24時間365日の対応が求められることも多い医師は、「休みが少ない」というイメージがあるのではないでしょうか。
実際Dr.転職なびが医師466名に実施したアンケートでは、直近1年間で週2~3日休みを取れた医師は、全体のわずか55.1%という結果が出ています。
本記事では、医師の休み事情や医師の休みが少ない理由、休みを取りやすい勤務先の特徴を解説します。
目次
週あたり、どのくらい休めている?医師の「休み」事情
【理想】84.7%の医師が適正と考える休日数は、週「2~3日」
Q:適正・理想的と感じる、主なご勤務先における週あたりの休日(有給休暇を除く)日数はどれくらいですか?
上記のグラフの通り、医師が適正・理想的と感じる週あたりの休日数は「2日」(50.6%)という意見が最多でした。
次いで多くの回答を集めた「3日」(34.1%)と合わせて、全体の8割以上を占める医師は週「2~3日」の休日を取るのが適正と考えていることが分かります。
【現実】直近1年間で、週「2~3日」休めた医師は55.1%にとどまる
続いて、直近1年間で医師が実際に取得した週あたりの休日数を尋ねました。
Q:直近1年間を振り返って、主なご勤務先における週あたりの休日(有給休暇を除く)は何日くらいありましたか?(常勤先のある医師のみ)
医師が直近1年間で実際に取得した休日数は、週あたり「2日」(45.7%)が最多となり、次点は週あたり「1日」(32.9%)となりました。
上述では8割以上の医師が週「2~3日」の休みを適正と考えていることをお伝えしましたが、実際に週「2~3日」の休みを取得できた医師は全体のおよそ半数にとどまっています。
一方で週あたりの休みが「0~1日」と回答した医師は39.0%に上り、適正・理想とする休日数とは大きくかけ離れた労働環境に置かれている医師も多いことが推測されます。
「週3日休み」という働き方が叶う!
残さず使えている?医師の「有給休暇」の取得状況
2021年の有休取得率は、過去最高の58.3%を記録
厚生労働省が公表している「令和4年就労条件総合調査」によると、2021年に企業が付与した有給休暇(繰越日数を除く)取得率(※)は58.3%で、過去最高を記録しています。
(※)1年間の全従業員が取得した有給休暇取得日数を、1年間の全従業員に会社が付与した有給休暇付与日数で割って算出したもの。対象は労基法で定める法定の有給休暇で、企業独自の慶弔休暇や特別休暇などは含まない。
このように国を上げて労働者の有給休暇取得が推進される中、医師は勤務先から付与された有給休暇をどのくらい活用できているのでしょうか。
67.6%の医師は、半分以上の有給休暇を取得できていない
以下のグラフは、医師に直近1年間で取得した有給休暇の割合を尋ねたものです。
Q:直近1年間で、有給休暇をどのくらい取得しましたか?(常勤先のある医師のみ)
付与された有給休暇を「全て取得した」(7.9%)医師は1割以下にとどまり、最も多かったのは「1~2割程度」(31.1%)しか取得していない医師でした。
全体的に見てみると取得した有給休暇が「5割以下」の医師が67.6%となり、全体の7割近くを占めていることが分かります。
また、直近1年間で有給休暇を「一度も取得していない」医師が16.3%も存在している点も見逃せないポイントです。
医師の休日が少なくなってしまう理由は?
4人に1人の医師は、現在の休み方に不満がある
上述でご紹介したような休み方について、医師はどのように感じているのでしょうか。
以下のグラフは、現在の休日数に対する医師の満足度を示したものです。
Q:現在の休日(有給休暇を除く)の取得状況について、満足していますか?
6割近くの医師は「まあ満足している」としている一方で「やや不満がある」または「非常に不満がある」とした医師も24.9%存在しており、一定数の医師は現状の休日数に不満を抱えていることが分かります。
医師が考える、「医師が適正な日数の休みが取れない理由」は?
