2024年4月から適用される「医師の働き方改革」は、時間外労働の上限規制などの健康確保措置によって医師の生命・健康を守り、医療の質向上にもつなげるという大きな意義があります。
しかし、現在多くの医師が医局派遣や副業として常勤先以外の医療機関でも勤務をしています。
今後はこの副業を含めた総勤務時間が上限を超えないように、より厳格な医師の勤務時間の管理が求められます。
そこで重要になるのが、医療機関の「宿日直許可」の取得有無です。
「宿日直許可」がある副業先であれば原則的に勤務時間とみなされないため、大学病院の医師派遣の引き上げや非常勤医師の採用ができないといった事態を避けることができると考えられます。
医師の働き方改革の施行開始まで1年半を切った今、医療機関ではどのように対応を進めているのでしょうか。
また、当事者となる医師たちは、医療機関の宿日直許可の取得状況に対してどのくらいの関心を寄せているのでしょうか。
今回 エムステージでは医療機関の「宿日直許可」の取得状況について調査を実施、全国の医療機関286院から回答を得ました。
各医療機関の宿日直許可の取得状況は?
78.2%の医療機関が宿日直許可の取得を希望
宿日直許可の取得状況については、78.2%の医療機関が宿日直許可を取得済みまたは取得を希望していることが分かりました(「宿日直許可を申請する予定はない」、「まだ分からない」以外の回答を集計)。
宿日直許可の取得について、準備段階の医療機関が44%
なお全体の15.7%にあたる医療機関が「働き方改革に着手する以前から許可を受けている」、18.5%にあたる医療機関が「すでに許可を受けた・受ける見込だ」と回答しており、3割を超える医療機関がすでに宿日直許可取得の手続きを終えていることが分かります。
一方、宿日直許可を取得することを希望しているものの、まだ準備段階である医療機関は44%となっています(「宿日直許可を受けるため申請・相談している」、「宿日直許可を受けることを検討しているが、まだ申請・相談はしていない」の回答を合計)。
33.5%の医療機関は、何らかの基準で対象を限定して宿日直許可を申請
労働基準法では、<常態としてほとんど労働することがなく、労働時間規制を適用しなくとも必ずしも労働者保護に欠けることのない宿直又は日直の勤務で断続的な業務(例えば、いわゆる「寝当直」に当たるような業務)については、労働基準監督署長の許可を受けた場合に労働時間規制を適用除外とする>と定めています(宿日直許可)。
急性期病院など医療機関の特性によっては上記の宿日直許可の基準を満たさないケースも多いと考えられますが、実は全時間帯や全職種だけではなく、一部の診療科や職種時間帯のみといった条件を限定した申請をすることもできます。
そこで既に宿日直許可を取得済みまたは申請中と回答した医療機関に申請対象を限定したか尋ねたところ、およそ3割の医療機関が何らかの条件で対象を限定して申請をしたことが分かりました。
さらに、どのような条件に限定して申請したかを尋ねたところ、最も多かったのは「職種」(回答数:34)であり、次いで「時間帯」(回答数:21)、「業務の種類」(回答数:15)、「診療科」(回答数:7)の順に多くなっています。
宿日直許可を取得しない理由は「基準に該当しない」が最多
なお「宿日直許可を取得する予定はない」と回答した医療機関に対して、その理由について尋ねたところ、自院が無床診療所や急性期病院などのため「基準に該当しない」(回答数:29)が最多で、次いで「時間外勤務が上限時間内に収まっていて、対応の必要性がない」(回答数:5)という結果となっています。
「宿日直許可の取得有無」による医師確保への影響は?
