2020年、先行して大規模法人向けにパワーハラスメントの防止に関する法律、いわゆる「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)が施行されています。
また、2022年4月からは、規模の大小にかかわらずパワハラ防止法の対象が拡大されたため、多くの病院でも適切な対応が求められます。
本記事は、パワハラ防止法における義務内容とパワハラの類型のポイントについてまとめています。病院の経営者だけでなく、医療従事者ならば知っておきたい内容ですので、確認しておきましょう。
〈2022年4月〉中小規模の病院もパワハラ防止法の対象となる
パワハラ防止法の違反は各種のリスク
職場におけるパワーハラスメント(いじめ・嫌がらせ)の防止を目的とした「パワハラ防止法」は、大規模法人を対象として2020年6月に施行されています。
そして、同法は段階的に対象の規模が拡大され、2022年4月には中小規模の法人も対象となりました。
病院も例外ではなく同法の対象となるため、準備や対応が課題となっているようです。
パワハラ防止法の注意点は、違反した際に「勧告」「指導」されてしまう恐れがあることです。
また、同法では罰則について規定はないものの、病院の経営者(事業主・使用者)には「安全配慮義務」があります。
よって、病院内においてパワハラの実態を把握していたにもかかわらず、適切な対処を行っていなかった場合には要注意です。事業主は民法上の不法行為責任(※)に問われる、あるいは訴訟に発展する可能性もあります。
※民法第709条、第715条
パワハラ防止法、義務内容の要点
条文から読むパワハラ防止法の義務内容
パワハラ防止法の条文から、病院(事業主)に課せられた義務について見ていきましょう。
労働施策総合推進法の第三十条にて規定されています。
●労働施策総合推進法(第三十条の二)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
出典:労働施策総合推進法(第三十条の二)
このように、条文ではハラスメントに関する相談があった場合には適切な措置を行うことと、相談者のプライバシーを守ることを規定しています。
この措置については「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」にて具体的な内容が記されています。
パワハラ防止法における4つの義務
病院の事業主には、ハラスメントを防止するために、以下1~4の措置を義務化しています。
病院で働く医師の方にとっても重要な内容になっていますので、確認しておきましょう。
●パワハラ防止法4つの義務
1.事業主のハラスメント防止方針等の明確化及びその周知・啓発
2.相談・苦情に応じ、適切に対応するための体制整備
3.職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
4.1~3までの措置と合わせて、相談者・行為者等のプライバシーを保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止
パワハラ防止に関する「院内方針の明確化と周知・啓発」「相談体制の整備」「被害を受けた労働者へのケア」や「再発防止」について、適切な措置を取ることが求められていると言えます。
指針で示されたパワハラの定義・類型
人事部門は職場における「パワーハラスメント」の定義を理解しておく
特に部下を持つ医師は「パワハラに該当する行為」について知っておくことが重要です。
先ほどの条文におけるパワハラの定義は「優越的な関係を背景とした」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「就業環境を害すること」と規定されていました。
これとは別に「パワーハラスメントの6類型」として、以下1~6のように、具体的な行為を分類し、法で定めているのです。
次の行為はパワハラとして判定される可能性が高いため、。
●パワーハラスメントとして判定される行為の類型
1.身体的な攻撃(暴行・傷害)
2.精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
3.人間関係の切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4.過大な要求(明らかに遂行不可能な業務の強制)
5.過小な要求(能力や経験と見合わない仕事を命じることや、仕事を与えないこと)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
※上記がすべての類型を網羅しているわけではないため注意してください。
パワハラ防止指針で示された「境界線」とは?
2019年11月には、「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」が発出されており、その中では「パワハラの境界線」が示されています。
前述したパワハラの6類型とあわせて、「業務上の指導」と「パワーハラスメント」の境界線を知っておくことも大切です。
パワハラの境界線について、同指針の中では次のよう具体的な例を示しています。
該当する | 該当しない | |
①身体的攻撃 | 物を投げつける | 誤ってぶつかる |
②精神的攻撃 | 人格を否定するような言動 | 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意すること |
③人間関係 | 同僚が集団で無視する | 新規採用者を短期間集中的に別室で教育する |
④過大な要求 | 私的な雑用の処理を強制する | 繁忙期に通常より多い業務を任せる |
⑤過小な要求 | 管理職を退職させるため、誰にでもできる業務をさせる | 能力に応じて一定程度の業務量を軽減する |
⑥個の侵害 | 本人の了解を得ずに性的指向・性自認を暴露する | 了解を得た上で個人情報を人事部門に伝える |
以上、パワハラ防止法に関する要点を紹介しました。
病院経営者(事業主)の方や部下を持つ医師の方等は、しっかりと対策していきましょう。