さらに、満足できる日数の休日が取得できていない理由についても尋ねました。
Q:満足できる日数の休日が取得できていない理由として、当てはまるものを教えてください。(いくつでも選択可)
医師が休みを取れない理由①医師が不足している
最も多くの医師が挙げた理由は、医師数の不足です。
自分が休んだ際にフォローしてくれる医師がいないため、休日出勤をしたり時間外勤務をしたりといった働き方をせざるを得ないというケースも多くあるようです。
・救急救命センターで、シフト制が採用されている。
医師の人数が少ないと時間外勤務扱いとなり、休日が強制的に無くなっている。(40代/救急科/勤務医(大学病院以外の病院))
・専門外来や曜日が固定された当直があり、変更を言い出したり計画したりするのが面倒である。
休む時は、3ヶ月以上前から計画しないと実質的に無理。(40代/脳神経内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・一般企業で働く会社員等は、いつ休んでもフォローしてくれる人がいるのが羨ましい。(60代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
医師が休みを取れない理由②業務量が多い
医師一人が担っている業務量が多いことが、休みの取りづらさに繋がっているという声も多く寄せられました。
・月の2/3以上を、オンコール当番として拘束されている。
呼び出しはそれほどないものの、拘束時間に対する報酬はないため給料は上がらない。(30代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
医師が休みを取れない理由③自分が担当する患者の体調確認や対応が必要になる
休日であっても、自身が主治医として担当している患者の様子を見に行くという医師は多くいるようです。
特に患者が手術直後であったり、容態が急変する可能性があったりする場合には、いつでも病院に駆け付けられるよう気を張りながら過ごす休日は、医師にとって大きな負担となり得るでしょう。
・土日や休日でも患者が急変するため、診察せざるを得ない。(50代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
医師が休みを取れない理由④上司や先輩がいい顔をしないので、言い出しづらい
「有休を取りたい日があるけれど、上司に相談しづらい…」と感じた経験はありませんか?
厚生労働省の調査(※2)によると、全体の約3分の2の労働者は、年次有給休暇の取得にためらいを感じているといいます。
(※2)参照:厚生労働省「年次有給休暇取得促進特設サイト」
本調査でも 全体の48%にも上る医師が、年次有給休暇の取得に「罪悪感」や「ためらい」を感じた経験があると回答しています。
Q:有給休暇を取得することに、「罪悪感」や「ためらい」を感じたことはありますか?(常勤先のある医師のみ)
・休暇を取ると その分患者が溜まってしまい、休みの前後の外来が大混雑してしまいます。
また、休暇を多く取ると「◯◯先生はいないことが多い」という悪評が流れて、患者との信頼関係が崩れることも。休みを取るのも、良し悪しです。(40代/眼科/勤務医(大学病院以外の病院))
また1割を超える医師は、有給休暇を申請したものの上司等から承認されなかった経験があると答えています。
Q:有給休暇を申請して、許可されなかったご経験はありますか?
・「夏休みが長すぎる」と怒られた。(60代/消化器内科/勤務医(診療所・クリニック))
・前の職場を退職する前、数十日残っていた有給休暇を取りたかったが、「退職申出後の有休取得はできない」とのことでした。
おかしいとは思いましたが、狭い世界なので転職後に揉めるのを避けたく、有休は捨てました。(50代/産業医/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))
労働基準法第39条では、「労働者が有給休暇を申請してきたときに、事業者は有給休暇を与えなければならない」と定められています。
よって、医師が有給休暇の取得申請をした時に、勤務先が取得させないのは違法な行為となります。
一方で、同条では「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」との定めもあります。
もし勤務先から時季変更の要請があった場合には、双方で相談の上で取得時期を決めていきましょう。
なお勤務形態が非常勤である場合も、要件を満たした労働者には有給休暇が付与されます。
付与日数など詳しい情報は、以下でご確認ください。
参照:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
医師が「休みを取りやすい」勤務先の2つの特徴
「医師が休みやすい環境作り」を進めている勤務先も多い
医師が休みや有給休暇を取得しづらい労働環境がある一方、医師が休みやすい環境作りを積極的に進める医療機関もあります。
以下は、常勤先による医師が休みやすい環境作りの実施状況を尋ねた質問への回答です。
Q:主なご勤務先では、医師が休みやすい環境作りが進められていると感じますか?(常勤先のある医師のみ)
常勤先の医療機関において「医師が休みやすい環境作りが進められている」と感じている医師は、全体のおよそ6割となりました。
2024年4月に始まる「医師の働き方改革」に向けて、医師の労働環境改善に取り組む医療機関は今後ますます増えてくるでしょう。
「医師が休みやすい環境作り」を進める医療機関が、実施していることは?
