前編では 医療現場におけるAI活用の実情と、医師の向き合い方をお伝えしました。
後編となる本稿では、AIの活用によって医師が担う業務や働き方にはどのような影響があるか、「Dr.転職なび」の会員医師384名に調査したアンケート結果をご紹介します。
先生方からお寄せいただいたリアルな声を、早速ご高覧ください。
医療現場におけるAI活用で、医師の仕事はどう変わる?
医用画像の分析や問診など、今は多くの医師が自身で担当している業務を、AIが代わりに担ってくれたら…?
医療現場におけるAI活用が進むと、医師の業務や働き方にはどのような影響があるのでしょうか。
本章では、医療現場におけるAI普及と医師の業務、意欲に関する3つの質問と、医師からの回答・コメントをそれぞれご紹介します。
91.2%の医師は、AIの普及で医師業務の効率は「上がる」と回答
Q:医療現場におけるAI活用により、「医師が担う業務の効率や生産性」にはどのような影響があると思いますか?
最も多かったのは「ある程度向上する」(59.9%)で、次いで「大いに向上する」(31.3%)「これまでと変わらない」(8.1%)となりました。
医師からのコメントでは、画像診断や毎月のレセプト(診療報酬明細書)確認において有用なのではという期待の声が特に多く寄せられました。
大いに向上する
・内視鏡検査などの画像のAIでの確認は、ダブルチェックの役割を果たすと思います。(60代/消化器外科/勤務医(大学病院))
・レセプトチェックなど、雑用が減る。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
・医師の仕事は減るだろう。(40代/消化器外科/勤務医(大学病院以外の病院))
ある程度向上する
・画像診断などの時間が短縮できると思う。(40代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院))
・事務作業面、また人的ミスの回避・軽減はできるのではないかと思います。(40代/心療内科/産業医)
・レセプトは大変なので、向上すると思います。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
83.5%の医師は、AIの普及で医師の業務負担は「軽減する」と回答
Q:医療現場におけるAI活用により、「医師が担う業務の負担」にはどのような影響があると思いますか?
最も多かったのは「ある程度負担が軽減する」(63.5%)で、次いで「大幅に負担が軽減する」(20.3%)「これまでと変わらない」(13.8%)となりました。
コメントでは、医師がAIによるミスを確認する必要があることや、患者様への説明やクレーム対応が新たに発生してしまう可能性もあり、単純な医師の負担減には繋がらないのではという意見も寄せられました。
ある程度負担が軽減する
・書類の作成、処方箋の疑義など。(40代/一般内科(訪問診療)/勤務医(診療所・クリニック))
・画像診断などは、負担が減ると思う。(40代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院))
・「(AIの)ミスは確認しなくてはいけない」という課題は残ります。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
これまでと変わらない
・AIで減った分は、AIのした仕事をチェックする仕事が増えると思う。(30代/整形外科/勤務医(非常勤のみ))
・最終確認は現時点で人間の仕事。
通常の人間の思考過程と異なる分析経路が伴うことから、それを理解することと実用への摺り合わせに別途労力や時間を割く必要がある。
そのため、精度などは上がる代わりに、現状の深層学習併用プログラムでは業務量としては変わらないかと。(40代/放射線科 /勤務医(大学病院以外の病院))
・責任は人が取る。(50代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院))
少し負担が増加する
・導入期間は、何事もむしろ大変になる。(30代/泌尿器科/勤務医(大学病院))
・問診AIを想定した場合、高齢者が多い現状を考えると、患者がAIへ抵抗感を示す可能性が大いにある。
その説明やクレーム対応に、時間を割かれるかもしれない。(30代/眼科/勤務医(大学病院以外の病院))
大幅に負担が増加する
・結局、ダブルチェックが必要。(30代/放射線科/勤務医(大学病院))
83.3%の医師は、AIの普及で医療の質は「向上する」と回答
Q:医療現場におけるAI活用により、「医療の質」にはどのような影響があると思いますか?
