人々の命や健康と向き合いながら、複雑な人間関係の中で多忙に働いている医師は、とりわけ多くのストレスがかかる職種と言われます。
本記事では、医師452名にアンケートを実施。
仕事上のストレスや心の不調による休職・転職事情や医師が仕事で感じているストレスの要因、医師・勤務先によるメンタルヘルスケアの状況等を調査しました。
目次
仕事上のストレスや心の不調による、医師の休職・転職事情
24.5%の医師が、ストレスや心の不調による休職や転職を経験
仕事上のストレスが積み重なったり心の不調が続いたりした結果として、働くことを一定期間やめる「休職」や、他の勤務先を探す「転職」という選択肢をえらぶ医師もいます。
Q:仕事上のストレスや心の不調が要因で休職をしたり、転職したりした経験はありますか?
今回の調査では、仕事上のストレスや心の不調から「休職または転職をしたことがある」と回答した医師がおよそ4人に1人の割合を占めました。
休職や転職に至った具体的な要因や経緯については、以下のようなコメントが寄せられています。
◆過重な業務
・毎日のように業務に忙殺され、どうしても仕事場に足が向かず、欠勤しがちになった。(休職・転職の両方をしたことがある/40代/眼科/勤務医(大学病院以外の病院))
・出張が多すぎて家に帰れず、ストレスがたまった。(転職したことがある/50代/形成外科/勤務医(診療所・クリニック))
・当直が多く、その科での未来が描けなくなった。(転職したことがある/40代/一般内科(訪問診療)/勤務医(診療所・クリニック))
◆上司や同僚との人間関係
・上司からのパワハラが、尋常ではなかった。(転職したことがある/50代/病理診断科/勤務医(大学病院))
・同じ科の先生の考えが自分と合わずイライラすることが増え、仕事自体のモチベーションが低下してしまった。(転職したことがある/50代/脳神経内科/勤務医(大学病院以外の病院))
医師が仕事で感じているストレスや心の不調と、その要因は?
それでは、どのくらいの医師が仕事上でストレスやメンタル不調を感じているのでしょうか。
また その要因となるのは、どのようなことなのでしょう。
およそ7割の医師は、仕事上でストレスやメンタル不調を感じている
最初に、医師が仕事において感じているストレスやメンタル不調の状況について尋ねました。
Q:現在仕事上のストレスや、それに起因する心の不調を感じていますか?
最も多くなったのは、「適度に感じている」(48%)という回答でした。
「適度に感じている」(20.6%)と合わせると、仕事上 何らかのストレスを感じている医師は全体の68.6%を占めていることになります。
仕事で医師が感じるストレス・心の不調の要因は「業務量の多さ」が最多
続いて、医師が仕事上感じているストレスや心の不調の要因について聞きました。
Q:仕事上感じるストレスや心の不調の要因として、特に当てはまるものを5つまで教えてください。
第1位「業務量が多すぎる」
・長時間の難しい手術が終わったら、患者の家族への説明。
術後管理もあるのに、救急対応に呼ばれるなど、ほとんどの業務を自分が担当している。(50代/脳神経外科/勤務医(大学病院以外の病院))
・上と下との間の中間管理職的なことをしており、対応が大変。(30代/糖尿病内科/勤務医(大学病院))
2位「給与や手当など、経済的なことに不満がある」
・医師の働き方改革に伴い、必要な時間外業務が認められない方針となった。(30代/総合診療科/勤務医(大学病院以外の病院))
・給与が時間外をつけても1300万で、後期研修医の時と全く同じ。
平日の研究日などに外勤して給与を上乗せしてやりくりしているが、そろそろ医局は卒業しようと考えている。(40代/内分泌科/勤務医(大学病院以外の病院))
3位「仕事と家庭・プライベートの両立が難しい」
・両立は常にギリギリのラインでやっているが、当直や時間外を担当している先生の一部から不満に思われているかもしれないと気は使っている。(30代/腎臓内科/勤務医(大学病院))
このように、仕事の量や質、周囲との対人関係をはじめとする様々な要因が、医師のストレスや心の不調の要因となっているようです。
医師自身や勤務先による、「医師のメンタルヘルスケア」の状況
続いて、医師のメンタルヘルスを健康に維持するために、医師自身や医療機関が実施しているケアについて聞きました。
医師自身による、自分の心の整え方は?