なお、医師が休みやすい環境作りを進めている医療機関で実施されていることを尋ねた質問では、以下のような回答が集まりました。
Q:医師が休みやすい環境を作るために実施されていることとして、当てはまるものを教えてください。(いくつでも選択可)
医師が休みやすい勤務先の特徴①有給休暇を取得しやすい風土がある
最多となったのは、「有給休暇の取得を推進している」(回答数:121)です。
前章では、半数近くの医師が年次有給休暇の取得に罪悪感やためらいを感じた経験があるとご紹介しました。
しかし有給休暇は、労働者に認められた権利として法律上で定められたものです。
以下は、休みを取りやすい勤務先へ転職をした医師から寄せられたコメントです。
・勤務先に「医師が疲れていては、良い医療を提供できない」という考えが浸透しており、休みを取る罪悪感が無くなった。(50代/一般内科/産業医)
・有休を取得して保護者参観や遠足など 子どもの行事に参加したり、子どもが病気の時に付き添い入院できたりするようになった。(40代/呼吸器内科/勤務医(健診施設や老健など))
・自分や家族になにかあっても、休める。お世話になった分、他の先生がお休みの時は頑張るという好循環の中で働けて幸せです。
仕事のパフォーマンスも向上し、より良い医療を提供できている実感もあります。(40代/一般内科/勤務医(非常勤のみ、フリーランス))
休みが必要な時・休みたい時に、気兼ねなく申し出ができるような風土があることは、働きやすさにも大きく繋がるのではないでしょうか。
転職で求人を検討する際には、その医療機関の休みやすさを知る指標の1つとして「医師の有休取得率」を確認しておくと良いでしょう。
医師が休みやすい勤務先の特徴②勤務医の負担を分散・軽減する対策を講じている
医師体制を調整し、勤務医一人にかかる業務負担を軽減する施策を実施している医療機関も、医師が休みを確保しやすく働きやすい勤務先といえるでしょう。
本調査では、医師が休みやすい環境を作るために常勤先が実施していることとして「休日は、電話やメール等で仕事の連絡をしない」(回答数:86)、「複数主治医制や非常勤医師の活用など、常勤医師一人あたりの負担を減らす」(回答数:83)という回答が多く寄せられました。
24時間365日の対応が求められる医療の世界であっても、医師が適正な休みを取りながら働ける勤務先は多くあります。
そのような勤務先では「医師のオンとオフ」を意識し、複数主治医制や非常勤医師を上手に活用して医師の業務過重を分散できるよう配慮されています。
オンオフをしっかりつけた働き方を希望するなら
医師が「休みやすい勤務先」4選と、転職を考える際の注意点
最後に、休みを取りやすさを重視して転職を考える際に知っておきたい勤務先の選択肢や注意点をご紹介します。
70.2%の医師は、「休みやすい勤務先」への転職を考えたことがある
Q:これまでに「休日が取りやすい勤務先」への転職を考えたご経験はありますか?
