
外科医は手術や診断を通じて患者を治療し、専門分野に分かれています。長時間労働や高いストレスが特徴ですが、手術前後のサポートも行います。若手外科医は労働時間に対する報酬に不満を抱え、転職を考えるケースも多いです。平均年収は1456.3万円で、多岐にわたる業務にやりがいを感じている医師も多いです。
しかし昨今では外科医の働き方も多様化しており、ワークライフバランスを重視した勤務を選択する外科医も増えています。
本記事では外科医の仕事内容や働き方、年収事情などをわかりやすく解説します。
外科医の仕事内容は?
外科医の主な仕事は、検査や診断結果に基づいて手術の必要性を判断したり、手術を介して患者さんの治療を行ったりすることです。
外科の中でさらに専門が分かれている
外科医が担当する手術は医療技術の進歩によって高度化が進んでおり、専門分野が細かく分類されていることも特徴です。
心臓血管外科や消化器外科、血管外科、呼吸器外科といった特定の臓器ごとに、それぞれを専門とした外科医が存在しています。
手術だけでなく術前・術後のサポートも担当
外科医は、主に手術などの外科的処置を通じて虫垂炎や胆石症、ヘルニア、胃がんや大腸がんをはじめとする悪性腫瘍などの病気・けがの治療を行います。
手術は1回10時間以上など長時間となるケースも少なくないため、高い集中力と同時にそれに耐えうる体力も求められます。
また手術適用に至るまでにも、貧血や腹痛、下血などの外科的な疾患が疑われる症状や身体所見、検査結果から疾病を診断していくことも、外科医が担っている仕事の一つです。
他科の医師や検査技師などのコメディカルなどとも連携しながら、最適な治療法を検討します。
さらに、手術を受けた患者さんの精神的な支えになることも、外科医としての大きな役割です。
特にがんの患者さんとその家族は、精神的に大きなストレスを抱えることが多くなっています。そのため、医療ソーシャルワーカー(MSW)やかかりつけ医、在宅医をはじめとする医療従事者と連携を取りながら、患者さんとその家族に対するサポートを行います。
このように手術をするだけではなく、手術前の診断から術後の心のケアに至るまでのあらゆる業務を担い、患者さんの病気やけがを治療するのが外科医の仕事です。
外科医の労働環境

厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国の医療機関で働く医師の総数は、およそ32.3万人です。
このうち外科医として働く医師はおよそ1.3万人、全医師に占める割合はおよそ4.1%となっています。
「過酷」というイメージを持たれることも多い外科医ですが、実際にはどのような働き方をしているのでしょうか。
外科の担い手が少ない要因は?
厚生労働省「外科医の働き方改革に関する課題と必要な取組」によると、外科医を志望する若手医師は年々減少しているとされています。
なお医療法人社団日本外科学会では、外科医志望者減少の理由として以下の5項目を挙げています。
・外科医は専門医資格を取得するのに時間がかかり生涯労働期間が短い事
・勤務時間が長い事(ワークライフバランスが十分に考慮されていない事)
・給与が勤務量に見合っていない事
・医療訴訟のリスクが高い事
・女性医師への配慮が乏しい事
本記事では、特に「勤務時間が長い事(ワークライフバランスが十分に考慮されていない事)」と「給与が勤務量に見合っていない事」の2項目に着目して、外科医の働き方について考えていきます。
若手の外科医は、長時間労働になりやすい
ここからは、一般社団法人日本外科学会「日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査報告書」で公表されているデータを確認しながら、外科医が置かれている労働環境について考えていきます。
まず1週間あたりの平均労働時間では、「80~100 時間未満」が 20.8%でもっとも多い層となっていますが、「100 時間以上」も 19.3% とほぼ同等の割合であり、およそ 4 割の医師は週 80 時間以上働いているということが分かります。
※1週間当たり労働時間の算出方法は以下。
① 労働時間=1週間当たり勤務時間+当直時間+兼業時間
② 本調査では当直については「1か月当たりの当直回数」として質問したため、1か月を 4.3 週(365 日/7 日/12 か月)とみなして、1週間当たりの当直回数を算出。
③ 平日の当直時間を 16 時間、土曜日 20 時間、日曜日 24 時間とし、1回(日)当たりの勤務時間数を 17.7 時間((16 時間×5 日+20 時間×1日+24 時間×1日)/7日=17.7 時間)として、①の1週間 当たり当直回数に乗じた。 つまり、週休2日ではなく、土曜日は半日勤務(4時間)が通常勤務とみなし、土曜日の当直時間は 日曜日の 24 時間とは異なり 20 時間とした。
④ 「兼業している」ケースにおける兼業時間無回答(欠損値)は、平均値算出から除外した。
なお年代別でみてみると、年齢層の低下に比例する形で労働時間が長くなる傾向があり、「30 歳未満」は99.8 時間、「30 代」は 93.2 時間となっています。
また、自身の労働時間について尋ねる質問では、長時間労働の傾向が強い20代・30代の若手医師の約7割は「労働時間を短縮したい」と回答しています。
外科医の労働時間が長くなってしまう要因は?
