大好評「教えてセンパイ」シリーズの2回目。今回も産婦人科医・海老根真由美先生が悩める女医たちの質問に答えてくれました。
「2人目の壁はどう乗り越えればいい?」「責任あるポジション、手放したくない……」など、“育児中あるある”の解決の糸口を探っていきます。
悩みが深くなればなるほど身動きが取れなくなるもの。そんな女医に向けた海老根先生の言葉は、柔軟で広い視野を持つことの大切さに気づかさせてくれます。
※編集部より:本記事はエムステージ運営「joy.net」から、特に注目度の高かった記事をピックアップしてお伝えしています。
海老根 真由美先生(えびね まゆみ)
1997年埼玉医科大学医学部卒業、2003年埼玉医科大学大学院修了。埼玉医科大学総合医療センターで周産期母子医療に携わり、2004年には同センター母体胎児部門病棟医長に就任。
順天堂大学医学部付属順天堂医院産婦人科非常勤講師。2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開業。周産期メンタルヘルス研究会理事で、クリニックでも臨床心理士らと協力し、産後のメンタルヘルスケアに注力。
2児の母として、医師として、女性ならではの視点を生かして、さまざまな角度から女性の人生をサポートしてくれる力強い存在。
Q1:2人目を出産し、仕事と育児の両立はもう限界だと感じています。
医師である夫の協力は得られず、私ひとりで家事・育児を担っています。同じような境遇の女医が、どうやって仕事復帰しているのか知りたいです。
あなたと同じ境遇の女医は、結構多いのではないでしょうか。
子供1人ならなんとか頑張れても、2人目の出産を機に、復帰を断念する女医がいるのも事実です。
医師の仕事を続けながら、2人の子供を一人で育てるのは所詮無理なこと、と割り切ることも、ある意味必要かもしれませんね。そんな状況を嘆くよりも、まず夫とよく相談すること。
その他、両親や兄弟・姉妹など家族はもちろんのこと、近所の仲のいい友達、ママ友など、自分の医療理念に共感し、サポートしてくれる協力者を探しましょう。
ベビーシッターを雇うのも一つの方法ですが、自分の代わりに保育園にお迎えに行ってくれる人、子どもの帰宅時間に「お帰り」と出迎えてくれる人、夕飯を一緒に食べてくれる人など、サポーターをたくさん作ることが、育児が本当に大変な数年間を乗り切るコツです。
もちろん無償でというわけにはいきませんよ。親しい友人に対しても、例えば「月5万円などサポートに見合った報酬を支払うので、自分が目指す医療の実現を支えてもらえないか」と、お願いすることが大事。
報酬を支払うことで、子どもが小さくて外で働くことが難しい専業主婦のママが、快く協力を申し出てくれる可能性だってあります。
間違ってはいけないのは、ただお金を支払えばいいのではなく、「自分の医師としての将来のビジョンをしっかり言葉で説明すること」「相手に頭を下げること」「協力者への感謝の気持ちを忘れないこと」。女医さんは頭を下げることが苦手な人も多いのですが、ギブアンドテイクの関係性が、協力者を得る鍵ですよ。
状況が許すならば、親の近くに住む。あるいは自宅近くのマンションを自分が借りて、親を呼び寄せ、子育てをサポートしてもらうのも一案です。
「誰も助けてくれないから一人で頑張る」などと孤立してはいけません。5年間は非常勤医としてアルバイトをして、子供が少し大きくなってから常勤医に戻る、なんてプランもありです。目先のことではなく、長い目で子育てとキャリアのプランを立てましょう。
~まとめ~
- 産後5年間は育児に重き置くという割り切りもアリ
- 夫にきちんと相談する
- 親しき仲にも礼儀あり。金銭面のお礼も視野に
Q2:チームリーダーの私が、予想外の妊娠。
下に迷惑をかけると悪いので、産後なるべく早く復帰するつもりです。
しかし、高齢出産で体調も悪く、初めての子育てに不安が一杯です。何か良い対処策はありますか?
若い女性医師もいつかは結婚し、ママになる人もいます。あなたが頑張り過ぎては、「先輩はあれだけ頑張ったのだから、あなたもお願いね」と、後に続く女医にとってハードルの高い前例になりかねません。
実際、病棟医長である私が結婚・出産したら、下の子たちも続々結婚・出産しましたので、みんな私に遠慮していたのでしょうね。
本当に優れた先駆者というのは、ある程度の所で第一線から撤退する、自分が苦しい時や子どもが病気の時はちゃんと休みを取るなど、後輩たちのために、育児と仕事を両立しやすい道筋を作ってあげられる人です。
今のあなたが「撤退=自分の人生を奪われた」ような気持ちになるのは、よく理解できます。私自身もそうでした。
しかし、それは長い人生においてはほんの一時のこと。休みを取ったからといって、今までのキャリアや経験がなくなることはありません。
むしろ、妊娠・出産、子育てを経験することで、人としての幅が広がります。いくら頑張っても、自分の思い通りにはならない子育てを通して、他者を理解し、本当の意味で患者の気持ちに寄り添った診療ができるようになるのではないでしょうか。
産後、すぐに復帰して、ただひたすら働くことだけが、いいリーダー、いい医者ではありません。今はご自身の体を労り、家族を大切に、あなた自身が子育てを楽しんでください。
子どもを持つことによる苦労や不安、喜びを経験したからこそ、同じ境遇に悩む患者の心に響くアドバイスもできるというもの。自分に自信をもち、休みを取ることを必要以上に怖がらないでください。
~まとめ~
- 勇気ある撤退も時には必要
- 子育てを通じて人間力を高めることに注力する
- 目先のことに捉われず、一歩先の未来をイメージ
文/岩田千加
※内容は取材当時(2017年2月)のものです。