医療人材総合サービスを提供する株式会社エムステージは、2024年の医師の働き方改革で注目される、「宿日直許可」の取得状況について医療機関へのアンケート調査を実施し、97院より回答を得ました。
医療経営士1級でエムステージ 事業推進室マネージャーの木島が解説します。
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医師の働き方改革と宿日直許可
2024年から始まる罰則付きの医師の時間外労働の上限規制(原則、年960時間。例外として救急医療現場などでは年1,860時間)は、医師の生命・健康を守ることで、地域医療を守り、医療の質の向上につなげるという大きな意義があります。
そこで重要になるのが、医療機関の「宿日直許可」の取得有無です。
宿日直許可がある副業先であれば、原則的に勤務時間とみなされないため、大学病院の医師派遣の引き上げや非常勤医師の採用ができないといった可能性を避けることができます。
宿日直許可を受けられる基本的な条件は、「通常殆ど業務が発生せず、夜間に十分な睡眠が取り得る」場合です。
また「一人あたりの宿日直を、宿直は週1回、日直は月1回に収める」等の条件があります。
宿日直許可についての医療機関アンケート
1.宿日直許可の取得について、84%の医療機関が取得済・取得希望があると回答
宿日直許可の取得状況について質問したところ、全体の84%が宿日直許可を取得済または取得を希望していることが分かりました(「宿日直許可を申請する予定はない」、「まだわからない」以外の回答を集計。)。
うち22%が「働き方改革に着手する以前から許可を受けている」、15%が「すでに許可を受けた・受ける見込だ」と回答しており、合計して約4割の医療機関が既に宿日直許可取得の手続きを終えています。
一方で、「許可を受けるため申請・相談している」20%、「許可を受けることを検討しているが、まだ申請・相談はしていない」23%を合計すると、宿日直許可を希望しているがまだ準備段階の医療機関も約4割となりました。
2.宿日直許可を取得しない理由には、大別して2つの傾向が見られる
宿日直許可を取得しないとしている医療機関に、取得しない理由について質問し、その回答を精査したところ、(1)既に時間外勤務が上限時間内に収まっているため、(2)業務があり宿日直許可の基準が満たせないため、という大きく2つの傾向がありました。
病院機能別で見てみると、「療養病院」では “時間外勤務が上限時間内に収まっていて、対応の必要性がない”、“住み込み医師がいるため申請不要”という回答が目立ちました。
「急性期病院」「ケアミックス病院」では、“宿日直許可の基準を満たすことが現実には難しいため”、“急性期病院で基準に該当しないため”、“夜勤で対応するため(宿直ではなく、交代制勤務として対応)”といった回答がありました。
3.宿日直許可の取得対象について、62%の医療機関が何らかの基準で限定すると回答
宿日直許可を取得済または取得を希望している医療機関に対して、宿日直許可を取得する対象を限定するかを質問したところ、6割以上が「何らかの基準で対象を限定する」と回答しました。
限定する基準としては、「診療科」「職種(医師、看護師等)」「時間帯」「業務の種類(救急、病棟管理等)」などで取得対象を限定するという回答がありました。
■宿日直許可取得の対象について(自由記述より抜粋) ・救急部門を除く診療科。(急性期病院) ・産婦人科、救急外来当直(全科)、病棟当直(全科)の時間帯を限定して。(ケアミックス病院) ・ICU当直、外科当直、内科当直を個別に。(ケアミックス病院) ・医師のみ。(療養病院) ・医師・事務当直。(ケアミックス病院) ・職種単位で許可。(ケアミックス病院) ・21時以降翌朝までの限定許可を検討。(ケアミックス病院) ・輪番日ではない日を申請と考えている。(ケアミックス病院) |
4. 宿日直許可についての懸念点、疑問に感じている点(自由記述より抜粋)