54.6%の医師が、日常的なストレス軽減法・解消法を持っている
Q:仕事上のストレスを感じたとき、日常的に行っているストレス軽減法や解消法はありますか?
上記のように、半数を超える医師が日常的に実践しているストレス軽減法や解消法を持っていると回答しました。
「仕事から離れる時間」を作ることでリフレッシュしている医師が多い
合わせて具体的な方法を尋ねたところ、以下のような結果となりました。
Q:具体的にどのような方法ですか?特に当てはまるものを、5つまで教えてください。
・エアロビクスダンス、水泳を週2回行っています。自宅でも、YouTubeを見ながら踊っています。(60代/消化器内科/勤務医(診療所・クリニック))
・筋トレは、全てを忘れさせてくれる。没頭できて、身体も変わるのでおすすめです。(30代/循環器内科/勤務医(大学病院))
・月に一度は友達とランチに行き、美味しいものを食べて、愚痴を言い合います。(50代/健診医/勤務医(健診施設や老健など))
・何も考えずにひたすら料理すると、スッキリします。(50代/一般内科/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))
医師の業務から一旦離れて好きなものや好きなことを楽しんだり、何かに没頭できる時間を作ったりすることで気持ちを切り替えている医師が多いようです。
環境を変えて医師として働く「アルバイト」も、気分転換に繋がる
一方で、通常の業務からは離れた環境で医師として働く「アルバイトをする」(回答数:15)ことも気持ちを立て直す方法の一つになるという声も寄せられています。
・色々なところに外勤に行くと、意外と面白い。(40代/内分泌科/勤務医(大学病院以外の病院))
・いつもの病院ではないところで外勤すると、気分転換にもなる。(50代/脳神経外科/勤務医(大学病院以外の病院))
勤務先による、医師のメンタルヘルスケアの状況は?
続いて、勤務先の医療機関による医師のメンタルヘルスに対するサポート状況を調査しました。
45.6%の医師は、仕事上のストレスや心の不調を「相談できる相手がいない」
第三者に自分の素直な気持ちを話すことは、心の健康を保つために有効な方法の1つです。
それでは医師が仕事でストレスや心の不調を感じたとき、身近に相談できる相手はいるのでしょうか。
Q:仕事上のストレスや心の不調を感じたときに、相談できる相手はいますか?
上記のグラフが示すように「相談できる相手がいる」医師は全体の54.4%にとどまり、45.6%の医師は「相談できる相手がいない」状況であることが分かります。
相談相手の最多は「配偶者」で、院内関係者に相談する医師は少数
なお、「相談できる相手がいる」と回答した医師の相談相手で最も多かったのは「夫・妻などの配偶者」(回答数:179)でした。
一方で「同僚の医師」(回答数:24)、「上司の医師」(回答数:13)、「先輩の医師」(回答数:11)といった周囲の医師や「勤務先の産業医」(回答数:2)といった院内の関係者に相談する医師は少数派となっています。
「ストレスチェックを毎年受けている」医師は、わずか41.9%
次に、法で定められているメンタルヘルス対策の実施状況について聞きました。
労働安全衛生法では、常時50人以上の従業員を雇用する事業場の場合、「ストレスチェック」を年1回以上実施することが義務とされています。
ストレスチェック制度は、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに職場環境改善につなげることを目的としたものです。
また働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止する一次予防の役割も担っています。
参照:厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
しかし本調査においては、従業員が50名以上の医療機関で勤務する医師のうち「ストレスチェックを毎年受けている」と回答した医師は41.9%にとどまりました。
Q:これまでに、ストレスチェックを受けた経験はありますか?(従業員50名以上の勤務先で働く医師の回答)
毎年のストレスチェックを受けていない医師は、上記のようなメンタルヘルス不調の予防策を適正に享受できていない状況ともいえるでしょう。
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医師に休職や転職を思いとどまらせるのは、強い責任感と自己犠牲の精神
仕事上でストレスや心の不調を感じながらも「休職」や「転職」をしなかった医師に、その理由を聞いたところ、突出して多くなったのは「休職や転職をするほどではないと思ったから」(回答数:200)です。
Q:休職や転職という選択をしなかったのは、なぜですか?(いくつでも選択可)
・あの時の経験が、いまのキャリアや人間関係につながっている。(30代/脳神経外科/勤務医(大学病院以外の病院))
