紹介状(診療情報提供書)とは、患者が異なる医療機関での診療を受けることになったとき、紹介先医療機関の担当医に向けて医師が作成する書類のことです。
Dr.転職なびの調査によると、他院からの紹介状で「困ったことや不満を感じたことがある」と回答した医師は、全体の72%にのぼっています。
本記事では
・受け取り手となる医師を困らせない
・他院との医療連携をより円滑にする
紹介状の作成方法について、医師が経験した実例や意見を交えながら考えていきます。
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〈おさらい〉医師が作成する紹介状の役割と重要性
紹介状とは?
「紹介状」とは、さまざまな理由により患者が異なる医療機関での診療を受けることになったとき、紹介先医療機関の担当医に向けて医師が作成する書類のことです。
正式には、診療情報提供書といいます。
この紹介状を作成するのは患者の状態を把握している主治医であり、高度な治療や精密検査等が必要と判断した場合と、患者からの依頼を受けて作成する場合があります。
なお紹介状の発行は「診療情報提供料」として保険診療点数が算定されます(「診療情報提供料250点」(1点=10円))。
この診療情報提供料には健康保険が適用されるため、3割負担の方であれば負担額は750円前後となります。
紹介状が果たす2つの役割
この紹介状を医師が作成する最も大きな目的は、患者に関する各種情報の提供です。
紹介先の医療機関においても適切な診療や治療が継続できるように、患者の氏名や住所などの基本情報や傷病名・治療経過・投薬状況などの各種情報を、紹介先の医師へ申し送りをします。
また紹介状をやり取りする事には、医師同士が情報交換を行い コミュニケーションを図るという貴重な機会という側面もあります。
紹介状は、高度な医療設備や専門性を有する基幹病院の勤務医と 患者の身近にあるかかりつけ医がお互いの長所を活かしながら診療を行う病診連携において無くてはならない医療文書なのです。
病診連携が推進される今、「紹介状」は重要な存在
なお、直近の令和4年の診療報酬改定では、医療機関の機能分化や病診連携をより推進するための措置も設けられています。
現状においても一定規模以上の病院の外来へ紹介状を持たずに受診した場合には、一部負担金(3割負担等)とは別に「特別の料金」を徴収することとされています。
2022年10月以降は、その対象となる病院がさらに拡大するとともに、「特別の料金」の額も引き上げとなります。
このような背景から、かかりつけ医機能を有する診療所やクリニックに勤務する医師は、基幹病院への紹介状を作成する機会がこれまでより多くなる可能性が考えられます。
同時に病院の勤務医は、かかりつけ医から受け取る紹介状の件数が今より増えるかもしれません。
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紹介状に関する12の記載事項と注意点
紹介状は、法令や厚生労働省など行政からの通達によって記載すべき内容や様式が規定されている法定書類にあたります。
診療報酬の制度上、保険医療機関では診療に基づいてほかの保険医療機関における診療の必要を認め、患者の同意を得たうえで診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合、紹介先保険医療機関ごとに患者1人につき月1回に限り「B009 診療情報提供料(Ⅰ)」(1回:250点)を算定することができます。
この診療情報提供料を算定し保険請求を行うためには、規定された様式に必要事項を記入することが求められます。
言い換えると、適切に作成されていない場合には、医療監査で診療報酬の返還を求められる場合もあるということなのです。
紹介状で記載が必要な12項目
医療機関に宛てた紹介状では、以下の記載項目を含むように法令で定められています。
なお、必要な項目がすべて満たされていれば、様式については各医療機関で決定して良いとされています。
①紹介先の医療機関情報
紹介先の医療機関名、診療科名、担当の医師名を記載します。
紹介する時点で担当の医師名が分からない場合には、「主治医殿」と記載しておくと良いでしょう。
