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医師の75%が「関わりたい」日本の災害医療体制やDMATになる方法も調査

医師の75%が「関わりたい」日本の災害医療体制やDMATになる方法も調査

近年の日本では豪雨や台風、大規模地震などの自然災害が頻発しており、今後もいつどこで被災するのか予測不可能な状況ともいえます。

このような災害大国・日本において医療に携わっている医師は、災害医療についてどのような考え方を持っているのでしょうか。

本記事では、日本における災害医療体制の概要や、医師507名に実施したアンケート結果から災害医療に対する医師の向き合い方等についてご紹介します。

災害医療とは

災害医療とは、災害時の限られた資源のもとで実施される医療のこと

災害医療とは、地震や津波・台風・豪雨などの自然災害や大規模事故、テロ等の人為災害が発生した時に、限られた資源の中で行われる急性期・初期医療のことを指します。

災害医療の特徴と、救急医療との違い

災害医療に似ている医療として救急医療があげられます。

しかし、この2つの医療における「需要」と「供給」のバランスには、大きな違いがあります。

災害医療救急医療
実施されるタイミング自然災害・人為災害の発生時平常時
診療環境停電や断水が発生している場合もある通常通り
医療需要(患者数)高い低い
医療供給(医療従事者や必要資材等)低い高い

救急医療では、十分な資源のもと患者にとって最適な医療が実施される

まず救急医療とは、交通事故や予期せず発生したケガ・病気に対応する医療のことです。

災害医療と同じように緊急性が高い状況下で提供される医療ですが、あくまで平常時の対応といえます。

緊急時に備えて整備された十分な人員や医療資源があり、比較的冷静な判断のもとで、患者にとって必要とされるすべての医療行為が提供されます。

災害医療では、不十分な資源を最大限に活用した医療が実施される

一方の災害医療は、限られた医療資源の中で多くの患者対応をする、つまり医療の需要が供給よりもはるかに上回る状況下で提供される医療を指します。

災害発生時には、大量の傷病者が発生します。

そのため、医療機関や医師の数に対して患者数が圧倒的に多くなる可能性があります。

また医療機関内の電気や水道などのインフラ設備が被災して停電・断水となったり、医薬品や衛生材料等の必要な物資が不足してしまったり等の過酷な環境となることも考えられます。

参照:日本救急医学会「救急医を目指す君へ

災害医療の目的は、一人でも多くの命を救うこと

上述のように平常時と大きく異なる状況下で実施される災害医療の目的は、最大多数の傷病者の救命と後遺症を軽減すること、そして「防ぎえた災害死」をなくすことです。

独立行政法人 国際協力機構(JAICA)では、「防ぎえた災害死」について以下のように解説しています。

防ぎえた災害死とは、平常時なら実施されるはずの適切な急性期治療が行えなかったために亡くなること。

独立行政法人 国際協力機構「【阪神・淡路大震災から25年】受け継がれる災害医療支援のノウハウ:海外から国内へ、日本から世界へ——災害派遣医療チーム(DMAT)の誕生(前編)

平常時の医療レベルがあれば助かるはずの命が失われてしまうことをなくし、限られた医療資源の中で優先順位を意識した上で、最大限適切と考えられる医療行為を提供することが災害医療では求められます。

日本における災害医療体制の整備と拡充

日本における災害医療体制の整備と拡充

日本の災害対策は、度重なる災害の発生とその教訓を反映させる形で強化が図られてきました。

とくに1995年の阪神・淡路大震災を大きな契機として災害医療体制が整備され、その後2011年に発生した東日本大震災等の災害を経てさらなる拡充が目指されています。

本章では、日本における主な災害医療体制等について解説します。

災害医療体制①災害拠点病院の整備

以下の機能を有する病院を、災害拠点病院といいます。

・災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能

・被災地からとりあえずの重症傷病者の受入機能

・DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣・受入機能

・傷病者等の受入および搬出を行う広域搬送への対応機能

・地域の医療機関への応急用資器材の貸出し機能を有する病院

上記を満たす「地域災害拠点病院」は二次医療圏ごとに1か所、さらに上記機能を強化し災害医療に関して都道府県の中心的な役割を果たす「基幹災害拠点病院」は原則都道府県ごとに1か所整備する必要があります。

参照:厚生労働省医政局長「災害時における医療体制の充実強化について
厚生労働省「災害医療について

災害医療体制②災害医療チーム(DMAT)の整備

DMAT(読み方:ディーマット)とは、災害の急性期(発生からおおむね48時間以内)に被災地に駆けつけ救命処置等に対応できる機動性を備え、専門的な訓練を受けた災害派遣医療チームです。

