医師国保とは、各都道府県や大学の医師会に加入する医師と家族・従業員が加入できる、各都道府県の医師会が主体となって運営する保険制度です。
個人経営のクリニックへの入職や転職をきっかけに、医師国保の存在を知ったという先生もいらっしゃるかもしれません。
この医師国保には、多くの勤務医が加入する協会けんぽ等の社会保険や、自営業の方等が加入する国民健康保険(国保)とは異なる仕組みやルールがあります。
そこで本記事では、協会けんぽとの違いに注目しながら、医師国保の制度内容や加入条件、そして医師国保に加入するメリットとデメリットについてわかりやすく解説します。
医師国保とは、どのような保険制度?
医師国保は、各自治体の医師会が運営している保険制度
医師国保は、各都道府県の医師会が主体となって運営する保険制度です。
全国で一つの組織を成しているのではなく、「東京都医師国民健康保険組合」、「北海道医師国民健康保険組合」など都道府県ごとに異なる名称で運営されており、保険料や保険給付もそれぞれ異なる内容が設定されている点が大きな特徴です。
誰が加入できる?医師国保の加入条件
医師会に所属している従業員5名以下の開業医と家族、従業員が加入できる
医師国保に加入できるのは、各都道府県や大学の医師会に所属している、個人開設の開業医とその家族、従業員です。
従業員は医療従事者に限らず、一定の条件を満たしている事務員やパートタイマーも加入可能です。
また、国民健康保険法第19条の定めにより、医師国保は原則として世帯単位で加入する必要があります。
参照:e-GOV「国民健康保険法」
医療法人および従業員が5名以上の医療機関では、医師国保に加入できない
なお、医療法人および従業員が5名を超える医療機関は、協会けんぽ等の社会保険に加入することが義務付けられている「強制適用事業所」となります。
そのため、該当する医療機関で働いている場合には、医師国保に加入することはできません。
参照:全国健康保険協会「適用事業所とは?」
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医師会によって加入条件は異なるため、加入前に詳細を確認しよう
ただし、運営している医師会によって分類や加入基準が異なってきます。
医師国保への加入を検討する際には、所属する医師会に必ず詳細を確認するようにしましょう。
また、すべての都道府県に医師国保があるわけではないという点にも、注意が必要です。
ご勤務先のある都道府県に医師国保があるか確認したい場合は、以下のサイトに医師国保の一覧が掲載されていますので、参考になさってください。
参照:一般社団法人全国医師国民健康保険組合連合会(全医連)「都道府県医師国民健康保険組合リンク」
医師国保と社会保険(協会けんぽ)の主な違いは?
それでは、医師国保と社会保険には、どのような違いがあるのでしょうか。
多くの勤務医が加入するケースが多い社会保険である協会けんぽとの主な違いを、一覧でまとめたものがこちらの表です。
医師国保 | 協会けんぽ | |
---|---|---|
運営組織 | 各都道府県の医師会 | 全国健康保険協会 |
加入対象 | 各医師会に所属している開業医と従業員、その同一世帯の家族 (ただし「従業員5名以下」の開業医に限る) | 中小企業の従業員とその同一世帯の家族 |
保険料 | 一定 | 給与額に応じて変動 |
保険料負担の割合 | 本人が全額負担 | 勤務先と本人で折半 |
世帯人数による保険料の変動 | あり | なし |
傷病手当金の給付 | なし | あり |
出産手当金 | なし | あり |
育児休暇中の保険料免除 | なし | あり |
年金加入の手続き | 必要(前職で厚生年金に加入していた場合) | 不要 |
前述の運営主体や加入対象以外の違いについて、順にご説明します。