また、担当の医師名を誤って記載することはマナー違反となります。
必ず正しい情報を調べたうえで記載するようにしましょう。
②紹介年月日
紹介状を記載した日を記載します。
③紹介元の医療機関情報
自院の医療機関名や所在地、電話番号を記載します。
④紹介元の医師名
紹介元の医師の氏名を記載します。
なお、医師へのアンケートでは以下のようなコメントも寄せられています。
・紹介医の情報がないので、問い合わせができなかった。(60代/クリニック・診療所勤務)
内容で不明点があった際には、電話などで問い合わせを受けることも想定されます。
必ず紹介元の医師についても氏名を正しく記載しましょう。
⑤患者の基本情報
紹介する患者の氏名、性別、生年月日、年齢、生年月日、電話番号、職業を記載します。
⑥傷病名
主病名を記載します。
副病名がある場合は、主なものを3つ程度記載すると良いでしょう。
⑦紹介目的
紹介した目的を具体的に記載します。
例)
・精査およびご加療のお願い
・転居に伴う経過観察およびご加療のお願い
・検査結果のご報告
・病状のご報告
⑧既往歴および家族歴
傷病に関連する既往症や家族歴がある場合に記載します。
⑨症状経過および検査結果
主訴や身体所見、検査結果などを含めて、診断するまでの経過を記載します。
検査データがあるときは、添付しましょう。
⑩治療経過
治療の経過や症状の改善状況について記載します。
⑪現在の処方
現在処方している薬の名称、容量、用法を記載します。
事前に問診したかどうかの確認にもなりますので、薬剤アレルギーの有無についても記入しましょう。
⑫備考
上記に該当しないけれど、診療を進めるうえで紹介先の医師が知っておいた方が良いと思われる補足事項を記載します。
例)
・聴覚障害があるため、筆談でのコミュニケーションが必要である
・やや神経質な性格である
・外国の方のため、日本語による説明がスムーズに理解できない
厚生労働省による「紹介状のフォーマット」
なお紹介状の様式については、必要な項目がすべて満たされていれば、各医療機関で決定して良いとされています。
参考までに厚生労働省が公開している診療情報提供書の書式(別紙様式11)をご紹介しますので、適宜ご参照ください。
厚生労働省「(別紙様式11)」
※1ページ目が医療機関宛ての書式となっています
医師の声から考える、紹介先を困らせないための4つのポイント
多忙な診療のなかでせっかく作成した紹介状が、思わぬところで円滑な病診連携を妨げてしまっては本末転倒です。
相手を困惑させない紹介状を作成するためのポイントを、医師から寄せられた声から確認していきましょう。
以下は、受け取った紹介状で困った経験がある医師に聞いた「困った理由」です。
紹介状作成のポイント①手書きや略語は極力避ける
最も多くの医師が困った理由として挙げたのは「手書きの文字が解読できない」でした。
「達筆すぎて困る…」という具体的なエピソードも多く寄せられています。
・文字が読めずに情報を得られないのは、いかがなものかと思う。
極力パソコンで作成して印刷してほしい。(30代/非常勤のみ)
・全く手書きの文字が読めず、電話で確認することになった。(30代/大学病院勤務)
・達筆すぎて読めない。アラビア語かと間違うほどの字で、ものすごく苦労する。
まさか、読めないとは言えないし…いつも3人がかりで解読しているが、時間が勿体無い。(60代/一般病院勤務)
なお介状の作成方法で、最も多かったのは「電子カルテ」(74.5%)です。
「パソコン(ワープロ等)」という回答も合わせると、9割を超える医師が手書き以外の方法で紹介状を作成しています。
なお、「手書き」で紹介状を作成している医師の勤務先を見てみると、以下のような割合となっています。
大学病院における紹介状作成では、手書き以外の紹介状作成ツールが導入されている院が大半のようですが、一般病院やクリニック・診療所などでは電子カルテなどの導入が進んでいない施設もまだ多いことがうかがわれます。
このように、勤務先によって利用できるツールが制限されてしまう場合もあるかと思いますが、手書きとなる場合には 第三者の読みやすいような丁寧な楷書を用いるなどの配慮をしたいものです。
また、外国語や略語の使用は最小限とすることも、読み手に対する心遣いの一つです。