65%の医療機関が、宿日直許可の有無は「自院の医師確保に影響する」と回答
宿日直許可の取得状況が自院の医師体制確保に影響があると思うか尋ねたところ、「影響がある」と回答した医療機関は全体の65%を占め、多くの医療機関が2024年4月以降の医師確保について懸念を抱いていることが分かります(「大きな影響がある」と「影響がある」を合計)。
2024年4月以降、医療機関が危惧する「非常勤医師の確保」と「医療体制の維持」
医療機関からのコメントでは、大学医局からの医師派遣が引き上げとなってしまうことへの不安や、現在の医療提供体制を維持できなくなってしまうのではという懸念の声が数多く寄せられました。
◆非常勤医師の確保が難しくなる
・夜間当直は非常勤医師にお願いしており大半が大学病院の医師のため、宿日直許可を取らないと夜間当直医師が回らない。(大きな影響がある/100床未満・急性期病院)
・ほとんどの当直をスポットや外勤の先生にお願いしているため、医師の確保が難しくなる。(大きな影響がある/100床以上200床未満・ケアミックス病院)
・「日直回数が月1回」との回数制限があるため、特に週末の日直に複数回入っていただいている先生については今後1回しかご勤務をお願いできない。(影響がある/100床以上200床未満・急性期病院)
◆常勤医の負担が増える
・当直の大半を外部より調達しているので、許可がなければ大学病院等に勤務する医師からの応募者が減少し、常勤医の負担増となる。その為に医師の増員の検討がさらに必要となる。(大きな影響がある/100床未満・ケアミックス病院)
・近隣の大学病院からの派遣にて宿日直が成り立っている。「宿日直」が取得できないと自院の常勤医師にて体制構築が必要となり、とてつもない負担となる。(大きな影響がある/100床未満・ケアミックス病院)
・取得しないと当直に穴が開く。時間外の概念を受けない理事長・院長への負担が増大する。(大きな影響がある/100床未満・療養病院)
◆現在の医療提供体制を維持できなくなる
・宿直医師が決まらない日があれば、その診療科の救急受入が出来なくなる。地域医療にとって大きな問題であると考える。(大きな影響がある/300床以上400床未満・急性期病院)
・医師が少ない地域で2次救急を担当していると、宿日直許可申請が通らない可能性が高い。むしろそういった中小の2次救急指定病院が、2024年の働き方改革に大きく影響される中で、特に医療過疎地域はますます厳しい状況になることが予想される。(100床以上200床未満・ケアミックス病院)
・宿日直許可を得られなかった場合、現在非常勤医師で埋めている当直枠が引き上げによって、埋まらなくなる可能性が高い。そうなると埋まらない枠に常勤医師が入らざるを得ない状況となるが、勤務間インターバルを加味すると翌日の外来、手術、処置などが人手不足となる。(大きな影響がある/200床以上300床未満・急性期病院)
◆今よりも人件費がかかる
・非常勤医師を多数お願いしなければならない。人件費がかかる。(大きな影響がある/100床以上200床未満・療養病院)
・管理者の宿直回数が増える。やむを得ず週2回目になった際は、時間外報酬として支払うことになる。(100床以上200床未満・精神病院)
・宿日直許可が得られず「勤務時間として対応せよ」となった場合は、多額の人件費が発生してしまう。病院運営に大きな影響が出るため、時間外対応を停止せざるを得ない可能性がある。(大きな影響がある/100床未満・ケアミックス病院)
・外勤をしている勤務医がいるが、外勤先の施設が宿日直許可を受けていなければ、残業時間超過してしまう可能性がある。また残業時間超過により外勤を辞めてもらう必要が出た際は医師の給与が減ってしまうので、場合によってはその減額分を補填する必要が出てくる。(大きな影響がある/100床未満・ケアミックス病院)
その他、以下のような意見も寄せられました。
・宿日直許可が時間外労働時間の免罪符的な役割になっている。本来の医師の働き方改革から歪んだ対応になりがちではと感じる。(200床以上300床未満・ケアミックス病院)
・医療機関と医師の合意で十分と思います。宿日直の基準を決めること自体がナンセンス。(100床未満・無床診療所)
・全国的に医師不足なことは誰もが承知している社会問題だが、現実的に不可能に近い要件が示されており、労基、医療現場とも苦慮している。守れるルールと医師の労働のバランスをとり、再度当該事項について検討することが必要であろう。(200床以上300床未満・精神病院)
医師の「宿日直許可」に対する意識・関心は?