・若いうちは、仕方がないと思う。(50代/整形外科/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))
・医師に限らず専門性のある職業人には「試練」がある。
それに耐えきれなければ壊れるが、耐えれば苦しい経験が自信の裏付けとなると考え、「試練」として乗り越えることをモチベーションとしていた。(30代/泌尿器科/勤務医(大学病院))
上記のように、苦しかった過去の日々が医師としての経験や人脈に繋がっているという実感から、「ある程度のストレスとは向かい合っていくべき」とする声が複数寄せられました。
医師が、自分自身の限界を見定めるのはとても難しいこと
一方で、「そうとは言い切れない」と警鐘を鳴らす以下のような意見も挙がっています。
・当直や病棟当番ではない日でも、頻回に呼び出しがあった。病院での寝泊まりも多く、いつも瀕死状態だった。
しかし同期や先輩や後輩も同じ状況だったため「戦友」として絆は深まったし、多くの臨床経験や治験を含めた臨床研究や学会発表なども経験出来たと思う。
ただ、当時は若さで乗り切ってきた感じではあるので、長くは続けられなかったと感じる。
実際 周りには肺炎やうつ病で休職する医師が多く、もっと重病になってしまった医師もいる。(40代/呼吸器内科/勤務医(健診施設や老健など))
・自分は完全に心身がダメになる前に回復したので、たまたま結果オーライだった。
しかし、決して人に勧められるものではない。(30代/放射線科/勤務医(大学病院))
自分自身の頑張りや我慢で乗り切れるボーダーラインを見定めることは、多くの人にとって非常に困難な問題です。
加えて、人々の健康や命を守るという責務を負いながら働く医師という職種の場合、その判断はとりわけ難しくなることが推測されます。
仕事上のストレスは無理に抱え込まず、第三者に話してみる
「このままもう少し頑張るべきか」「他の道も検討してみても良いのか」と判断に迷うときには、周囲に意見を求めることが大切とする以下のようなコメントも届いています。
・自分のキャパをオーバーしそうなときは、無理をしない。
異動も転職も、上司などに相談した方がいいと思います。(休職や転職したことを、非常に良い判断だったと思う/40代/呼吸器内科/勤務医(健診施設や老健など))
・責任感の強い医師であるほど、「自分がいないと立ち行かない」と思い詰めてしまうケースが多いように感じる。
身動きが取れなくなる前に周りに話す(相談する相手は非医療者の方が、より客観的に聞いてくれるかもしれません)、早めに転職や休職をするのが良いと思う。(休職や転職をしなかったことを非常に後悔している/40代/健診・ドック/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))
「このまま今の環境にとどまるべきか。それとも…」と迷う場合には、周りの転職経験者の医師などに話を聞いてみることも有効といえるでしょう。
もし適切な相手が見付からない場合には、医師のキャリア形成にも詳しい「第三者」である転職エージェントに相談してみるのも、ひとつの方法です。
多くの医師転職をサポートしてきた経験を踏まえて、
客観的なアドバイスをご提供します!
96.4%の医師は、休職や転職は「良い判断だった」と回答
なお今回の調査では、96.4%の医師が過去の転職・休職経験を「ポジティブ」に捉えていることが分かっています(「非常に良い判断だった」「まあ良かった・仕方なかったと思う」を合計)。
Q:休職や転職をしたことについて、今どう感じますか?
・あのまま働いていたら、うつ病になったかもしれないと思う。(非常に良い判断だったと思う/30代/耳鼻いんこう科/勤務医(診療所・クリニック))
・ブラックな職場環境やハラスメント体質は、なかなか改善しません。
無駄な期待はせずに、早々に逃げ出しましょう。(60代/麻酔科/勤務医(診療所・クリニック))
・高ストレス環境で得られるものは、少なかったと思う。
今は、楽しく仕事に向きあえるようになった。(まあ良かった・仕方なかったと思う/40代/泌尿器科/勤務医(大学病院以外の病院))
・ストレスフリーになり、今とても健康です。(非常に良い判断だったと思う/50代/一般内科/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))
「このまま、働き続ける自信がない。」「辛いけれど、辞め時が分からない。」とお悩みの先生は、気軽な壁打ち相手として「Dr.転職なび」のコンサルタントをご活用ください。
過去の転職事例のご紹介も含めて、様々な情報や働き方の選択肢をご案内いたします。
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◆調査概要「医師のストレスマネジメントに関するアンケート 」
調査日:2023年9月5日~9月12日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:webアンケート
有効回答数:452