残業が多すぎるため、自身の健康を害してしまう医師も多くいるといいます。
緊張感のある医療現場での多忙な勤務をこなす医師は、さらに時間外の過重労働をも強いられているという過酷な状況なのです。
2024年にスタートする「医師の働き方改革」で医師の残業時間を減らすことはできるのでしょうか。医師の残業の現状と、残業制度などについて考えてみましょう。
医師の残業(時間外労働)の現状
残業が常態化…働き過ぎの医師が多い現状
医局に在籍する勤務医にとって、当直に引き続いての通常診療や、休日の緊急呼び出し、残業といった現象は日常的に起こっているそうです。
病院に勤務している医師の中には、「タイムカードが事実上存在しない」「残業は超過分を自分で調整して申告する」といった声も聞かれます。
では、医師の残業が増えると、どんな弊害が考えられるのでしょうか。
まずは、医師の過労が溜まり、日常生活に支障が出てしまう恐れがあります。そもそも、労働者の労働時間は、労働基準法により1週間あたり40時間を超えないよう定められています。
次に、医療の安全が守られなくなる危険性もあります。
過酷な勤務環境にいる医師は、常にストレスフルな状態。医療事故や医療事故未遂(ヒヤリ・ハット)を経験する割合は、勤務時間が長くなるほど上昇するとされています。
過重労働による睡眠不足は、作業能力を低下させたり、反応の誤りを増加させるのです*。
規模の大きい医療機関の若い医師ほど、時間外労働をしている
ある調査によると、医師の1か月あたりの時間外労働時間数は平均34.1 時間で、一見守られているようですが、残業0時間が1割程度見られる一方で、80時間を超える医師が8.1%も見られました。
許可病床数別でみると、規模が大きいほど残業50時間超えの比率が高まるようです。
時間外労働をする主な理由として、緊急対応や手術や外来対応等の延長、記録・報告書作成や書類の整理、会議・勉強会・研修会等への参加が挙げられています。
病院規模が大きいほど、また医師の年代が低いほど、緊急対応を理由に挙げる比率が高くなります**。
**平成27年度厚生労働省委託事業『医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究』
「医師の働き方改革」が求められている背景
医師は「残業」という概念が曖昧になりがち
医師の過重労働に関する、定められた残業制度はないのでしょうか。
そもそも、医師の時間外労働に関しては、「残業」という概念が曖昧にされる傾向にもあるようです。
調査によると、時間外労働時間通りに申告しているのは、医師のうち約半数の人しかいませんでした。
時間外労働を申告していない医師の理由としては、「自分の都合や自分のこだわりのために残業したから」と答える比率が高く**、自分の仕事に対して熱意を持っていることが伺えます。
**平成27年度厚生労働省委託事業『医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究』
勤務医は労働基準法の対象
労働基準法の中には、専門業種の裁量労働制***という項目があります。
これは、特定の専門的な業務を行う職種では、実際の労働時間とは関わりなく、労使協定で定めた労働時間を稼働時間とみなすことができるというもの。
しかし、医師の業務は専門的な職業にも関わらず、この中で決められた業種には含まれていません。そのため、医師の残業は、条件を満たしていれば時間外労働として認められるのです。
2024年「医師の働き方改革」がスタート
「働き方改革」の潮流は医療の世界にも訪れている
厚生労働省の『令和元年 医師の勤務実態調査』によると、 病院・常勤勤務医の勤務時間(診療時間+診療外時間+宿直・日直中の待機時間)は、男性医師は9%、女性医師は6%が週80時間以上でしたが、2016(平成28)年の調査と比較して週80時間以上勤務する医師は男性・女性ともに減少しています*****。
週当たりの労働時間の長い診療科目は、外科(61時間54分)、脳神経外科(61時間52分)、救急科(60時間57分)。
週当たりの労働時間が短い診療科目は、精神科(47時間50分)、リハビリテーション科(50時間24分 )、眼科(50時間28分)となっています。
平成28年調査と比較し、比較可能な範囲では、各診療科で週当たり勤務時間は短くなっているのです*****。
このような変化から、医師の働き方にもわずかながら改善の兆しが見えてきているといえます。
また、そういった世の中の流れを受け、国も医師の働き方改革に取り組み始めています。
医師の働き方改革によって、残業が減る可能性は?
労働者の多様な働き方へのニーズに応えるため、国は「働き方改革関連法」を制定し、2019(令和元)年より施行されています。
働き方改革関連法では、労働時間法制の見直しや雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などの内容が盛り込まれています。
医師という職業の場合は、勤務環境改善には長期的な見通しが必要という医療機関側への配慮から、「働き方改革関連法案」の適用までに5年間の猶予が与えられ、2024(令和6)年の適用となっています******。
そのため、医療機関は2024(令和6)年までに雇用する医師の職場環境改善に取り組まなければなりませんが、少子高齢化などによる慢性的な医師不足のため頭を抱えているところも多いといいます。このようなことから、この問題は「医師の2024年問題」と呼ばれています。
法案の施行により、医療機関が医師の働き方改善に取り組まなければならないこととして、以下の2点が挙げられます。
医師の働き方改革①労働時間の上限規制
医師の働き方改革の中心的存在なのが、2024(令和6)年から適用となる「労働時間の上限規制」です。現在、一般的な業種の時間外労働時間は、1カ月45時間年360時間が原則で、例外として年間6カ月で月100時間未満、年720時間まで認められています。
今後、医師の場合は、時間外労働時間の上限規制が勤務内容などから区分された3つの水準以下としていかなければなりません。
水準A
対象:全ての医師
時間外労働時間(残業)上限規制:年960時間、月100時間未満※休日労働含む
水準B(地域医療確保暫定特例水準)
対象:救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関
時間外労働時間(残業)上限規制:年1,860時間、月100時間未満※休日労働含む
水準C(集中的技能向上水準)
対象:初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師
時間外労働時間(残業)上限規制:年1,860時間、月100時間未満※休日労働含む
時間外割増賃金率の引き上げ
現在すでに大企業には施行されている「時間外割増賃金率の引き上げ」ですが、2023(令和5)年には医療業界を含めた中小企業にも適用されます。
もともと施行前は、法定労働時間(1週間40時間、1日8時間)を超える時間外労働(法定時間外労働)に対しては、25%以上の割増賃金率で払わなければならないとされていました。
今回の施行では、月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上の割増賃金率で計算して支払わなければならなくなります。
たとえば、もし深夜の時間帯に1カ月60時間を超える法定時間外労働を行った場合には、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上の割増賃金率となります******。
こうした法案の適用もあり、今後は医師であっても、これからはライフ・ワーク・バランスを大切にしたいと考える人も増えてくるのではないでしょうか。
医師であれ、その前にひとりの人間としての生活は人生を考える上で重要です。
良い医療を提供したいとする職業意識の高さにより自分の生活を犠牲にして過重労働を続けていては、心身に支障をきたしてしまうでしょう。
今後、医師の働き方改革法案の適用により、医師が働きやすい労働環境に変化していくことが望まれます。
******厚生労働省『働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~』
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以上、働く医師の現状と、医師の働き方改革について紹介しました。
「今の勤務先では、残業を減らすのは難しい」
「仕事と生活・プライベートの両立したい」
という方は、医師専門の転職コンサルタントに相談することもおすすめです。
転職を通じ、自分なりの「働き方改革」を目指してみるのはいかがでしょうか。