2015年12月の労働安全衛生法改正により、労働者が 50 人以 上いる事業所ではストレスチェックが義務化されました。
このことは産業医が一般にも広く知られるようになる大きなきっかけとなりましたが、臨床で働く医師にとっても産業医というキャリアは気になる存在なのではないでしょうか。
本稿では、「Dr.転職なび」「Dr.アルなび」に掲載中の求人情報から算出した専属産業医・嘱託産業医の年収・給与相場や働き方の違い、産業医の仕事内容・メリット等を解説します。
産業医とは、どのような医師なのか?
産業医の役割は、労働者の心身の健康を保持・促進すること
産業医とは、医学的な立場から労働者の健康管理などについて指導やアドバイスをする医師です。
産業医は毎月1回 事業場や作業場などを巡回し、正しい作業方法や労働衛生が守られているかどうかを確認することや、それが守られていないようであれば必要な措置を講じる必要があることなどが労働安全衛生規則で定められています。
産業医の仕事内容
産業医の業務は労働安全衛生規則第14条第1項によって定められており、 主な内容は次のとおりです。
職場巡視 | 空調・照明などオフィス環境や、 分煙・防災状況をチェックする。 |
衛生講話 | 健康管理や衛生管理に関する研修を実施する。 |
安全・衛生委員会の開催 | 長時間労働や労災に関する報告をする会を開催する。 |
健康診断の結果確認 | 健康診断で 「所見あり」 となった従業員の就業判定を行ったり、 休業が必要な場合には意見書を作成したりする。 |
面談 | 従業員から健康相談を受けたり、長時間労働の従業員へのアドバイス等を行ったりする。 |
産業医には、嘱託産業医と専属産業医という働き方がある
専属産業医とは、週3~4日程度1つの事業場に常駐して産業医業務に従事する産業医のことです。
いわゆる臨床医における「常勤」という働き方を指します。
企業の一員として他の社員と同じ業務時間の中で働くことになるので、オフィスワークがメインの企業の場合には9~17時などの時間帯で勤務をします。
臨床医として働く場合のように緊急度の高い対応や時間外勤務や夜間対応が発生することはなく、ワークライフバランスを重視した労働環境が期待できるでしょう。
一方の嘱託産業医は、月1回など決められた日時のみ事業場に訪問し、限られた時間内で職場巡視や面接など産業医としての業務を担う産業医です。
上述のように、中小企業をはじめとした常時働く労働者が50~999人の事業場では、嘱託産業医の選任が義務となっています。
そのため日本で活動する産業医の多くはこの嘱託産業医であり、臨床医として従来の業務やキャリアを継続しながら産業医としての職務を担う医師も少なくありません。
一般的には、嘱託産業医での経験を経た上で専属産業医になるケースが大半です。
事業場で常時働く人数によって、必要な産業医の人数が決まっている
産業医の選任については、労働者安全衛生法により定められており、企業は常時使用する労働者が50人を超えると、産業医を選任する義務が生じます。
事業場の規模に応じて以下の人数の産業医を選任し、労働者の健康管理に努めることが求められています。
従業員数が 50人~999人の事業場 | 月1回程度訪問する「嘱託産業医」1名 |
従業員数が 1,000人を超える事業場 | 常勤する「専属産業医」1名 |
従業員数が 3,000人を超える事業場 | 常勤する「専属産業医」2名以上 |
なお日本で現在活躍する産業医は、上記のうち従業員数が 50人~999人 の事業場で勤務する「嘱託産業医」が大半となっています。
産業医の平均年収や給与相場はどのくらい?
続いて、専属産業医・嘱託産業医それぞれの年収および給与相場を確認していきましょう。
専属産業医の平均年収は1,067~1,450万円程度
今回、医師向けの転職求人サイト「Dr.転職なび」に掲載されている専属産業医の求人票をもとに専属産業医の年収を確認しました。(求人票に記載されている基本給与額の「下限値」および「上限値」の合計をデータ数で割り、目安となる値を算出。)
その結果、専属産業医の年収における下限額の平均はおよそ1067.4万円、上限額の平均はおよそ1450.7万円でした。
ただし医師本人のキャリアや勤務日数、勤務時間、契約する企業の規模や業種、業務上求められるスキル(外国語対応など)等によって提示される年収額も大きく変動します。
具体的な求人検討を進める際には、諸条件を十分に確認するようにしましょう。
▼関連記事:勤務医の年収事情は?