・ドイツ語で、殴り書きされている。(20代/一般病院勤務)
・他科の略語ばかりで、内容がわからない。(30代/一般病院勤務)
普段使い慣れた言葉であっても他院の医師も理解できるとは限りませんので、外国語や略語を使用する際には十分に留意しましょう。
紹介状作成のポイント②継続医療に必要な情報は漏れなく記載
紹介状の「情報が足りない(短すぎる)」ことで困ったという医師も多いようです。
紹介目的が分からない
・名刺に「よろしく」とだけ書かれていた。都市伝説だと思っていたが、実際にあったのでびっくり。
そもそも紹介状扱いにしていいのかも不明。(40代/一般病院勤務)
・病名と、「今後の診療宜しくお願い致します」の一文だったとき。
これまでの闘病の様子や使用した薬剤、患者や家族の価値観、何らかの身体症状の有無、なぜその薬剤が処方されているかなどの情報が一切ない。(30代/一般病院勤務)
診療に必要な情報が不足している
・自身が研修医で、ER担当だったとき。
本文は無く、血圧などバイタルサインだけ走り書きした紹介状が開業医から送られてきたときには、閉口した。(30代/一般病院勤務)
・経過の記載がない。(60代/クリニック・診療所勤務)
・便秘等、傷病経過については申し送りがあるのに、認知症のような周辺に潜む問題点をあえて外してある。(50代/クリニック・診療所勤務)
・詳細な検査結果が添付されておらず、改めて問い合わせた。(60代/一般病院勤務)
・記述内容と処方の整合性が不明なもの。(50代/一般病院勤務)
・糖尿病患者の紹介で、病歴、内服薬をいつどのように調整してきたか、合併症の情報が全く無いことが頻繁にある。(40代/一般病院勤務)
・実際の患者の症状と、記載してある症状がかけ離れている。(50代/一般病院勤務)
・部位の左右記載が間違っていた。(40代/一般病院勤務)
長いのに内容が要約されていない
紹介状の内容から迅速に紹介目的を把握したい紹介先の医師にとっては、長すぎる紹介状もスムーズな診療開始への脅威となっているようです。
・詳しければよい、というものでない。
最近は電子カルテをそのまま出力したり、CTやMRIが所見なしについてきたりする紹介状もある。(70代/クリニック・診療所勤務)
・○○でしたが、こうでした。△△でしたが、こうでした…と、接続詞の「が」がやたら多くて、結局何を伝えたいのかよくわからない紹介状。(50代/一般病院勤務)
・長くて要領を得ないものは困ります。(30代/一般病院勤務)
なお紹介状の長さについて「作成時により意識していること」を聞いたところ、以下のような結果となっています。
・【簡潔】できるだけ短めに、内容を要約する」…61.9%
・【詳細】多少長くなっても、多くの情報を網羅する」…25.9%
・「どちらともいえない」…12.2%
多忙な診療中でも紹介先の医師が迅速に情報を把握するために、紹介状を簡潔に記載するも重要ですが、上記でご紹介したような情報不足にも留意したいところです。
・簡潔明瞭ながら十分な情報が含まれた紹介状は、その医師の有能さがわかる。(50代/クリニック・診療所勤務)
上記のコメントのように、短いながらも必要なポイントを十分に網羅した紹介状は、受け手となる医師からの心象や信頼度をアップにもつながります。
「この先生は、安心して連携できる医師だ」といったように、病診連携においてもより良い影響を与えてくれるかもしれません。
紹介状作成のポイント③患者への説明内容を正確に記載する
紹介状の内容は、患者さんと紹介先の医師との関係性に大きく関わります。
また紹介状は公的な医療文書のため、事実に反することを記載した場合には刑法の公文書偽造(第155条)や虚偽公文書作成(同156条)、虚偽診断書等作成(同160条)などで処罰の対象となる場合もあります。
作成する際には、「紹介先の医師が、患者さんとの信頼関係を築きやすくなるように」という視点に立ち、これまでに患者さんとやり取りをしてきた内容は正しく共有しましょう。
また、患者さん自身の病気との向き合い方や生活の背景などについて触れることも、紹介先でのスムーズな診療開始の手助けとなるでしょう。
▼困った事例
・検査データや患者さんへの説明内容などがあまり書かれておらず、ご家族への説明も不足している。(60代/一般病院勤務)