医師国保と社会保険(協会けんぽ)の違い①保険料
医師国保と協会けんぽにおける最も大きな違いは、保険料の算定基準です。
協会けんぽ保険料は、加入者の収入額に応じて設定されます。
つまり、年収が増えれば、その分保険料も上がっていくことになります。
一方医師国保では、年齢や種別に応じた保険料が設定されており、加入者の年収にかかわらず、保険料は一定です。
なお保険料は全国で統一ではなく、以下のように医師会によって異なります。
詳しくは、各医師会・組合にご確認ください。
例:東京都医師国民健康保険組合
・第1種組合員(医師)の医療保険料…27,500円
・第2種組合員(従業員)…13,500円
・家族…7,500円
加えて後期高齢者支援金等保険料として5,000円をそれぞれ納付する必要があります。
40歳~64歳の場合は、介護保険料として5,500円を合算して納入します(2024年2月現在)。
参照:東京都医師国民健康保険組合「保険料について」
例:大阪府医師国民健康保険組合
・75歳以下の組合員の基礎賦課額(医師)…34,300円
・准組合員(従業員)…12,600円
・家族…10,100円
加えて後期高齢者支援金賦課額として5,300円をそれぞれ納付する必要があります。
40歳~64歳の場合は、介護納付金賦課額として6,100円を合算して納入します(2024年2月現在)。
参照:大阪府医師国民健康保険組合「保険料について」
医師国保は、加入する家族の人数分の保険料がかかる
家族の保険料に関しても、医師国保と協会けんぽには違いがあります。
医師国保では、扶養家族にも保険料がかかります。
そのため、同一世帯の加入者が多い場合は、その分保険料負担が増えることになります。
一方で協会けんぽの場合は、扶養家族の収入などの条件によっては保険料が免除されるため、扶養家族が増えても保険料の世帯負担は変わりません。
医師国保と社会保険(協会けんぽ)の違い②保険料負担の割合
協会けんぽの保険料は、事業主と社員が折半で負担することになっています。
一方の医師国保では、保険料の事業主負担はないため、全額を社員が負担します。
医師国保と社会保険(協会けんぽ)の違い③傷病手当金や出産手当等、保険給付の内容
医師国保と協会けんぽは、どちらも国民健康保険法に基づいた制度です。
そのため医師国保の保険給付は国民健康保険とほぼ同じ内容で、医療費の一部負担制度や各種健診をはじめ、高額療養費の一部払い戻しや出産一時金の支給もあります。
ただし、協会けんぽにおける保険給付が医師国保には存在せず、同等に給付されないケースもあるため注意が必要です。
具体的には、以下のようなものは医師国保の保険給付には含まれません。
・病気やケガの療養のために休業したときに支払われる「傷病手当金」
・産前や産後に休業したときに支払われる「出産手当金」
上記の傷病手当金と出産手当金・出産育児一時金は、実施が義務付けられていない「任意給付」に該当します。
この「任意給付」は法律で義務付けられた給付ではなく、あくまで保険者が独自に給付することが認められているものであることから、支給を行っていない医師国保も多いのです。
ただし、独自でこれらの給付を行っている医師国保もありますので、加入を検討している国保の給付内容はしっかり確認しておきましょう。
医師国保と社会保険(協会けんぽ)の違い④年金加入の手続き有無
医師国保に加入する場合は、自身で厚生年金から国民年金の切り替え手続きを行う必要があります。
以前から国民年金を選択していた場合には、手続き不要です。
しかし以前は厚生年金で、転職によって医師国保を選択した場合、厚生年金から国民年金に自動変更されることはありませんので、自身で加入手続きを行いましょう。
医師が医師国保に加入するメリット・デメリットとは?