医師1名・看護師2名・調整員1名の計4名が基本的な構成とされており、広域医療搬送や病院支援、域内搬送、現場活動を主な活動としています。

なお日本にはDMAT以外にも、
・精神科医療および精神保健活動の支援を行うDPAT(読み方:ディーパット、災害派遣精神医療チーム)
・健康危機管理に必要な情報収集・分析や全体調整などの専門的研修・訓練を受けたDHEAT(読み方:ディーヒート、災害時健康危機管理支援チーム)
・DMATの撤退後に、主に急性期以降や慢性期医療に携わるJMAT(読み方:ジェーマット、日本医師会災害医療チーム)
などの医療救護班も結成されており、災害医療の充実に必要な活動を幅広く行っています。

参照:厚生労働省「日本DMAT活動要領
厚生労働省「災害時健康危機管理支援チームについて
DPAT事務局「DPATとは
厚生労働省「日本医師会災害医療チーム(JMAT)のご紹介
厚生労働省「災害医療について

広域災害救急医療情報システム(EMIS)

広域災害救急医療情報システム(EMIS)とは、災害時に医療機関が被災状況や患者の受入可能数等の必要な情報を入力し、その情報を関係機関が共有することで迅速かつ適切な医療・救護活動を実施することを目的としたシステムのことです。

医療機関の被災状況や稼働状況、患者の受け入れ状況、全国の医療機関の支援申し出状況を、全国の医療機関や医療関係団体、行政機関などが把握したり、DMATの派遣要請や活動状況を管理し、関係者間で情報共有したり等、被災地域での迅速かつ適切な医療・救護活動の支援に役立てられます。

参照:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)を活用した情報収集体制の強化について

現役医師507名に聞く、災害医療との関わり方

医師507名に聞く、災害医療との関わり方

大規模な地震のみならず、豪雨や台風等の災害も頻繁に起きている近年の日本において、日々医療に携わっている医師は、災害医療に対してどのような考えを持っているのでしょうか。

本章では、Dr.転職なびが実施した医師へのアンケート結果をご紹介しながら、医師と災害医療の関わり方について考えます。

15.4%の医師が、災害医療に携わった経験がある

まず災害医療に携わった経験の有無を尋ねたところ、全体の15.4%の医師が災害時の医療救護活動に携わった経験があると回答しました。

Q:これまでに、災害時の医療救護活動に携わったご経験はありますか?

Q:これまでに、災害時の医療救護活動に携わったご経験はありますか?

「DMATやJMAT等以外の医師」として携わった医師が最多

さらに、どのような立場として災害医療に携わったか尋ねた質問では、「DMATやJMAT等以外の医師」として携わったという医師が突出して多くなっています

Q:どのような立場から活動に携わりましたか?(複数回答可)

Q:どのような立場から活動に携わりましたか?(複数回答可)

地震等のさまざまな災害は、いつどこで発生するかを正確に予測することができません。

そのため災害発生時には、DMATやJMAT等の医療チームに所属していない医師であっても、限られた資源を最大限に活用した災害医療の実施が求められるということがわかる結果といえます。

75%の医師は、災害医療に「関わりたい」と回答

なお、今後の災害医療との関わり方については「勤務先で活動が必要になった時は適切に関わりたい」(60.4%)が最多となり、「勤務先以外における活動も含め、積極的に関わりたい」(14.6%)と合わせて75.0%の医師が「災害医療に関わりたい」と感じていることがわかります。

Q:今後の災害医療との関わり方について、ご自身の考えと最も近いものを教えてください。

Q:今後の災害医療との関わり方について、ご自身の考えと最も近いものを教えてください。

医師から寄せられたコメントも合わせてご紹介します。

◆勤務先以外における活動も含めて、積極的に関わりたい

医師として役立ちたいから。(60代/一般内科/勤務医(民間病院))

・困った時はお互いさま、助け合いの精神が必要だと感じるから。(50代/麻酔科/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))

災害医療への医師の関与は必須で、医師の評価を高める。(60代/小児科/勤務医(民間病院))

◆勤務先で活動が必要となった時は、適切に関わりたい

勤務先の患者や、災害現場からの転送患者を診る医師が必要である。(50代/一般内科/勤務医(民間病院))

・自分たちの職員を守ること、ひいては自分自身の家族を守ることに他ならないから。(50代/救急科/勤務医(民間病院))

・人員的に余裕のある組織や病院でないと、被災地への医師派遣はできない。
自分の病院をおろそかにして、被災地医療まではできない。(60代/小児科/勤務医(民間病院))

◆いずれの場合も、できれば関わりたくない

・災害時は、家族を守ることを最優先にしたいため。(40代/一般内科/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))

・災害医療に関わったところで、給与が追加支給されない場合が多いため。(40代/眼科/勤務医(民間病院))

◆いずれの場合も、全く関わりたくない

自身の安全が担保されない可能性がある。(30代/循環器内科/勤務医(国公立病院))

