Artificial Intelligenceの略称で、「人工的な知能」を意味するAI。
昨今は、アメリカのOpenAI社が開発した対話型の人工知能・ChatGPTが大きな話題となっています。
医療分野においても、2022年度の診療報酬改定で「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用となりました。
また、厚生労働省では「高齢化や出生率の低下、そして増え続ける国民医療費増加などの課題を克服するためにイノベーション(技術革新)を積極的に促進し、取り入れる必要がある」としています。
参照)厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会 報告書」
このように国を上げてAI技術の活用が推進されている日本ですが、医療現場で働く医師は業務の中でどのくらいAIを活用しているのでしょうか。
今回「Dr.転職なび」では、会員医師にアンケートを実施。
その結果や業務でAIを実際に使用した先生のリアルな声をご紹介しながら、医師のAI活用の実情や向き合い方について調査しました。
医師業務におけるAIの使用状況は?
64.1%の医師は、業務でAIを「使用したことがない」
まず、これまでの勤務のなかでAI技術を使用した経験の有無を聞きました。
上記のグラフのように、「使用したことがある」と回答した医師は全体の35.9%。
一方で「使用したことはない」医師は、6割以上を占めています。
最も多くの医師が業務で使用しているAI技術は「AI問診」
さらに、上記で「使用したことがある」と答えた医師に どのようなAIを使用したことがあるか尋ねました。
Q:以下の中から、「これまでのご勤務の中で利用したことがあるAI技術」があれば教えてください。(複数選択可)
最も多かったのは「AI問診」(回答数:52)で、次いで「CTやMRIなどの医用画像の分析」(回答数:46)、「ChatGPTなどの大規模言語モデルによる医学論文の作成支援」(回答数:35)となっています。
業務上でAIを使用した医師が感じた所感として、以下のようなコメントも寄せられています。
AI問診
・間違いが減る。時間短縮につながる。(30代/一般内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・AI問診は全く使えなかった。(40代/総合診療科/勤務医(大学病院))
CTやMRIなどの医用画像の分析
・胸部レントゲンや、胸腹部CTの読影スキルはある。(60代/一般内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・内視鏡での腫瘍の悪性度診断支援を使ったが、診療の後押しになった。(40代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・心電図の診断では、すでに20年以上前から見落とし減少に役立っている。(60代/内分泌科/勤務医(大学病院以外の病院))
ChatGPTなど大規模言語モデルによる医学論文の作成支援
・ChatGPTは非常に優れた成果を示した。その一方で、素人を騙す「機械的無意味」を生産しうることに注意する必要がある。無意味なまとめサイトから学習したため?(30代/泌尿器科/勤務医(大学病院))
・無料版のChatGPTしか使用していないが、あまり精度は高くないように感じる。(40代/総合診療科/勤務医(大学病院))
音声認識によるカルテ作成支援
・実際に打ち込む方が良かった。(40代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院))
・数年前ですが音声認識は精度が低く、使い勝手が悪かったです。(40代/腎臓内科/勤務医(大学病院以外の病院))
ディープラーニングを使用した画像診断システム(疾病リスク予測)
・診断が早く、再現性がある診断が得られるので、非常に役立つ。(50代/泌尿器科/勤務医(大学病院以外の病院))
医師がこれから使ってみたいAIは「CTやMRIなど医用画像の分析」
続いて、今後業務で使用してみたいAIについて聞きました。
Q;以下の中から、ご自身が「今後使ってみたいと感じるAI技術」があれば教えてください。(複数選択可)
最も多かったのは「CTやMRIなどの医用画像の分析」(回答数:239)、次いで「AI問診」(回答数:154)、「ChatGPTなどの大規模言語モデルによる医学論文の作成支援」(回答数:135)となっています。
今後そのAIを使用してみたいと考える理由として、以下のようなコメントも寄せられています。
CTやMRIなど医用画像の分析
・外来混雑時に数分で結果をまとめてもらえると、他の患者に対応できて仕事がスムーズに効率よく進むと思う。(50代/整形外科/開業医)
・ヒトの経験には頼るところがありますが、あるところのレベルまでAIが引き上げてくれると助かるかもしれません。(50代/小児科/勤務医(大学病院))