専属産業医の案件は大都市に集中し、求人数は多くない
なお専属産業医の選任義務があるのは、従業員数が1,000人を超える事業場と定められています。
そのため、専属産業医の募集は東京や大阪など大企業が多いエリアに集中しています。
特に東京23区内等の都心部の案件は医師からの人気も高く非常に狭き門であり、郊外の案件の方が求人倍率は低い傾向がみられます。
また産業医の案件は診療科の指定がないものが大半ですが、最近では労働者のメンタルヘルスを重視する企業も多いため、精神科を専門とする医師を希望するという求人も増えているようです。
専属産業医としてのキャリアを希望する場合には、産業医市場の最新動向に詳しく、産業医への転職サポート経験が豊富なエージェントを活用するのがおすすめです。
嘱託産業医の給与相場は、1回48,743円程度
続いて医師向けアルバイト情報サイト「Dr.アルなび」に掲載されている情報をもとに、嘱託産業医給与相場を確認したところ、1回あたりの給与額平均は約48,743円でした。
ただし上記を算出したデータには、3時間勤務や6時間勤務など様々な勤務条件の募集が混在しています。
また勤務地域や業務内容によっても給与額は変わるため、具体的に案件を検討する際には改めて条件をご確認ください。
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このような医師におすすめ!産業医として働くメリット
最後に、産業医としてのキャリアを築くことによって得られるメリットをご紹介します。
産業医として働くメリット①ワークライフバランスを大切にできる
臨床医として過酷な労働環境に置かれながらキャリアを積む中で、「そろそろワークライフバランスを改善したい…」と考える方も多いのではないでしょうか。
専属産業医は企業に所属するため、基本的には一般社員と同じスケジュール(9時~17時までの勤務で、定時帰宅ができる等)で勤務をします。
勤務医のように、夜間対応や当直を行うこともありません。 よって「プライベートの時間を重視したい」「仕事と子育ての両立を叶えたい」という医師にとってメリットが大きい働き方といえるでしょう。
産業医として働くメリット②福利厚生が充実している
大企業で働く専属産業医は、充実した福利厚生を受けることができます。
勤務医の場合、十分な福利厚生は整っていない環境で働くケースもあり、有給休暇を適切に使用できていない医師も少なくありません。
一方で企業の社員として働く専属産業医の多くは週休2日制であり、有給休暇や産休・育休も取得しやすい環境である場合が多くなっています。
産業医として働くメリット③医学の知識を活かして、社会に貢献できる
産業医は、医師という専門的な知識を持ちながら、企業に適切なアドバイスができるように企業構造や企業が動くポイント、必要な優先順位を理解して的確に判断できる能力も求められます。
臨床の世界ではなかなか味わえないビジネス的視点や経営的な視点も持ちながら業務を進められることも、産業医として働く醍醐味といえるでしょう。
狭き門である「産業医」になるためには?
産業医になるための要件
産業医として働くためには、医師免許を有している他、労働安全衛生法によって定められた以下の要件のいずれかを満たす必要があります。
・日本医師会の産業医学基礎研修を修了している:日本医師会認定産業医(5年ごと更新)
・産業医科大学の産業医学基本講座を修了している
・産業医科大学で該当課程を修了、卒業し、大学が行う実習を履修している
・労働衛生コンサルタント(保健衛生区分)に合格している
・大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者である
このうち、日本医師会や産業医科大学の研修を修了する方法が一般的な方法となっています。
未経験から産業医になるための方法は?
要件をクリアし、産業医とし働く資格を満たした後は、具体的な求人を探すことになります。
ただし産業医には初期研修がないため、「何から始めていいか分からない」「どのような業務を行えばよいか分からない」という医師が大半です。
そのため未経験から産業医を目指す場合は、まずは嘱託産業医として産業医業務に携わることから勤務実績を積み重ねていく方法がおすすめです。
産業医の案件は求人数がそれほど多くないことに加えて、医師からの人気が高いため求人倍率が高い傾向がみられます。
そのため「産業医業務の経験がある方」という条件のある求人も一定数存在しているのが実情です。
嘱託産業医としての経験を重ねることで、応募可能な案件の幅は大きく広がります。
産業医としてのキャリアに関心のある先生は、まずは嘱託産業医として産業医業務携わってみてはいかがでしょうか。
社会的な需要がますます高まる産業医としてのキャリアに関心のある先生は、嘱託産業医や専属産業医の求職サポート経験が豊富なDr.転職なび・Dr.アルなびまでお気軽にご相談ください。
産業医の年収や給与相場を熟知したコンサルタントが、先生のご状況やご希望に寄り添いながら最適なご提案をいたします。