約6割が「救急医以外の医師も知見を習得すべき」と回答

なお、今後の災害医療に関わる医師の育成に関する考え方では「救急医以外の医師も知見を習得すべき」(58.6%)が最多でした。

さらに「災害医療を専門とする医師を育成すべき」(21.9%)、治療の優先順位をつけることや初期治療に慣れている「救急科を専門とする医師が兼務で担うべき」(18.7%)が続いています。

Q:災害医療に関わる医師の育成について、ご自身の考えと最も近いものを教えてください。

Q:災害医療に関わる医師の育成について、ご自身の考えと最も近いものを教えてください。

以下は、医師から寄せられたコメントです。

◆救急医以外の医師も知見を習得すべき

すべての医療者が被災する可能性があるから。(60代/一般外科/勤務医(民間病院))

救急の専門医だけでは、マンパワー的に圧倒的に少ない状況であるから。(50代/救急科/勤務医(民間病院))

災害時医療に、専門性は関係ないと考えるから。(60代/循環器内科/開業医)

・業務としての対応はできなくても、支援や協力はできるだろう。(60代/一般外科/勤務医(民間病院))

後期専門医研修の中に地域医療研修があるが、その中には災害医療に関しての講習や実習研修も含めていただきたい。(50代/救急科/勤務医(民間病院))

◆災害医療を専門とする医師を育成すべき

災害時の医療現場は、通常と異なるので。(50代/一般内科/勤務医(民間病院))

・通常の業務とは大きくかけ離れており、日常から研鑽を積む領域とするのは非効率。(50代/皮膚科/勤務医(民間病院))

・自衛隊が災害を所管し、自衛隊医師が災害医療を担当すべき。(60代/放射線科/開業医)

DMATになるには?医師が「災害医療に携わりたい」と思ったら

DMATになるには?医師が「災害医療に携わりたい」と思ったら

災害医療においては、通常時とは全く異なる環境の中で緊急性の高い対応が要求されるため、医師であれば誰でも災害医療に携われるわけではなく、特殊な訓練が必要になります。

最後に、「災害医療に積極的に携わりたい」「災害医療に関する知見やスキルの修得を目指したい」と考える医師にオススメの研修等をご紹介します。

54%の医師が、「災害医療の研修や教育を受けたい」と回答

災害医療に関する研修や教育について、機会があれば「受講したいと思う」(54%)と考える医師が全体の半数以上を占めました

Q:今後、医師向けの災害医療に関する研修や教育を受ける機会があれば、受講したいと思いますか?

Q:今後、医師向けの災害医療に関する研修や教育を受ける機会があれば、受講したいと思いますか?

DMATに加入するためには、厚労省の登録を受ける必要がある

なお、被災地の第一線で活動を行うDMAT隊員になるためには、厚生労働省の定める「DMAT登録者」となる必要があります

参照:DMAT事務局「日本DMAT活動要領

このDMAT登録者になるためには、以下の2つを満たす必要があります。

DMATの要件①DMAT指定医療機関で働き、研修を受ける

DMAT隊員になるためには、災害拠点病院またはDMAT指定医療機関(※)のいずれかに所属している必要があります
(※)DMAT派遣に協力する意志を持ち、厚生労働省又は都 道府県に指定された医療機関

DMATを目指す場合は、勤務先の医療機関がいずれかに該当しているか確認してみましょう。

なお、災害拠点病院およびDMAT指定医療機関は、広域災害救急医療システム(EMIS)で調べることができます。

DMAT登録の要件②厚生労働省の定める研修を受け、試験に合格する

DMAT事務局「日本DMAT活動要領」には、DMAT登録者について以下のような記載があります。

DMAT登録者は、厚生労働省等が実施する「日本DMAT隊員養成研修」を修了し、又はそれと同等の学識・技能を有する者として厚生労働省から認められ、厚生労働省に登録された者である。

DMAT事務局「日本DMAT活動要領

なお、後者のように研修を受けずに登録されるケースは極めて稀であり、4日間にわたり行われる「日本DMAT隊員養成研修」を受講し試験に合格した上でDMAT隊員として登録されるという流れが一般的です。

今回の調査でも、約16%にのぼる医師が日本DMAT隊員養成研修等、医師向けの災害医療に関する研修や教育を受けたことがあると回答しています。

Q:日本DMAT隊員養成研修等、医師向けの災害医療に関する研修や教育を受けたことはありますか?

Q:日本DMAT隊員養成研修等、医師向けの災害医療に関する研修や教育を受けたことはありますか?

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DMAT指定医療機関や災害拠点病院への転職についても、無料でご相談いただけます。

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◆調査概要「災害医療に関するアンケート」
調査日:2024年2月20日~2月27日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:webアンケート
有効回答数:507

Dr.転職なび編集部

ライター

Dr.転職なび編集部

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