・CTやMRIの画像を自らで読影し患者に説明した後、放射線科医の読影によって所見の見落としを指摘されたり、AIの読影によって想定外の所見を指摘された経験がある。
常勤の放射線科医がいない病院での勤務時の、補助として有用と思う。(50代/一般内科/勤務医(大学病院以外の病院))
AI問診
・問診は時間がかかるため。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
・パターン化できるものは、人より機械に頼んだほうが正確だと思います。
めまい感のときに確認する項目、電解質異常のときに確認する項目、〇〇スコアなどなど、日常診療では「お約束」になっている診療多いですからね。(40代/腎臓内科/勤務医(大学病院以外の病院))
ChatGPTなど大規模言語モデルによる医学論文の作成支援
・英語論文を書くのはやはり大変なので、「日本語を英語に訳す」等で使用してみたいです。(40代/消化器外科/勤務医(診療所・クリニック))
レセプトのチェック支援
・書類仕事を減らしたい。(30代 /整形外科/非常勤のみ)
・レセプトのチェックは、人間よりもAIの方が得意だと感じます。(50代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
音声認識によるカルテ作成支援
・患者様を見ながら話す時間が増えると思うので。(40代/総合診療科/勤務医(大学病院))
・会話の内容を、正確に記録しておきたいです。(40代/糖尿病内科/勤務医(大学病院以外の病院))
医師のAIとの向き合い方は?
今後は医療現場においても普及が加速し、医師にとってより身近なものとなっていくであろうAI。
技術革新が進む中でこれまでと変わらず患者様の命や健康を守り続ける医師たちは、AIとどのような向き合い方をしていくのでしょうか。
95.3%の医師は、業務へのAI活用は「メリットが大きい」と考えている
医師にとって、医療分野におけるAIの活用は「メリット」と「デメリット」のどちらが大きいと考えているのでしょう。
Q:医療分野におけるAIの活用は、医師にとって「メリット」と「デメリット」のどちらがより大きいと思いますか?
上記のように、「メリットが大きい」と回答した医師が95.3%を占めています。
医療現場でAI技術を活用することについて、大半の医師がポジティブな捉え方をしているようです。
医療現場におけるAI活用のメリットは、人的エラーの削減ができること
続いて「メリットが大きい」と回答した医師に向けて、さらに具体的な内容を尋ねました。
Q:具体的に、どのようなメリットがあると思いますか?(複数選択可)
その結果、突出して多かったのは「見逃しや誤診など、人的なエラーを減らすことができる」(回答数:290)でした。
次いで「診断の精度が向上する」(回答数:241)、「診断書作成やレセプトの処理など、事務作業などの業務負担が減る」(回答数:209)となっています。
見逃しや誤診など、人的なエラーを減らすことができる
・医療から人をなくしきれない部分がある一方で、その分人的ミスもやはり大きい課題だと感じる。その中でAIなどの使用は、未来に向けてメリットは多いと思います。(40代/心療内科/産業医)
・将棋ソフトの進化を見れば、客観的なデータに基づく診療・治療を提供することや、診断の精度向上、見逃しや誤診などの人的なエラー削減については期待できそう。(50代/一般内科/開業医)
客観的なデータに基づく診療・治療を提供できる
・AIの診断所見、治療指針を患者さんの説明にも一般的に使えるようになれば、医療水準が平均化され、患者さんも納得しやすくなるかもしれない。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
医療現場におけるAI活用のデメリットは、責任の所在が不明確であること
次に、医療現場においてAI技術を活用することに対して「デメリットが大きい」と回答した医師に向けて具体的な理由を尋ねました。
Q:具体的に、どのようなデメリットがあると思いますか?(複数選択可)
最も多かった理由は、「判断や作業に何か問題があった時に、責任の所在が不明確になる」(回答数:8)です。
人の命や健康を守る責務を負う医師だからこそ、しっかりと責任をもって業務に臨みたいと考える方が多いようです。
判断や作業に何か問題があった時に、責任の所在が不明瞭になる
・医師が負う責任は変わらない。AIが責任を取ることはないから。(60代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・AIによる画像診断や病理診断には、少し抵抗があります。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
8割を超える医師は、業務におけるAI活用に抵抗がない
最後に、医師の業務におけるAI活用に対する抵抗感について尋ねました。
Q:「仕事上のパートナーとしてAIを活用する」ことをイメージした際、抵抗感はありますか?