最も多かったのは「ある程度向上する」(68.5%)で、次いで「大いに向上する」(14.8%)「これまでと変わらない」(14.8%)となりました。
コメントでは、これまで医師が担っていた作業をAIが担当することにより、医師はより注力すべき業務に集中でき、結果として提供する医療の質が上がるといったAIとの協業に期待する声が上がっていました。
一方で、医療の質を低下させないためにはAIが導き出す情報を鵜呑みにするのではなく、医師が総合的な主導権を持ち、これまで培ってきた知見や経験をもとに判断をしていく必要があるという意見も寄せられています。
大いに向上する
・従来信じられてきたものとは異なる疾患概念、疾患の特徴、分類、治療法をAIが生み出すことにより、診療が画期的に変革する可能性がある。(30代/眼科/勤務医(大学病院以外の病院))
ある程度向上する
・「画像などの見落としが減る」とは噂に聞いているから。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
・事務的なところの負担を軽減して、注意すべきポイントに注力出来そう。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
・急速な医学の進歩について行くための一助になると思うので、質の向上にも寄与するのではないか。(50代/一般内科/開業医)
・AIの精度と使う側の問題。
AIが出した回答を素直に信じるような医師が増えれば、医療の質は大幅に劣化する可能性がある。(40代/総合診療科/勤務医(大学病院))
これまでと変わらない
・結局のところ、使用する医師側の資質によると考えるため。(50代/その他/行政関係)
医療現場におけるAI活用で、医師の働き方はどう変わる?
入力した質問に対して自然な言葉で返答してくれる高度な対話型AI「ChatGPT」は、2022年11月末に公開されて以来、世界中で大きな話題となっています。
また同時に、この「ChatGPT」の登場によって雇用が脅かされる、つまり仕事が奪われてしまう職種も出てくるのでは?という議論も巻き起こりました。
同様に、医療現場におけるAI活用が今よりさらに進んだ場合、医師の雇用や働き方にはどのような影響があるのでしょうか。
続いて、医療現場におけるAI普及と医師の働き方・雇用に関する3つの質問と、医師からの回答・コメントをそれぞれご紹介します。
49.8%の医師が、AIの普及で医師の業務への意欲は「向上する」と回答
Q:医療現場におけるAI活用により、「医師が業務に取り組む意欲」にはどのような影響があると思いますか?
最も多かったのは「これまでと変わらない」(45.6%)で、次いで「ある程度向上する」(37.8%)「大いに向上する」(12.8%)となりました。
全体的にみてみると、「向上する」が49.8%(「ある程度向上する」「大いに向上する」を合計)、次いで「これまでと変わらない」が45.6%、「低下する」が4.6%(「少し低下する」「大いに低下する」を合計)となっています。
医師からは、AI活用により業務負担を軽減できた分、診療などに集中できるようになるといった声が寄せられています。
大いに向上する
・やる気が出る。(50代/循環器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
ある程度向上する
・負担が減れば、意欲につながるのではないでしょうか。(40代/心療内科/産業医)
・雑用が減るかなと。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
・大事なところに注力出来そう。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
これまでと変わらない
・電子カルテになった時と同程度と思う。(30代/整形外科/勤務医(非常勤のみ))
・生活が豊かになってきた歴史と同じで、良いところと悪いところが両方あろう。(50代/脳神経内科/開業医)
・できることをやるだけ。(50代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院))
33.3%の医師は、AIの普及で医師の雇用が「減る」と回答
Q:医療現場におけるAI活用により、「医師の雇用」にはどのような影響があると思いますか?
