医師は、一般的に転居が多い職種と言われます。
では実際に、医師がキャリアを歩む中でどのくらいの頻度で転居を経験しているのでしょうか。
また、どのようなきっかけで転居するケースが多いのでしょう。
本記事では488名の医師会員へのアンケート結果をもとに、医師の転居・転勤事情や必要な手続き、医師の物件探しのポイント等について解説します。
目次
医師の転居事情
98%の医師が1回以上の転居を経験している
Q:医師として働き始めた後、どれくらい転居をしましたか?
医師として働き始めた後の転居回数を尋ねた質問では、98%の医師が1回以上の転居を経験していると回答しています。
なお最も多いのは「4~9回」で約半数の51.6%であり、「10回以上」転居している医師も7.8%存在しています。
転居の理由で最も多いのは「医局派遣のため」
Q:転居した理由は、どんなことですか?
転居の理由で最も多かったのは「医局派遣」で、全体の半数以上を占めています。
次いで「転職」、「結婚や出産・介護など家庭の事情」という理由が続きます。
医局人事では、頻回の転居が必要になるケースも少なくない
なお、4回以上(「4~9回」および「10回以上」)の転居理由をみてみると、「医局派遣」が最も多い約65%となっています。
▼「4回以上の転居」を経験した医師の 転居した理由
さらに「医局派遣」による転居回数では、4~9回が約60%を占めており、10回以上も1割以上となっています。
▼「医局派遣」による転居を経験した医師が 転居した回数
また、「転職」による転居回数と比較してみると、「医局派遣」による転居回数の方がより頻回に転居をしている傾向がみられます。
▼「医局派遣」または「転職」による転居回数の比較
これらの結果からは、医師の転居の背景としては「医局派遣」が最も多いことや、「医局派遣」で転居する場合には転居の頻度も高い傾向があることが分かります。
▼関連記事:医局所属のデメリット第1位は「望まない人事異動の多さ」
「今後も転居する可能性がある」と考える医師が、全体の6割以上
このようにキャリアにおける転居を経験する頻度が高い医師ですが、今後転居する可能性についてどのように考えているのでしょうか。
Q:今後、転居する可能性はありますか?
「転居する可能性がほぼ無い」とした医師は、全体の約35%にとどまりました。
一方、転居の可能性がある(「転居する可能性が高い」(26.8%)または「可能性は低いが、転居するかもしれない」(30.9%))とした医師が半数を超えています。
可能性が高い・低いという差はあるものの、大半の医師は「いつか転居するかもしれない」と考えながら日々勤務しているということが分かります。
医師にとって、転居はどのくらい負担になっている?
医師は医局派遣や転職などで頻回な転居を経験する方も多いようですが、転居することについてどのように感じているのでしょうか。
Q:転居することを負担に感じましたか?
最も多かったのは「やや負担だった」(44.1%)で、次点は「かなり負担だった」(35.1%)となりました。
では、具体的に転居のどのようなタスクに対して医師は負担を感じているのでしょうか。
Q:どんなことに負担を感じましたか?