上記のグラフのように、「あまり抵抗はない」(55.7%)が最多となり、次いで「全く抵抗がない」(25%)、「ある程度抵抗がある」(16.9%)となっています。
全体的にみてみると、「抵抗がない」と回答した医師が80.7%を占めており(「あまり抵抗はない」「全く抵抗がない」の回答を合計)、業務でAIを活用することに対してポジティブな考えを持つ医師が多いことが伺われます。
年代別にみてみると、「全く抵抗がない」医師の割合が最も高いのは20代で、次いで70代、30代でした。
一方で、「非常に抵抗がある」医師の割合が最も高いのも20代であり、次いで60代、50代という結果となっています。
全く抵抗はない
・医療に専念できるようになるから。(40代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院)
・知識やデータなどは、どうしても人の頭で処理できる限界があります。人でないとできない判断の部分や、実際の手技などを医師が担えればもっと効率よく、精度よく働ける気がします。(40代/腎臓内科/勤務医(大学病院以外の病院)
あまり抵抗はない
・やはり読影については、大いに参考になりうる。(60代/一般内科/勤務医(大学病院以外の病院)
・実際に仕事の軽減や人的ミスの回避に関しては、有用な部分が多いと思います。(40代/心療内科/産業医)
・働き方改革という割に、求められる医療の質やそれに付随する各種同意書は増える一方。そのため、AIの補助は必須になってくる。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
ある程度抵抗がある
・(AI側に)予想外のミスもあり得るため。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
・AIのミスは、誰の責任になるのか不明。(40代/消化器外科/勤務医(大学病院以外の病院))
・AIに依存していくことで、自分であまり考えなくなってしまいそう。(40代/放射線科/勤務医(大学病院以外の病院))
・導入する費用が高そうなので、購入できない可能性があります。(30代/眼科/勤務医(大学病院以外の病院)
非常に抵抗がある
・責任の所在がはっきりしない。(40代/一般外科/勤務医(大学病院以外の病院)
・アルゴリズムがはっきりしないものに任せることに、抵抗感があります。(30代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院)
・医師は、仕事を失うだろう。(非常に抵抗がある/50代/脳神経内科/開業医)
以上、医師のAI活用の実情と向き合い方についてお伝えしました。
日進月歩で進歩を続けるAI技術は、医療現場で日々診療にあたる医師の業務をサポートしてくれる、頼れるパートナーになり得るものかもしれません。
一方で、何か問題が発生してしまった時の責任の所在が不明瞭、個人情報漏洩などのセキュリティ面で不安があるといった声も少なからず聞かれることも事実です。
今後も勤務先における導入状況や対応・方針も随時確認しながら、上手に活用していく姿勢が求められるでしょう。
後編記事では、「AIが医療や医師の働き方に及ぼす影響」に関する調査結果をご紹介。
ぜひこちらの記事も、合わせてご覧ください。
(※)調査概要「医療現場におけるAI活用に関するアンケート」
調査日:2023年3月28日~4月4日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:webアンケート
有効回答数:384