なぜ、若手を中心とした外科医は長時間労働となってしまうのでしょうか。
最も大きな理由としては、外科医が担う業務は、他科と比べて緊急度がより高いものであるということが挙げられます。
日時をあらかじめ調整して進める予定手術ももちろんありますが、夜間や勤務時間外の救急搬送や症状の急変によって処置や手術などが必要な際には、時間を問わず緊急対応が求められます。
そのため夜間にも呼び出されたり、術後管理のために病院に泊まり込んだりと、不規則でオンとオフの境目がない働き方を余儀なくされてしまうケースも少なくありません。
また外科治療の進歩も、外科医の勤務時間を長くする一因とされています。
厚生労働省「外科医の働き方改革に関する課題と必要な取組」では、ロボット手術や内視鏡外科手術が具体例として挙げられています。
これらの手術は、創が小さく術後の回復が早いことや可動域が広く操作性が高いというメリットがある反面、通常の手術と比較すると圧倒的に手術時間が長くなってしまうというデメリットもあると指摘されています。
昨今では、多くのロボット手術や腹腔鏡手術が保険適用とされつつあります。
今後はさらなる件数の増加と外科医が執刀する手術の延べ時間はより一層長くなることが予想され、外科医の長時間労働がさらに助長されてしまうといった状況が懸念されています。
ワークライフバランスを整えるために転職する外科医も多い
上記のような過酷な労働環境を変えたい、プライベートも大切にした働き方をしたい、という理由から転職に踏み切る外科医は多くいます。
都心部から少し離れた外科医の招聘に力を入れている医療機関などでは、常勤医師の負担軽減策として他職種や非常勤医師とのタスクシフトを積極的に進めていたり、医師一人に大きな負担がかかる主治医制から交代勤務制へ変更をしたりといった対策を進めている施設もあります。
都心の急性期病院だけが、医師の活躍の場であるとは言い切れませんし、過重な労働は医療事故のリスクを高めてしまう可能性もあります。
若手であっても、外科医であっても、やりがいを持ちながらオンとオフをしっかり区切った働き方を実現することは可能です。
「長時間の労働に疲れてしまった…」「いつまでも今の働き方が続けられるとは思えない…」という外科医の方は、今とは違う働き方の選択肢を一度確認してみるのもおすすめです。
ワークライフバランスが整う!
外科医の年収事情は?

このようにハードな労働環境に置かれている医師も少なくない外科では、その働きに見合った報酬が得られるのでしょうか。
外科医の平均所得は、1456.3万円
一般社団法人日本外科学会「日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査報告書」によると、外科医の税込年収(所得)の平均値は1456.3万円でした。
所得帯別の分布をみてみると「1,400~1,600 万円未満」の層がもっとも多く、全体の19.5%となっています。
なお1,800万円以上の所得を得る医師は、全体の25%にのぼっています。
若手外科医の平均所得は低い傾向がある
上記のように外科医を全体でみた所得の水準は比較的高いといえそうですが、年代によって大きな差があるようです。
外科医の所得を年齢階級(年代)別で見てみると、30歳未満では 1,000 万円未満が78.2%と大多数を占め、平均所得は695.2 万円にとどまります。
30 代においても1,000万円未満が相対的に多く、平均で1,095.3 万円となっています。
その後の40代以降は年代の上昇と比例して所得が増加していき、50 代・60 代では平均 2,000 万円近くとなっていきます。
これらの結果からは、20代・30代の若手の外科医は、「長時間労働でありながら、得られる所得は低い」という傾向が伺われます。
外科医が最も不満を感じているのは「給与」
同調査による現在の勤務状況で最も不満に思う点では、「給与」と回答する医師が3割強(32.1%)を占めており、報酬面への不満が突出して多い結果となっています。
さらに年代別にみると、30代・40代では35%を超える医師が給与への不満を訴えていることが分かります。
多忙を極める若手医師の場合には、自らの働きと得られる報酬とのギャップに不満を感じる方が特に多いようです。
働いた分、しっかり評価されたい!