転居で負担に感じることとして、最も多くの医師が挙げたのは「転居に伴う手続き」です。
続いて、「転居にかかる費用」「物件探し」に負担を感じるという声が多くなっています。
医師が転居するときに必要な手続き
転居をするときには、賃貸や引っ越し業者への申し込み手続きのほかに、自治体(市役所・区役所など)への届け出や電気・ガス・水道などのインフラ、金融機関やクレジットカードなど、様々な手続きが必要になります。
最近では、インターネットなどで転居時の手続きに関するチェックリストも簡単に入手することができます。
忙しい勤務の合間でも漏れなく手続きを行うために、このようなツールを活用してみるのもおすすめです。
本記事では、医師特有の転居時に必要となる手続きをピックアップしてご紹介します。
保険医
転居前の管轄地方厚生局へ、住所変更を届け出る必要があります。 転居後は、地方厚生局から新しい登録票が交付されます。
学会
所属している学会がある場合には、住所変更の手続きが必要です。
精神保健指定医、麻薬施用者免許など都道府県指定の資格
都道府県などの該当窓口で、住所変更の手続きが必要です。
医師会
転居前に加入していた医師会からの退会と、転居後に所属する医師会への加入手続きを行いましょう。
医籍
医師免許証に記載された本籍地(外国籍の方はその国籍)が変わる場合には、保健所の窓口での手続きが必要となります。
新しい勤務先へ提出する書類の準備
新しい勤務先では、医師免許証、臨床研修修了証(平成16年卒以降の医師)、その他資格(専門医・精神保健指定医など)の提出を求められるはずです。
具体的に、どのような書類の提出が必要なのか。証書類は、原本で一度提出して返却されるのか、写しを用意して提出するのかなどの詳細は、その医療機関により異なります。
勤務が始まる直前に慌てて荷物の中を大捜索するような事態を避けるためにも、提出が必要なものは事前に確認・準備しておくと安心です。
医師の転居にかかる費用は、誰が出す?
転居にかかる費用が負担であるという声も、多くの医師から寄せられました。
一般企業などでは、会社都合の転勤をする際にはその転居にかかる費用を会社が負担するというケースもみられますが、医師の転居の場合はどうなのでしょうか。
Q:新しい勤務先や医局等から、転居に伴う費用の支給はありましたか?
転居にかかる費用について、全額または一部を新しい勤務先や医局が負担してくれたというケースは、全体の約35%となっています。
一方、「自分で、全額費用を負担した」回答した医師は およそ66%となり、半数以上の医師は自身で費用を負担して転居しているということが分かります。
ではどのような場合に、新しい勤務先や医局から転居費用の補助があるケースが多くなるのでしょうか。
「転居の理由」に着目して、さらに詳しく見ていきます。
▼転居費用の支給(全額または一部)があったケースの転居理由
医局や新しい勤務先からの転居費用の補助を最も受けやすいといえるのは「医局派遣」による転居で、全体の約66%を占めています。
なお、「医局派遣」以外の「転職」や「結婚や出産・介護など家庭の事情」「マイホームの購入」などのいわゆる自己都合による転居の場合にも、転居費用が補助されたケースも全体の3割を越えている点も注目すべきポイントです。
特にこの中でも「転職」は、およそ25%と高い比率となっています。
慢性的に医師が不足しているエリアや医師の招聘に注力している医療機関では、転居にかかる費用の負担について相談が可能なケースも多くあります。
転職を検討する際には、転居費用の負担についても合わせてチェックしてみましょう。
医師が物件を探すときのポイント
医師が転居する際に負担と感じるタスクの第3位が、物件探しです。
ただでさえ多忙な勤務の合間で、しっかりと納得のいく新居を検討するための時間を確保することが難しいというコメントも寄せられています。
・転居した当時は、物件選びの不動産知識が足りなかった。
引っ越す前にもっと調べれば良かったが、その時間が無い。(転職のため転居/30代男性/一般病院勤務)
・転居せずに長期的な観点から物件を選んで、通勤すればよかったかもしれない。(医局派遣のため転居/50代女性/一般病院勤務)
実際に物件を探す際には、医師はどのようなポイントで検討をしているのでしょうか。
今回のアンケートでは、新居から新しい勤務先までの移動時間に着目してみました。
Q:新しい勤務先から新居までの距離は、どのくらいで検討しましたか?
