特に、話を聞き出す能力が重要で、現場では「専門性のある井戸端会議をしているみたい」な感覚が常にあります(笑)。
そして、実際に企業人事担当者や保健師さんはじめ、患者さんからも「話しやすそうだし、実際に話しやすい」とよく言われます。

まずは相手に話してもらうことが大事ですから、話しやすい雰囲気をつくるために、「なんでも言ってくださいね」「いつでも相談にのりますよ」とアピールする姿勢も大事でしょうね。

医者の世界とは別の世界を楽しめる頭の柔らかさ、新しいものを何でも受け入れる順応性が高い方、好奇心旺盛な方も、産業医に向いていると思います。
私自身、かなり新しもの好き、好奇心旺盛なタイプですね(笑)。

Q10:企業から好まれる「診療科目」はありますか?

最近はメンタルの病気が増えているので、精神科の専門医が有利と思われがちですが、産業医はある特定の専門があれば有利というわけではありません。

産業医は診断をつけるというよりは、「ちょっとおかしいな?」という人を、適切な医療機関に紹介する役割です。
ですから、必ずしも精神科でなければいけないというわけではありません。
むしろ、企業側からは、メンタルも全身も診られるスキルを持った産業医を求める声が高まっています

とはいえ、私のような内科系の医師は、メンタルの病気にはどのようなものがあるか、どういうポイントで病気を見極め、精神科のドクターに送ればよいのかといったことぐらいは、最低限押さえておいたよいでしょう。

でもこれは、臨床経験のある医者なら似たような場面に遭遇することがあるのではないかと思いますし、それほど難しく考えないほうがいいかもしれません。

最後に、産業医を考えている先生方へアドバイスをお願いします。

もし今、子育てや介護などを理由に休職中の先生がいたら、嘱託産業医から始めてみるのはいかがでしょう。

完全なブランクを作ると復帰が難しくなってしまいます。
ならば週に2時間。それも難しければ、最初は月2時間でもいいと思います。

今までの10%でも良いから、仕事を続けることが大事です。

キャリアをゼロにしないって本当に大事ですよ。
100%の仕事はできなくても、10%でもいいから細く、長く続けること。
そういう意味では、産業医は休職中・子育て中の先生にとって、選択肢の一つとして考えてみる価値はあると思います。

私の経験から、産業医として一から頑張ろうという気持ちさえあれば、何歳からでも産業医として働けます。
話好きで、新しいことに対する順応力が高い女性医師は、産業医向きなのです。

医者って、企業や組織とは無縁の世界で生きてきた人がほとんどですよね。
私自身はそれが逆に新鮮で、とても面白かったのです。
今、「それって面白そう!」と少しでも心が動いた方は、臆することなく、ぜひ一歩前に踏み出してほしいですね。

 文/岩田千加

※内容は取材当時(2017年3月)のものです。

Dr.転職なび編集部

ライター

Dr.転職なび編集部

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