上記のグラフのように、休日が取りやすい勤務先への転職を考えたことがあると回答した医師は全体の70.2%を占めました。
そのうち36.5%は具体的に転職活動を行った経験があり、さらに全体の18.5%に上る医師は実際に休日が取りやすい勤務先へ転職をしています。
医師でも「休みを取りやすい勤務先」4選
一般的には、救急病院などの勤務医は休みが取りにくい傾向がみられます。
しかし前章でご紹介したように、有給休暇を取りやすさや勤務医の業務負担軽減への配慮があり、医師がしっかり休みを確保しながら働ける勤務先も多く存在しています。
医師でも休みを取りやすい勤務先①健診機関の勤務医・病院の健診担当医
健診専門のクリニック等では、予約制で受診者の対応を行います。
また基本的には健康な方が対象となるため緊急時の対応や残業、休日勤務が発生することはかなり稀といえるでしょう。
また病院の勤務医として働く場合でも、健診業務専任の医師として採用されれば、当直やオンコールの受け持ちが免除されるケースも多くあります。
医師でも休みを取りやすい勤務先②無床クリニックの勤務医
入院設備がないクリニックや診療所では、日中の外来診療が主な業務となるケースが大半です。
そのため、基本的には当宿直やオンコールが発生しません。
完全予約制の外来であれば残業が発生する頻度も低く、勤務スケジュールの見通しがつきやすい働き方が可能なので、子育て中の医師やプライベートを重視したい医師にもお勧めの勤務先です。
ただし急患を受け付けている外来や、訪問診療を行っているクリニックの場合は、イレギュラーな対応や夜間の対応等が求められる可能性もあります。
求人票などで、業務内容や対応範囲をしっかり確認しておくようにしましょう。
医師でも休みを取りやすい勤務先③産業医
医学に関する専門的な立場から労働者の健康管理等を行う産業医も、ワークライフバランスを重視した働き方を希望する医師から人気の案件です。
産業医は企業が勤務先となるため、基本的に当直やオンコールはありません。
また土曜・日曜を休業日とする企業で働く場合には、産業医も土曜・日曜が休業日となるケースが大半です。
従業員が常時50名以上の事業場では産業医の選任が義務となっていることから、産業医に対する需要は年々高まっています。
ただし産業医として働くためには、「日本医師会の産業医学基礎研修を修了している」「産業医科大学の産業医学基本講座を修了している」等の要件を満たす必要があります。
医師でも休日を取りやすい勤務先④製薬会社のメディカルドクター
医師のキャリアを活かしながら、民間企業で働くという選択肢もあります。
製薬会社で働く医師は「メディカルドクター」と呼ばれ、創薬の企画や立案、治験データの評価、論文・文献の調査などを行います。
企業によっては手厚い福利厚生やフルリモート勤務など自由度の高い働き方が設けられている一方、学術的な知識のキャッチアップや語学力など医師に求められる要件も高い傾向があります。
医師が「休みを取りやすい勤務先」への転職を検討する際の注意点
適正な休みが取れない働き方に疲弊し、転職という選択肢を検討する医師は多くいます。
しかし後悔のない転職をするためには、具体的な検討を始める前に「休みを取りやすい勤務先へ転職することによる変化」をあらかじめ把握しておくことが重要です。
休みの取りやすさを重視した転職時の注意点①最も優先したい条件は「休みやすさ」か?
実際に休日が取りやすい勤務先に転職をした医師へ満足度を尋ねたところ、98.8%の医師は転職して良かったと回答しています。
一方で、ごく少数ではありますが「非常に後悔している」と回答している医師もいます。
Q:転職をして良かったと感じますか?
上記で「非常に後悔している」と回答した医師からは、以下のコメントも寄せられています。
・転職をしたものの、やはり「一定の診療レベルがある方々と、一緒に研鑽しあいたい。」「まだ医師として成長したい」と感じ、再度転職しました。(50代/一般外科/勤務医(大学病院))
このように「休みの取りやすさ」を最重視して転職をしたものの、実際は「仕事のやりがい」の優先度が高かったことに転職後に気づくというケースは少なくありません。
転職活動では、求人を検討する前に希望条件をしっかりと洗い出し、優先順位を整理しておくことが重要です。
条件の優先順位が明確になっていないまま転職に踏み切ってしまうと、「休みが取れない」という悩みが解消されても、また別の悩みによって苦しむことになってしまいます。
休みの取りやすさを重視した転職時の注意点②収入が減ってしまう可能性がある
休みが取りやすい勤務先に転職した場合、時間外労働を含む稼働時間が減るケースが大半です。
その場合、収入も減ってしまう可能性が高くなるでしょう。
休みを取りやすい常勤先に転職しても、収入を補填するためのアルバイトで休日がつぶれてしまっては、本末転倒です。
「休みの取りやすさ」を重視して転職を検討する場合は、収入に関する見通しをしっかり立てた上で、検討を進めるようにしましょう。
以上、医師の休み事情と医師が休みやすい勤務先の特徴などをお伝えしました。
医師が活躍できる場所は、「休みがなかなか取れない勤務先」以外にも数多くあります。
休日が少ない働き方に限界を感じている先生は、「転職」も1つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
◆調査概要「医師の休み方に関するアンケート」
調査日:2023年10月5日~10月12日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:webアンケート
有効回答数:466