続いて、勤務する当事者となる医師の意識や関心について確認していきましょう。
今回Dr.転職なびでは会員医師を対象に、2024年4月からの「医師の働き方改革」以降の年収や働き方の変化についてアンケートを実施。669名の医師から回答を得ました。
32.8%の医師は、医師の働き方改革以降「年収が減る」と回答
「医師の働き方改革」以降の年収変化について尋ねたところ、「あまり変わらない」(42.9%)が最多となり、次いで「減少する」(26.7%)、「まだ分からない」(21.2%)、「大幅に減少する」(6.1%)、「増加する」(3.1%)の順に回答が多くなっています。
「大幅に減少する」および「減少する」を合計すると全体の32.8%となり、およそ3人に1人の医師が医師の働き方改革以降は年収減となると推測していることが分かります。
医師の働き方改革以降の医師年収が減る大きな理由は「非常勤からの収入減」
医師の働き方改革以降は年収が減る見込みと回答した医師(「大幅に減少する」または「減少する」と回答した医師)にその理由を尋ねたところ、最多となったのは「非常勤での収入が減少するため」(64%)となりました。
「常勤・非常勤両方の収入が減少するため」(16%)と合わせると、80.5%もの医師が非常勤先からの収入減によって年収が減ることを懸念していることが分かります。
実際に、募集への問い合わせの際に宿日直許可の取得状況についても確認する医師が増えており、医師側でも「もうすぐこれまで通りの感覚でアルバイトができなくなる」といった認識が広がり始めていることが伺われます。
今後の医師アルバイト探しでは「宿日直許可の有無」が重視されるようになる
では医師がアルバイトを検討する際、宿日直許可の取得有無はどのくらい重視されるようになっていくのでしょうか。
現在アルバイト探しの際に決め手となっている条件と、2024年4月以降にアルバイト探しの際に決め手となると思われる条件を尋ねました。
現在も2024年4月以降も変わらず、最も多くの回答を集めたのは「曜日や時間、日程」(回答数:299、266)で、次いで「給与」(回答数:264、252)、「勤務内容」(回答数:235、217)の順に多くなっています。
「宿日直許可の取得状況」は、現在はそれほど多くはないものの、2024年4月以降を想定した場合には現在の5倍以上の回答数となっています。
また、医療機関が宿日直許可を取得状況について関心があるか尋ねた質問では、54.6%の医師が「関心がある」と回答しています(「大いに関心がある」「関心がある」の回答を合計)。
さらに、今後のアルバイト探しにおいて求人票や検索条件等で医療機関の「宿日直許可の取得状況」が分かることは重要になると思うかを尋ねた質問では、69%の医師が「重要である」と回答しています(「重要」「非常に重要」の回答を集計)。
このように医師の宿日直許可への関心は高まりを見せており、今後のアルバイト探しにおいて重視すべきポイントであるという認識がより一層広がっていくものと推測されます。
以上、医療機関における「宿日直許可」取得・準備状況や、医師の意識・関心などについてご紹介しました。
大きな意義のある医師の働き方改革ですが、慢性的な医師不足が続くなかで医局派遣や外部の非常勤医師によって病院運営や常勤医師の負担軽減を行ってきた医療機関の多くが、今後の医師確保や現状の医療提供体制の維持に懸念を抱いていることが今回の調査から分かりました。
また、医師側でも2024年4月以降はこれまで通りアルバイトができなくなることを不安視している方が増えており、医師のアルバイト探しにおいても大きな変化が訪れることが推測されます。
Dr.アルなびでは、医師の働き方改革に向けた市場変化にも詳しい専任のコンサルタントが先生のアルバイト探しをしっかりとサポートいたします。
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◆調査概要
「宿日直許可、医師の労働時間管理に関するアンケート」
調査日:2022年11月1日~11月18日
有効回答:286
対象:全国の病院・診療所・老健など
回答属性:急性期病院61院、ケアミックス病院77院、療養病院37院、回復期リハビリテーション病院21院、精神病院31院、有床診療所13院、有床診療所33院、老健3院、その他10院
調査方法:Webアンケート
「医師の働き方改革以降の労働時間・年収変化について」
調査日:2022年12月6日~12月13日
有効回答:669
対 象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:Webアンケート
▼詳しい結果はこちらでチェック▼
参照)
厚生労働省「医療機関の皆様へ(宿日直許可制度の御紹介)」