在宅医療とは、自宅などの患者さんが住み慣れた場所に医師や看護師などが訪問して行う診療のことです。
超高齢化社会に突入している自治体も多くある昨今、政府はこの在宅医療の充実を推進しており、「自分らしさを保ちながら生きていきたい」「住み慣れた場所で最期を迎えたい」といった理由から在宅医療を選択する高齢者も年々増加しています。
本記事では、現代の日本において非常に需要が高い在宅医療に携わる医師の働き方や求められる資質などについてわかりやすく解説します。
在宅医療における医師の働き方
医療は提供される場所によって、大きくは以下の3つに分類されます。
・病院やクリニックの外来で提供される「外来医療」
・入院先で提供される「入院医療」
・患者自宅や高齢者住宅などで提供される「在宅医療」
なかでも、患者さんが住み慣れた場所に医師や看護師などが訪問して行う在宅医療は、「第3の医療」として注目されています。
訪問診療は、訪問先によって2つに分けられる
在宅診療では、看護師による「訪問介護」や、理学療法士による「訪問リハビリテーション」、そして医師による「訪問診療」が実施されます。
この「訪問診療」は、訪問先によって2つに分けられます。
施設への訪問
1つめは、医療機関と提携している老人保健施設、高齢者賃貸住宅などへの訪問です。
一つの施設でまとまった人数の診察を行うので、1日のなかで複数の施設を移動し、各施設で診察をしていくという形で業務を進めていきます。
個人宅への訪問
2つめは、個人のご自宅を中心とした訪問です。
一度に複数の患者さんの診察が可能な施設への訪問と比べると訪問できる数には限りがありますが、一人ひとりとじっくりと向き合った診療で大きなやりがいを感じられるのがメリットといえます。
以上のような「訪問診療」は、通院の負担が減る、安らげる環境で医療行為を受けたり体調管理をしてもらえたりする等、患者さんにとって多くのメリットがあります。
また、介護士やケアマネジャー等のさまざまな職種の人が介入することで、患者さんを支えるご家族の負担も和らげることが可能となります。
訪問診療と往診の違い
ちなみに、医師が自宅などに訪問して診察をするといった意味で「訪問診療」とよく混同されるのが「往診」です。
「訪問診療」は、あらかじめ立てられた診療計画のもと定期的に行う診療のことです。
2週間に1回などの決まった頻度で患者の自宅などを訪問し、診察や治療、健康管理を実施します。
一方の「往診」は、何か突発的な症状が出現した際に、患者や家族の要請に応じて訪問して診察を行うことを指します。
在宅医療に携わる医師は、定期的な「訪問診療」と緊急時の「往診」を組み合わせて実施することで、患者さんの自宅や施設での療養生活をサポートしています。
訪問診療に携わる医師の働き方
訪問診療に従事する医師は、訪問診療を主に実施するにクリニック等で勤務するケースが大半となっています。
訪問診療と聞くと「オンコール対応が必須で、ハードな勤務」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし最近では、日勤帯は常勤医師が担当し、夜間のオンコールや出動については非常勤医師が対応するといったタスクシフトを積極的に行い、常勤医師の負担軽減に努める医療機関も増えています。
そのほかにも、平日のみの勤務や週4日勤務、時短での勤務など、柔軟な働き方を相談できる募集も多くあります。
そのため、実はワークライフバランスを重視した働き方を叶えやすい領域として注目され、子育て中の女性医師をはじめとする多くの医師が活躍しています。
在宅医療で医師に求められる資質やスキル
それでは、在宅医療を担う医師には、どのような経験やスキルが必要となるのでしょうか。
総合的に診療する力
在宅医は、内科的疾患から外傷などの外科的処置、皮膚疾患、認知症に対する対応、がんに対する緩和ケア等、あらゆる症状について迅速に判断し、診療科や専門を超えた対応を行うことが求められます。
また、病院やクリニックのように検査機器等のハード面も十分ではない環境で診察を行うことになるため、患者さんの様子やコミュニケーションを通じての判断が必要となります。
よって医学的な知識はもちろんのこと、これまでのキャリアにおいてある程度の経験や実績があることもアピールポイントとなるでしょう。
コミュニケーション能力の高さ
総合的な医療スキルとともに重要となるのが、コミュニケーション能力です。
在宅医は、患者さんの健康管理や基本的な検査、治療以外にも、がんによる疼痛や精神的なつらさに寄り添う緩和ケアや、看取りという重要な仕事もあります。
