医師の働き方が多様化するなかで、柔軟な勤務形態を許容する医療機関が増えています 。
なお「常勤医師」「非常勤医師」の規定は、法によって定められるものではなく、各医療機関で定められるものです。
よって求人票で見かけることの多い「32時間以上」という基準についても、 常勤医師と非常勤医師の線引きを行うためのものではありません。
本記事では、「週5日勤務しなくても、常勤になれるの?」「非常勤として勤務する場合と、どう違うの?」 等のよくある疑問について、社会保険労務士試験にも合格し労働法規に詳しい弊社社員に話を聞きました。
常勤・非常勤の定義は?
「常勤=32時間以上勤務する医師」ではない
編集部:
まず最初に、「常勤」とはどんな働き方をする医師のことをいうのでしょうか?
求人票では「32時間以上勤務から相談可」といった形で【32時間】という言葉をよく見かけるのですが、常勤と非常勤という働き方の線引きを行うための基準となる数値なのでしょうか。
木島:
「【32時間】以上勤務する医師=常勤医師」と誤解をされているケースがよくあるのですが、 「常勤医師=〇時間以上勤務する」などの法で定められた規定はないんです 。
「常勤医師」「非常勤医師」の規定は、その医療機関によってそれぞれ定められているんですよ。
編集部:
そうなんですね!法律で統一のルールが決められているのだと思っていました。
では例の【32時間】というのは、何のための基準なのでしょうか?
「常勤医師の32時間ルール」とは?
木島:
「常勤医師の32時間ルール」 のことですね。
これは、2014年に厚生労働省が出した「医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱」という通達をもとにした方針のことをいいます。
この通達では、常勤医師の定義について以下のような記載があります。
3.常勤医師の定義と長期休暇者等の取扱い
(1) 常勤医師とは、原則として病院で定めた医師の勤務時間の全てを勤務する者をいう。
ア 病院で定めた医師の勤務時間は、就業規則などで確認すること。
イ 通常の休暇、出張、外勤などがあっても、全てを勤務する医師に該当するのは当然である。
(2) 病院で定めた医師の1週間の勤務時間が、32時間未満の場合は、32時間以上勤務している医師を常勤医師とし、その他は非常勤医師として常勤換算する。
※厚生労働省医政局「医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱」より引用
この通達でいう「32時間以上勤務している医師」という基準は、都道府県が実施する立ち入り検査の際に、 各病院で配置すべき医師の人数をカウントするために使われているものです。
つまりこの「32時間以上」という基準は、 常勤医師と非常勤医師の線引きを行うためのものではない ということなのです。
「常勤/非常勤」の定義は、各医療機関が決めている
木島:
例えば、「週35時間以上勤務する医師が常勤医師」と定めている病院では、
・週32時間働く医師 = 非常勤医師
・週35時間働く医師 = 常勤医師
という区別となります。
このように常勤医師と非常勤医師の線引きとなる規定は、医療機関がそれぞれ定めています。
編集部:
なるほど。だから、週3日や週4日など、少ない日数でも常勤としての勤務が可能という求人があるんですね。
木島:
そうなんです。
実際に、交通アクセスが悪く医師が慢性的に不足している、出産や育児による離職を防ぎたい、といった事情から様々な働き方を許容しないと医師の確保が難しい医療機関の場合には、勤務日数や勤務時間についての相談がしやすいケースがあります 。
ただし、求人票にはそこまでの条件を明記しないというケースも多くあります。
ですので、ご事情があって「週3日や週4日しか勤務ができない」という先生は、まずはお気軽にご相談いただければと思います。
経験豊富なコンサルタントが、個別に確認・交渉いたします。
週3~4日勤務の常勤として働く「メリット」
編集部:
ちなみに、勤務回数を優先させて働き方を検討するのであれば「非常勤医師として、週3~週4日勤務する」という選択肢もありますよね。
ここであえて、週3~4日勤務の「常勤」という働き方を選ぶメリットは、どんなことが考えられますか?
常勤で働くメリット①待遇面や福利厚生が充実している
木島:
常勤として勤務するメリットとしてまず挙げられるのは、 退職金やボーナスの支給などの待遇面が常勤と非常勤では異なるということ です。
すべての医療機関ではないですが、「退職金の支給対象は常勤医師のみ」としていて非常勤医師は退職金が出ない、というケースが多いです。
また、 社会保険加入などの福利厚生が充実している点も常勤で勤務するメリットといえるのではないでしょうか。
ただし福利厚生の内容・適用の対象も、医療機関ごとに定められていますので、事前に確認が必要です。
非常勤でも社会保険に加入できるケースも
木島:
なお、非常勤医師が社会保険に加入するための条件は「常勤医師の労働時間の4分の3以上の勤務」となっています。
この条件に満たない場合は、ご自身で国民健康保険や国民年金保険に加入する必要がありますが、非常勤医師が「常勤医師の労働時間の4分の3以上勤務」している場合には、社会保険の適用が認められるケースもあります。
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基本的には医療機関ごとに相談が必要になりますので、もし気になる求人がありましたらコンサルタントまでお気軽にお問い合わせください。
常勤で働くメリット②雇用の安定性が高い
木島:
雇用の安定性が高いという点も、常勤で働くことの大きなメリットとして挙げられます。
常勤医師の雇用契約は、期間の定めのない契約となっていることが多いため、特段の理由がない限りは、医療機関側から雇用を打ち切られる可能性は低くなっています。
一方、非常勤勤務の場合には、常勤医師の採用状況や患者数などの医療機関側の事情によって勤務が終了となるケースもあります。
週3~4日勤務の常勤として働く「デメリット」
編集部:
長く安定的に働くための安心材料がより多いのは、常勤としての働き方ということでしょうか。
逆に、常勤として働くことによるデメリットもあれば教えてください。
常勤として働くデメリット①拘束時間が長くなる
木島:
これも勤務先によるところも大きいかと思いますが…あえて挙げるとすると、身体的・精神的な拘束時間が長くなる傾向があるという点でしょうか。
ご自身の都合に合わせて自由に勤務スケジュールを組むことができる非常勤勤務とは違って、希望する曜日で休みが取ることが難しかったり、勤務終了後もオンコール対応が発生したりすることが多いのが常勤医師です。
どうしても、オンとオフの境目があいまいな働き方になってしまうこともあるかもしれませんね。
編集部:
常勤と非常勤、それぞれの特徴と、ご自身の生活スタイルやキャリプランがマッチするのか、しっかりと考慮する必要がありますね。
木島:
そうですね。
求人票の情報だけでは読み解けないことも多くありますし、求人票通りにいかないのが医師の転職です。
Dr.転職なびのキャリアアドバイザーは、全員「医療経営士」の資格を取得しているので、 経営的な視点からのリサーチや転職アドバイスも可能ですし、私のように労働法規に詳しい社員もいます。
Dr.転職なびは、はじめて転職を検討される先生でも安心して検討を進めて頂けるようにしっかりとサポートいたしますので、安心してご相談ください。