医師が新居を検討したエリアで最も多かったのは、新しい勤務先から「30分以内」(50.4%)でした。
次点は「10分以内」(22.6%)となっており、全体の7割を超える医師は勤務先から30分以内のエリアで新居となる物件を探しているということが分かりました。
10分以内
・オンコール待機があること、主治医制で夜間の呼び出しもあることなどを考え、徒歩通勤勤務可能な範囲内で探した。(医局派遣のため転居/50代女性/一般病院勤務)
・若手のため呼び出しが多く、かつ独身であったため。(医局派遣のため転居/30代男性/大学病院勤務)
・勤務先から、呼び出して10分以内に到着できる所で物件を探すよう言われたため。(医局派遣のため転居/60代女性/非常勤のみ)
・産科が専門のため、近い場所に常駐するのが職業上の倫理と考えたため。(転職のため転居/60代男性/クリニック・診療所勤務)
・開業のため、最寄り駅が同じ、または棟続きの物件で検討した。(マイホーム購入のため転居/50代男性/クリニック・診療所勤務)
30分以内
・呼び出されて20~30分というのが、勤務先からの条件だったため。(医局派遣のため転居/50代男性/非常勤のみ)
・雪が積もって車が出せなくても、呼び出しがあった際に徒歩で30分以内に病院に辿り着くことができるエリアで探した。(医局派遣のため転居/50代女性/クリニック・診療所勤務)
・あまり近いとプライベート感がないため、30分程度の距離で探す。(医局派遣のため転居/40代男性/大学病院勤務)
60分以内
・勤務先周辺の家賃が高いため、可能な限り安く、かつ通勤に耐えるところを探した。(転職のため転居/30代男性/一般病院勤務)
・比較的交通事情が良いので、このくらいなら許容できると判断した。(転職のため転居/50代男性/クリニック・診療所勤務)
・子どもと妻の住環境を配慮しつつ、自分が通勤できる範囲で探した。(医局派遣のため転居/30代男性/一般病院勤務)
・生活の利便性、教育環境をまず考えた。(結婚や出産・介護など家庭の事情のため転居/50代男性/クリニック・診療所勤務)
60分以上
・子供たちの教育のため。(マイホームを購入のため転居/60代男性/クリニック・診療所勤務)
・子供の中学に近いところ。職場からはかなり遠くなりましたが。(結婚や出産・介護など家庭の事情のため転居/50代男性/クリニック・診療所勤務)
・検討の余地がなかった。(結婚や出産・介護など家庭の事情のため転居/30代女性/非常勤のみ)
その他、物件探しで学んだこととして以下のようなコメントも寄せられています。
・田舎の病院で働いたとき、物件が全然なくて焦った。早めに行動しなければいけないと思った。(転職のため転居/40代男性/クリニック・診療所勤務)
・物件の見学は、昼間の環境と夜の環境の両者を調べること。(転職のため転居/60代男性/一般病院勤務)
・家賃が多少高くても、交通の便の良い場所を選ぶべきだと反省した時期があった。(転職のため転居/40代男性/一般病院勤務)
医師が転居してよかったと感じること
次に、転居することによるメリットについても聞きました。
Q:「転居をして良かった」と感じたことは、どんなことですか?(複数回答可)
心機一転できた
最も多くの医師が転居して良かったこととして選んだのは、「心機一転できた」(37.9%)でした。
転居先では、今までとは異なる新しい生活環境・労働環境に身を置くことになります。
これまでの勤務で少しマンネリや働きにくさを感じていたという場合には、この環境の変化によって気持ちをポジティブな方向に切り替えることができるかもしれません。
このような視点でみてみると、医師が転居することは、改めて医師としてのキャリアを前進していくための良いきっかけの一つともいえそうです。
生活環境が改善した
次に多くの回答を集めたのは「家が広くなったなど、生活する環境が改善した」(26.4%)です。
特に都心部から郊外への転居の場合には、都心部と同じ家賃でより広い家に住むことができるなど居住環境が都心部よりも改善する、満員電車や渋滞といった通勤時の負担が軽減されるといったケースがあります。
また 実家が近くにある地域へ転居をする場合には、家族から子育てをサポートしてもらえるといったメリットもあるかもしれません。
・地元に帰れた。(医局派遣のため転居/40代女性/クリニック・診療所勤務)