あらゆる場面で患者さんやご家族の気持ちに寄り添うことができるよう、日頃から信頼関係を築いておくことが必須となります。
また、在宅医療は医師だけで行うものではなく、看護師や理学療法士、薬剤師、栄養士、言語聴覚士、介護士、ケアマネジャーなど、多職種が密に連携を取って行う療養支援です。
そのなかでも医師は、各スタッフ間の連携が円滑に進むようにリードする等でコミュニケーションの中心的な役割を担うことが多くあります。
在宅医の平均年収
続いて気になるのが、在宅医の年収です。
訪問診療に携わる医師に提示される年収帯は、他の診療科よりも高めとなっているケースが多くなっています。
在宅医の平均年収(下限値)は、15,944,816円
医師向けの転職求人サイト「Dr.転職なび」に掲載されている求人票をもとに、42の診療科別・医師の平均年収を算出(※)したところ、「在宅医療」は4番目に高い約1,594万円でした(1~3番目は美容系の診療科)。
これは、診療先となる個人宅や施設への移動や24時間365日求められる対応による医師への負担が考慮されていること、介護施設の慢性的不足により在宅医療への需要が大都市圏で高まっていることなどが要因として考えられます。
※2023年11月時点で「Dr.転職なび」に掲載中の常勤医師求人票をもとに、編集部にて算出。
※診療科別に分別した求人票内の基本給与額のうち下限値の合計をデータ数で割り、目安となる値(「年収平均値(下限)」とよぶ。)を算出。
※求人数が5件以下の血管外科・神経内科・膠原病内科は除外。
※小数点以下は切り捨て。
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訪問診療では、高額年収の募集も多い
一般的に医師の高額年収の目安は1,800万円と言われますが、訪問診療の領域では 2,000万円以上を得ている医師も少なくありません。
ただし高額な年収を得られる一方で、夜間や休日を問わずオンコールを求められるなどのハードな労働環境である場合もあります。
「収入も重要だけど、ワークライフバランスも大切にしたい」と考える医師の方は、しっかりと担当業務の範囲を確認しておくと安心でしょう。
在宅医の活躍を後押ししてくれる資格
最後に、在宅医として勤務する医師がより一層活躍するために役立つ専門医をご紹介します。
より活躍するために取得しておきたい「在宅医療専門医」
在宅医療の医師募集は、内科での募集が大半となっています。
しかし実際には、上記のようにプライマリ・ケアの知識とコミュニケーション力がある医師であれば、専門や経験を問わず歓迎してくれる医療機関も多くあります。
そのため地域医療に関心が高い若手医師や、ワークライフバランスを改善したいと考える医師などが、在宅医療の領域でキャリアを積んでいくというケースも増えています。
実は間口が広い在宅医療ではありますが、より活躍していくために取得しておきたい資格の一つに「在宅医療専門医」があります。
試験は、一次審査として書類審査、二次審査として専門医試験が行われます。
ちなみに、受験資格は以下の通りとなっています。
・5年以上の医師としての経験を有する
・1年間以上の在宅研修プログラムを受講し、修了している
※ただし、自ら在宅医療を5年以上実践しているものは、実績に基づき専門医試験を受けることができるコース(実践者コース)も別途設ける。
このほかにも、「家庭医療専門医」や「老年病専門医」といった資格も、在宅医としての活躍にとって重要なものとなります。
各学会のホームページで、詳しい情報を確認してみましょう。
以上、在宅医療に関わる医師について さまざまな角度から解説しました。
間もなく超高齢化社会を迎える日本の医療においては、病院の病床数を削減して在宅医療へ高齢者を誘導していくという傾向がより一層強くなると考えられます。
在宅医療の社会的需要はますます高まり、訪問診療に携わる医師が活躍することができる場所も今後ますます増えていくでしょう。
医師専門の転職支援サービス「Dr.転職なび」では、在宅医療に精通したコンサルタントが多数在籍しています。
在宅医療に関心のある医師の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
先生のご希望に寄り添い、最適な選択肢をご提案いたします。
参照)
内閣府「令和元年度版高齢社会白書」
国立大学法人筑波大学「COVID-19流行によって在宅医療希望者が増加した~入院中の面会制限の運用改善が必要~」
厚生労働省「第2回在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」
厚生労働省「在宅医療の最近の動向」