いまや多くの人々の日常に溶け込んでいるといわれるSNSですが、当社調査(※)によるとSNSで自ら情報を発信する医師は、全体の2割程度。
医師としてSNSを活用している方はまだ多くないという印象を受ける結果となりました。
一方で、医師として積極的にSNSを活用して自科のブランディングを行い、患者構造を大きく変え、医師の働き方の改革に繋げている医師もいます。
本記事は奈良原 裕先生へのインタビュー前編として、SNSを始めたきっかけや周りからの反響、そして医師としての情報発信についてお聞きしました。
奈良原 裕(ならはら ゆたか)
1970年生まれ、東京都出身。中央大学法学部法律学科を卒業後、石油元売りメーカーに入社したが「直接相手に喜んでもらえる仕事をしたい」との思いから、およそ5年勤務した同社を退職。医師を目指し1年半の受験期間を経て、高知大学医学部へ再入学。卒業後は外科・高度救命救急を学んだのち、38歳で心臓血管外科医となる。
現在は神奈川県横浜市の菊名記念病院にて多くの心臓手術の執刀を担当しながら、北海道をはじめとする地域医療にも携わり、地域医療の新しい未来モデル作りにも挑戦している。
SNSをはじめたきっかけと経緯、反響について
「仲間を増やしたい」という思いから自科のFacebookページを開設
Q:先生がSNSを始めたきっかけを教えてください。
「私が医師としてSNSを始めたのは、後期研修先であった菊名記念病院の心臓血管外科でFacebookページを開設したことがきっかけです。
始めた当時は、まだSNSが収益化や広告のために使われていない時代で、SNSは人と人とをつなぐコミュニケーションツールという認識でした。
心臓血管外科で働く私たちの日常や、一人の心臓血管外科医としての自分の成長過程を主に投稿していました。
そのうち、一緒に手術に入っていただく麻酔科の先生や看護師さんなど、心臓血管外科に関わってくれている方々の紹介も始めて。
私たちの投稿を見てくれる人が、「この人たち、楽しそうだな」とか「この人たちと一緒に仕事したい」と感じてくれたら良いなという感覚でした。
そのような人たちが一緒に働くスタッフとして来てくれても良いし、一緒に働けないとしても周りの開業医や勤務医の先生方や医療従事者、医療従事者以外の方々、患者様、そして患者様以外の一般の人たちとも繋がるきっかけになればと考えていました。」
多くの「いいね!」を集め、医療分野では有数のFacebookページに
Q:ページへの反響は、どのようなものだったのですか?
「嬉しいことに私たちのページは、病院のFacebookページでは異例とされるほどの大きな反響をいただいて、当時いただいた「いいね!」の数は 病院運営のFacebookページのなかでは日本一ともいわれるほどでした。
このように多くの方から見ていただけた理由は、作り話ではない「物語」を発信したことが大きいのかなと思います。
多くの医療機関が開設するFacebookページは少し硬いというか、比較的無難なものが多いように思えますが、私たちが主に投稿していたのは、現場で起きている実話のストーリーでした。
例えば、現在ある男性看護師が手術室にいるのですが、元々彼は看護助手として手術室の前で掃除をしたり、ごみ箱の整理をしたりしていたスタッフでした。
その彼があるときから勉強をして看護学校に入りました。
そして、看護学校を卒業し、看護師としてうちの病院へ戻ってきてくれた。
その後は手術室の看護師として、虫垂炎やヘルニアの手術などの手術を一つずつ覚え、心臓手術の器械出しをするまでになり、今では一緒に手術をしています。
手術室の外でゴミ箱を片付けながら手術室を覗いていた青年が、私たちと一緒に心臓の手術をするようになった。それって、本当にストーリーですよね。
このように私たちのFacebookページでは、自分たちのことだけではなく、心臓血管外科に関わってくれる方々のストーリーを写真とともにアップしていきました。
外来や手術、当直の合間をぬって、私が撮影した写真を上司が画像加工し、記事は私が担当するというチームプレーで投稿を続けるうちに、見てくださる方がどんどん増えていきました。」
医師としての情報発信について
独自の取り組みで、患者様とご家族に寄り添う情報を発信
Q:Facebookページでは、患者様に関する内容も投稿されています。
患者様の情報は どの程度まで公開するのか、判断が難しそうですね。
「そうですね。
患者様に関わる場合は特にですが、SNSで情報をどこまで開示するのかは非常にデリケートな問題かと思います。
しかし患者様やそのご家族にとって、同じ疾患と向き合う患者様のリアルなストーリーや経験談は大きな信頼に値する情報となるのではと考えました。
このような思いから、少しずつ患者様のストーリーも投稿するようになりました。」
Q:病院ホームページ内にある心臓血管外科のページでは、実際の患者様が登場されていますね。
「これから命を懸けて手術を受けようとしている患者様にとって、実際の患者様の姿から一連の流れを知ることができることは、大きな安心感につながると思うのです。
そこで実際に心臓手術を受けることになった患者様にご協力いただき、入院手続きから手術当日、手術後のリハビリの様子などを一枚一枚写真で撮影して記録しながら、退院時までの経過を追わせていただきました。
同じ疾患と向き合う患者様に もう一歩前に進んでもらうための安心材料として、ぜひとも形にしたいという思いで制作を進めました。」
「私たちがこのような情報を発信することができたのは、このページに登場してくださった患者様の『実際の治療経過を記すことで、この先心臓手術が必要となる患者様たちの悩みや不安を少しでも和らげることにつなげられたら』というご厚意と信頼関係があったからこそだと思います。
SNSでの投稿においてもそうですが、心臓血管外科医として情報発信をする際には、患者様が命を預ける相手を主体的に選択するために役立つような情報を発信していきたいと考えています。」
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インタビュー後編では、SNSを活用したブランディングの方法や、ブランディングが患者構造や医師の働き方に与えてくれた影響などを伺います。ぜひ合わせてご覧ください!
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(※)調査概要「医師のSNS利用についてのアンケート」
調査日:2022年9月20日~9月23日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
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