■医師確保に関して ・大学並びに、当直のみの非常勤医師が勤務出来なくなる点。(ケアミックス病院) ・大学病院からの派遣が減少しないか心配なこと。(回復期リハビリテーション病院) ・宿日直許可がされなかったときの常勤医師の勤務体制の変更、医大医局から派遣されている日当直医師の確保ができるのかどうか。(ケアミックス病院) ・自院の医師の他、外部委託が増えることが予想され、費用増となり経営が圧迫する。(精神病院) ■回数制限に関して ・週1回の当直、月1回の日直という宿日直許可の条件を満たせるかが一番の懸念材料。非常勤含め、日当直に関わる医師を獲得したい。(ケアミックス病院) ・土日の当直を月に2回勤務されている先生がいるため、許可申請の障害になると考える。(療養病院) ・日直の月1回がクリアできない。(精神病院) ・土・宿直→日・日直→日・宿直を1名医師で認めてもらえるか・・。(急性期病院) ■申請方法や許可基準、労基署への対応に関して ・労働基準監督署や担当官により許可基準が曖昧で、許可されたりされなかったりする。(ケアミックス病院) ・許可認定のポイントを具体的に知りたい。(療養病院) ・手続きの難易、申請に必要な医師の情報。(ケアミックス病院) ・10数年前に申請して受理してもらえなかったが、担当が不在で詳細が不明。今回も申請しても受理してもらえないのではと心配している。(ケアミックス病院) ■その他 ・夜間の救急医療を担っている病院が、一番許可を得られない。(急性期病院) ・現状の宿日直時間帯を勤務実態により「宿日直」と時間外勤務に分割できるか。(ケアミックス病院) ・実労働に対する賃金支給をどのように考えるか。現在は実績に基づき定額支給としており、労基署もそれでOKとはなっているが、支給額を超える実労働があった場合の労働時間の把握や賃金支給については整理が必要と考える。(ケアミックス病院) ・宿日直にて可能な業務範囲が分からない。(急性期病院) ・当直の曜日によっては2次救急担当日があるが、その取扱いと曜日別の届出のやり方。(ケアミックス病院) |
5. 働き方改革全体の取り組み・意見・感想(自由記述より抜粋)
■タスクシフト ・医師のタスクシフトを実施。(急性期病院) ・代行入力の徹底。実施計画書等の専門職からの患者様への説明。(療養病院) ・医師事務作業補助者の導入。他職種へのタスクシフト。(ケアミックス病院) ・医師作業事務者の充実。(ケアミックス病院) ■勤務時間削減・休暇付与・当直回数制限 ・残業時間の解消。(ケアミックス病院) ・緊急手術等の時間外勤務制限(他の3次的医療機関との連携)など。(ケアミックス病院) ・診療日時短縮を検討。(急性期病院) ・リフレッシュ休暇(7日間)の付与。(ケアミックス病院) ・回数制限、当直明け勤務の削減、始業前勤務と終了時間の調整。(ケアミックス病院) ・常勤医師の当直回数月1から2回に制限。(ケアミックス病院) ■外部医師の活用 ・非常勤医師の採用を進めている。(ケアミックス病院) ・日当直のほとんどを外部医師に委託。(ケアミックス病院) ■実態調査 ・当直時間帯の外来患者数や診療時間等について調査している。(精神病院) ・現時点では情報収集程度。(ケアミックス病院) ・タイムカードによる医師の時間外管理を実施。(療養病院) ■意見・感想 ・医師不足が解消されなければ取り組みは難しい。(回復期リハビリテーション病院) ・医師が増えない中、超過勤務時間の上限制限をしても地域医療が崩壊するだけだ。(ケアミックス病院) |
<調査概要> アンケート実施期間:2022/2/10(木)~2022/2/28(月)
有効回答:97院
対 象:全国の病院・老健・有床診療所
回答属性:急性期病院16院、ケアミックス病院36院、療養病院22院、回復期リハビリテーション病院5院、精神病院15院、有床診療所2院、老健1施設
回答方法:WEBを利用したアンケート調査
「宿日直許可」の取得を、多くの医療機関が希望している
大きな意義のある医師の働き方改革ですが、医師不足の中、医局派遣や外部の非常勤医師によって病院運営や常勤医師の負担軽減を行ってきた医療機関においては、医師の確保が難しくなる可能性があります。
そのような中で、「宿日直許可」の取得を多くの医療機関が希望していることが、アンケートから分かりました。
また実務的なところでは、宿日直許可を希望しているものの、まだ準備段階の医療機関が約4割であること、許可基準のあいまいさへの戸惑いや、取得方法が医療機関の担当者に伝わっていない様子も見られました。
「医師の働き方改革」は、労働時間の削減だけで実現できるものではありません。
労働時間の削減と合わせ、事務作業の効率化やタスクシフティング、地域における医療機能分化や再編、働き方に関する医師の意識や医療を受ける患者側の意識改革などの包括的な取り組みを、社会全体で推進することが求められています。