・紹介状の内容と、実際の状況が異なる患者さんは困る。
治療の希望がない方、境界性人格障害やパーソナリティ障害の方に多いが、嘘なく正確に書いてもらいたい。(50代/非常勤のみ)
・患者が希望していない場合は、「貴院受診を希望され」と記載しないで欲しい。(50代/クリニック・診療所勤務)
・「手術が必要(または不要)である」、全身麻酔が必要な症例に「日帰りで局部麻酔による手術が可能」など、事実と異なる内容を説明されていると困る。(50代/一般病院勤務)
▼良い事例
・治療方針に対する患者さんの希望など、スムーズに診療を継続できるような内容が書いてある。(40代/大学病院勤務)
・要点をまとめてあり、患者の背景も書かれてあると、患者と関わりやすい。(40代/一般病院勤務)
・患者の性格や考え方など、疾患背景まで踏み込んだ内容が記載されている。(50代/クリニック・診療所勤務)
・経過が分かりやすく、資料もあって、どのような治療方針か理解できることが大切。
さらに患者さん自身の思いについても言及されていると、引き継ぎやすい。(60代/一般病院勤務)
紹介状作成のポイント④紹介元へ返書を送ることも忘れずに
ほかの医療機関から紹介された患者さんが受診をしたとき、来院の報告や紹介に対する御礼のために返書を作成することがあります。
今回実施したアンケートでは、半数を超える医師が紹介元への返書作成を「必ずしている」と回答しています。
「だいたいしている」という回答を合わせると9割以上となり、多くの医師が紹介先への返書作成を日常的に行っている様子が伺えます。
Q:紹介状を受け取った後、紹介元への返信や患者の転帰情報を提供はしていますか?
一方で、紹介元の医師の立場からみた場合には、返書を「必ず受け取っている」という認識がある医師はわずか12%となっています。
Q:患者の紹介後、紹介先からの返信や患者の転帰に関する情報提供はありますか?
「だいたい受け取っている」との回答と合わせても返書を日常的に受け取っていると認識している医師は8割程度となり、紹介元・紹介先という立場によって認識にやや乖離がみられることが分かります。
・大学病院に勤務していた時代は、入院時と転科・退院時、あるいは死亡時は100%速やかに返信を送っていたので、自分にとって紹介状の返書を作成することは当たり前。
しかし、病院や個人によって差があると感じる。(50代/クリニック・診療所勤務)
・こちらが送った患者に対しての返信が全くない病院が多い。
大病院にとってはその程度の患者であり、その程度の病院なのだなと感じる。(40代/一般病院勤務)
多くの業務タスクに追われる医師であっても、患者紹介を受けた医師の礼儀・マナーとして紹介元への返書はぜひ作成しておきたいところです。
・〇〇様が、本日受診されました。検査結果や経過については後日ご報告いたします。
・当院で引き続き加療させていただきます。ご紹介ありがとうございました。
など、内容は簡単でも構いません。
紹介元の医師が安心できるようなタイムリーなコミュニケーションを心がけると、「今後も積極的に紹介しよう」と感じてもらえるでしょう。
その積み重ねがより強い信頼関係を築くことに繋がり、円滑な病診連携を実現してくれるのではないでしょうか。
1つの医療機関や診療科だけで完結しないケースも多いのが、現在の日本の医療です。
患者さんを高い専門性や技術を有する医療機関へ紹介することもあれば、逆紹介されることもあります。
紹介状は、紹介される患者さんと紹介先の担当医との架け橋となる重要な文書です。
作成時に押さえておきたいポイントを知り、実践していくことで、より良い病診連携につなげていきましょう。
▼調査概要「紹介状(診療情報提供書)についてのアンケート」
調査日:2022年9月6日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する医師
回答数:553人
参照)
厚生労働省「紹介状を持たずに特定の病院を受診する場合等の「特別の料金」の見直しについて」
厚生労働省「令和4年度診療報酬改定について」
小林光雄・山川美登里 著「医療文書作成マニュアル」(ミクス)
中村 雅彦 著「医師・医療クラークのための医療文書の書き方」(永井書店)