外科医が年収を上げるための方法

外科医が年収をアップしたいと考えるときには、以下のような方法が有効です。
アルバイトで副収入を得る
一般社団法人日本外科学会「日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査報告書」によると、兼業(主契約病院・施設以外での報酬を伴う業務や無報酬の学会活動)つまりアルバイトをしている外科医は全体の52.6%と半数を超えています。
兼業の理由としては「金銭のため」が63.8%でもっとも多く、次いで、「病院依頼による地域医療支援等のため」が45.9%となっています。
非常勤勤務には、クリニックや施設などで毎週決まった日時に勤務する「定期非常勤」と、健康診断やワクチン接種などによる突発的な人員不足に対応するための「スポット勤務」があります。
それぞれの状況や環境に適した方法を選択し、効率よく年収アップを狙いましょう。
例えば、70,000円/日の健診アルバイトで月4回勤務する場合には、
・70,000円×4回×12か月=3,360,000円
となり、年間で336万円という大きな副収入を得ることができます。
ただし、副業を認めていない、あるいは事前に副業届の提出を求める医療機関も。アルバイト勤務を実施する際には、就業規則も事前に確認しましょう。
民間の病院やクリニック・診療所へ転職する
アルバイトをしたくても、常勤先が多忙で時間や体力面で余裕がないという医師もいるでしょう。
その場合は、今の勤務先よりも高い年収提示が期待できる医療機関への転職を検討してみてはいかがでしょうか。
勤務先医療機関の開設主体別の所得をみてみると、「診療所」では「3,000 万円以上」 が 20%強(21.2%)を占め、平均 2,156.3 万円と最も高い水準となっています。
次いで高かったのは、平均 1,706.7 万円の「私立病院」です。
逆に、最も所得が低かったのは「大学病院(旧国公立)」の1,114.5 万円でした。
現在大学病院で勤務している外科医であれば、民間の医療機関への転職で年収を上げられる可能性は非常に高いといえそうです。
また、昨今では在宅医療専門のクリニックにおける外科医のニーズが高まっており、高い年俸が提示されるケースも多くあります。
2,000万を超えるような募集も少なくないので、年収アップを第一条件とする場合にはこのような求人にも目を向けてみると良いでしょう。
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外科医としての市場価値を高めたいと考える場合には、外科領域の専門医や指導医などの資格取得や、スキルを磨き 専門領域をさらに深掘りすることが重要で、年収アップにも直結します。
「いまの年収」という指標だけにとらわれることなく、今までとこれからのキャリアを俯瞰して考えたうえで最適な選択肢を検討していくようにしましょう。
医師専門の転職エージェントを利用すると、医療機関が求める医師像を熟知したコンサルタントがぴったりのキャリアプランを提案してくれます。
転職が確定していない段階でも無料で相談することが可能なので、転職を選択肢として考えている方は一度相談してみるのもおすすめです。
外科医は、高い意識をもって勤務に臨んでいる
最後にもう1つご紹介したいデータがあります。
現在外科医として従事している医師に「再び診療科を選択できるとしたらどの診療科の医師になりたいか」を自由記載方式で聞いたところ、 「外科・一般外科」という回答が45.4%と突出して多い結果となっています。
自由記載では「やっぱり外科」、「外科が好きである」等のコメントが散見され、多くの外科医が高い目的意識のもと外科医として従事していることが伺われます。
特に若手のうちは過酷な労働環境のわりに得られる年収が低いとされる外科医ですが、大きなやりがいを持って仕事に邁進する医師が多いようです。
超高齢化社会を迎えた日本の医療現場では、今後も外科医に対するニーズは高まり続けるでしょう。
外科医として今後もキャリアを積んでいきたい医師の方は、ぜひ様々な働き方の選択肢を知ったうえで、さらなる活躍の場所を検討してみてはいかがでしょうか。
参照)
一般社団法人日本外科学会「平成24年度 日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査報告書」
厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
厚生労働省「外科医の働き方改革に関する課題と 必要な取組」
医療法人社団日本外科学会「外科医希望者の伸び悩みについての再考」
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