ここまでご紹介してきたように、医師国保と社会保険(協会けんぽ)では異なる点がいくつもあります。
これらの違いを踏まえて、医師国保に加入した場合のメリットと、注意すべきデメリットを整理してみましょう。
医師が医師国保に加入するメリット
医師国保に加入することで期待できるメリットは、以下の2つです。
・保険料が一定なので、収入に占める保険料の割合を抑えられる
・独自の付加給付制度を受けられる
保険料が一定なので、収入に占める保険料の割合を抑えられる
医師国保の最も大きな特徴でありメリットといえるのは、収入にかかわらず保険料が一定であることでしょう。
医師国保の場合、転職や勤続年数、勤務形態の変化などによって収入が変動しても、支払う保険料は変わりません。
一方で協会けんぽ等の社会保険や国保の場合は、収入が高くなるほど保険料も高くなります。
よって、収入にかかわらず保険料が一定である医師国保の保険料は、高収入な医師にとっては割安となるケースが大半となっています。
独自の付加給付制度を受けられる
加えて、加入する医師国保によっては、通常の健康保険等より充実した保険給付を受けられる点もメリットの一つです。
たとえば東京都医師国民健康保険組合では、出産一時金について法定給付の50万円に加えて、独自の付加給付・3万円を追加して53万円を支給しています(2024年2月現在)。
参照)東京都医師国民健康保険組合「出産一時金」
医師会によって保険給付の内容が異なりますので、内容は各医師国保のホームページ等でご確認ください。
医師が医師国保に加入するデメリット
医師国保に加入する際に気を付けておきたいデメリットは、以下の4つです。
・収入が少ないときには、保険料が割高になる
・世帯人数が増えるごとに、支払う保険料が増える
・出産手当金や傷病手当金、産休・育休中の社会保険料の免除がない
・自家診療の保険請求ができないケースが大半
収入が少ないときには、保険料が割高になる
収入にかかわらず保険料が一定である医師国保では、勤務先の経営難などによって収入が減ったときにも決まった額の保険料を納める必要があります。
その場合、収入に占める保険料の割合が高くなってしまう可能性もあるでしょう。
世帯人数が増えるごとに、支払う保険料が増える
協会けんぽ等の社会保険では、扶養家族の収入などの条件によって保険料が免除されるため、扶養家族が増えても保険料の世帯負担は変わりません。
一方の医師国保には扶養という概念がないため、同一世帯の家族が増えれば増えた分、保険料を支払わなければなりません。
出産手当金や傷病手当金、産休・育休中の保険料免除がない
また協会けんぽ等の社会保険加入者に支給される「出産手当金」や「傷病手当金」にあたるものが、医師国保にはありません。
産前・産後休業期間・育児休業期間中に、厚生年金や健康保険料の社会保険料が免除される制度も、社会保険加入者のみに適用されるものとなっています。
よって医師国保に加入している場合には、出産や突然の病気・ケガに対する備えを自身で行っておく必要があります。
自家診療の保険請求ができないケースが大半
医師が、自身や自身の家族、従業員に対し診察し治療を行うことを、自家診療といいます。
医師国保に加入している場合、この自家診療の保険請求は原則できない場合がほとんどです。
例えば東京都医師国民健康保険組合のホームページには、以下のような記載があります。
当組合の被保険者の方が、自己又は家族の所属する保険医療機関において療養を受けた場合、自家診療となり、請求および給付ができないことになっております。
東京都医師国民健康保険組合「自家診療について」
当組合では、「組合規約」や「給付規程」でこれを規定しています。
なお、自家診療の請求が判明した場合は、その時点から3年間遡及し、該当の診療報酬明細書(調剤を含む)を返戻させていただきます。
皆様のご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。
自家診療に該当する例
①同一世帯に属する者についての診療
②所属する医療機関で受けた診療
③開設者が所属の医療機関で受けた診療
④これらの診療に付随する、処方箋による調剤レセプトや、診断書・同意書・証明書による療養費の申請(補装具、はり、きゅう、マッサージ等)
ただし医師国保でも、「薬剤のみは保険請求できる」「離島などのへき地に赴任する場合は例外として認められる」等の例外が認められるケースもあります。
参照:福岡県医師国民健康保険組合「自家診療について」
また、協会けんぽなど医師国保以外の保険制度の場合には、保険者により取扱いが異なるようですので、自家診療を利用する予定がある場合には保険者に確認しておくと安心です。
参照:厚生労働省保険局医療課医療指導監査室「保険診療の理解のために【医科】(令和5年度)」
医師国保は、収入にかかわらず保険料が一定であることが大きな魅力です。
ただし加入する医師国保によって条件が異なったり、注意すべき点もあったりしますので、事前に情報収集し、家族構成や収入などを総合的に考慮した上で加入を検討することが大切です。
もし求人を検討する際に「この医院に入職した場合に加入するのは、医師国保?それとも社会保険?」等のご不明な点があれば、Dr.転職なびまでお気軽にお問い合わせください。
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