最も多かったのは「これまでと変わらない」(64.8%)で、次いで「雇用の機会が減る」(33.3%)「雇用の機会が増える」(1.8%)となりました。
医師のコメントでは、AIはあくまでツールであり責任を負うのは人間である医師なので、これまでと変わらないという意見が多く寄せられています。
医療上、何らかのミスや問題が発生したとき、AIは責任を取ることができません。
このような場合、一般的に責任を取るのは直接治療に当たった医師です。
医療は、一人の人間を相手として提供されるものです。
倫理的な視点からしても、AIではなく医師による、真摯に原因を究明する姿勢が患者様からは求められるでしょう。
また、AIが得意とする読影や診断といった領域を専門とする医師については雇用の機会が減る可能性があるのでは、としている医師も複数名いました。
これまでと変わらない
・責任者としての役割がどうしても必要な以上、医師雇用の機会は変わらないと考えます。(40代/健診・ドック/勤務医(非常勤のみ))
・医師の雇用は変わらない。医者の責任は変わらない。AIが責任ととることはないから。(60代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・AIを使いこなせる医師の需要は増える。
かといって、使いこなせない医師を排除できるものとは限らない…。(30代/泌尿器科/勤務医(大学病院))
雇用の機会が減る
・現状では、画像診断はAIだけに頼る訳にはいかないと考える。
しかし今後さらにAIが進化した場合は、読影や診断に特化した医師の雇用は減るかもしれない。(50代/眼科/勤務医(健診施設や老健など))
・AIがカバーできるところは大きく減ると思う。読影とか健診とか。(40代/消化器外科/勤務医(大学病院以外の病院))
80.0%の医師は、AIの普及で医師の働き方に「良い影響がある」と回答
Q:医療現場におけるAI活用により、「医師の働き方」にはどのような影響があると思いますか?
最も多かったのは「ある程度良い影響がある」(62.2%)で、次いで「これまでと変わらない」(20.3%)、「非常に良い影響がある」(13.8%)となりました。
医師からのコメントでは、AI活用による業務効率の向上によって医師の負担が減り、長時間勤務の是正に繋がるのではというポジティブな意見が寄せられました。
一方で、AI導入によって医師の業務が増えてしまうのではないか、医師の研究意欲を削いでしまうのではないかといった懸念点も挙げられています。
非常に良い影響がある
・医師の数が要らなくなる。(50代/整形外科/勤務医(大学病院以外の病院))
・仕事量は減りそう。(40代/消化器外科/勤務医(大学病院以外の病院))
ある程度良い影響がある
・労働時間の短縮になると思う。(40代/精神科/勤務医(大学病院以外の病院))
・説明や記録など、本業にも雑用にも助けになりそう。(50代/一般内科/開業医)
・カルテ作成支援などでは良い方に働くかもしれない。
一方で、「AIに任せるから」と事務関係の人員削減をすると結局しわ寄せが来ると思われる。(40代 /総合診療科/勤務医(大学病院))
・組織がそれを許容するか、で決まる。(30代/泌尿器科/勤務医(大学病院))
これまでと変わらない
・医事請求などが変遷しても、そのシステムに従うのみで全く感慨がない。
いずれにせよ、忙しくて。(50代/脳神経内科/開業医)
少し悪い影響がある
・尻拭いが大変。(50代/小児科/勤務医(大学病院))
・医師が疾患の特徴について、あまり考えなくなるかもしれない。
また、AIさえあれば誰でも診断できてしまうようになると、医師の資格が必要かどうかの議論が巻き起こるかもしれない。(30代/眼科/勤務医(大学病院以外の病院))
非常に悪い影響がある
・医師のアイデンティティにかかわる問題であり、仕事を失いかねません。(50代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
以上、医療現場のAI活用による医師業務や働き方への影響についてお伝えしました。
ご紹介してきた調査結果を振り返ってみると、大半の医師は医療現場におけるAIの導入・活用について「AIと医師がそれぞれの得意分野で協業することで、大きな成果を生み出せる」「業務を効率化し、医師の負担を軽減してくれる」と、ポジティブな捉え方をしていることが分かります。
一方で、「医師として研鑽を積む精神を失いかねない」「最後はやはり人である医師が責任を取ることになるため、AIに依存しすぎてはならない」と、警鐘にも似たご意見を寄せてくださった先生もいらっしゃいました。
人の健康と命に向き合い続ける最前線で働く医師は、どこまでAI技術を活用していくべきなのか。
おそらく今後も、様々な立場の人から様々な意見が出るでしょう。
ご勤務先の方針は?患者様や、医療機関から求められる医師像とは?
日々変化する時代の流れに置き去りにされないために、ご自身の周囲の状況だけでなく広くアンテナを張り、多角的な情報収集を行っておくと良いかもしれません。
(※)調査概要「医療現場におけるAI活用に関するアンケート」
調査日:2023年3月28日~4月4日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:webアンケート
有効回答数:384