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これから転居するかもしれない医師必見!転居に備えるポイントと意見
最後に、今後転居をする可能性がある医師にぜひ知って頂きたいポイントや、医師からのコメントをご紹介します。
Q:転居する可能性に備えて、実施していることや心がけていることはありますか?(複数回答可)
医師が転居の可能性に備えて実施していることで最も多くの回答を集めたのは「住居は賃貸にしている」でした。
続いて、「荷物を増やさない」「貯金や節約をする」という回答が多くなっています。
荷物を増やさない
・全く転居しなくてもいいということはほぼないので、いつでも転居できるように持ち物を最小限にしておくべき。(医局派遣のため転居/50代男性/非常勤のみ)
貯金や節約をする
・僕では無いが、兄は医局の人事で引越し貧乏になっている。(転職のため転居/30代男性/一般病院勤務)
最後に、キャリアにおける転居について医師から寄せられたコメントをご紹介します。
転居する頻度に配慮してほしい
・色々な町に住めるのは面白いことだが、核となる町(本拠地:家もある)には住めないことはキツイ。
せめて3年おき程度にとどめてほしいのと、中年以降は少し考慮してほしい。(医局派遣のため転居/40代男性/一般病院勤務)
・医局派遣先がほぼ引っ越し不要の医局のため、引っ越しはあまりないだろうと踏んで入局。
今後はそのような入局の考え方が増えるのではないかと思う。(医局派遣のため転居/40代男性/大学病院)
異動の時期と引っ越しのハイシーズンが重なるので大変
・4月の異動は引っ越し業者が見つからなかったり、費用が高かったりして大変だった。
引っ越しは家族がいない時にしたいと思った。(結婚や出産・介護など家庭の事情のため転居/40代男性/非常勤のみ)
・3月の引っ越しシーズンと重なってしまうことによる手間と負担が大きい。
物件選びで11月、12月、1月ごろにいい物件があった場合には即契約が必要となり、住まない間も家賃を払うことになってしまう。
それを渋って2月、3月などギリギリを狙うといい物件がなかったり、あっても相場より高くなってしまったりする。(転職のため転居/30代男性/一般病院勤務)
転居にかかる費用を負担してほしい
・医局派遣とはいえ、引っ越しにかかる料金はバカにならない。
負担はしてほしいと常々思っている。(医局派遣のため転居/30代男性/クリニック・診療所勤務)
・引越し自体は、ある程度楽しみもあってよい。
その一方で、勤務先の都合での転居でもあるので、引越し費用の一部でも負担してもらいたいという気持ちがある。
特に医局派遣や専門医プログラムの一環としての場合などは、拒否することができない。(転職のため転居/30代男性/一般病院勤務)
人間関係
・転居が多いと、プライベートでの人付き合いは浅くなってしまう気がしている。(医局派遣のため転居/50代女性/一般病院勤務)
その他
・他人の意向で勤務地や住居を決められてしまうことは、自分の価値観では到底受け入れられない。(マイホームを購入のため転居/30代男性/クリニック・診療所勤務)
・事情があれば躊躇なく前住居から離れるのが医者であろうし、そのような事例はよく目にする。(マイホームを購入のため転居/50代男性/クリニック・診療所勤務)
・いつも「ついのすみか」という意識を持って、勤務に臨んでいる。(マイホームを購入のため転居/60代男性/一般病院勤務)
今回の調査では、多くの医師がキャリアを歩むなかで転居や転勤をしていること、そして10回以上など頻回な転居を経験している医師もいることが分かりました。
多忙な日々と並行しての転居は、医師にとって手間や費用面で負担を与えるものでもありますが、同時に心機一転して新たなキャリアを築いていくきっかけともなるようです。
医局派遣で頻回な転居に疲れた…
いまの環境から離れて、医師としてのキャリアを考えたい
そんな先生は、Dr.転職なびのコンサルタントにご相談ください。
転居有無を問わず、先生にとってより良い働き方を実現できる選択肢をご紹介いたします。
◆調査概要「転居ついてのアンケート」
調査日:2022年8月16日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
回答数:488