• 検討中リスト
  • 閲覧履歴

2024年度診療報酬改定②「生活習慣病管理」特定疾患療養管理料や生活習慣病管理料はどう変わる?

2024年度診療報酬改定②「生活習慣病管理」特定疾患療養管理料や生活習慣病管理料はどう変わる?

2024年は、6年に1度のタイミングで医療・介護・障害福祉における報酬が同時に改定されるトリプル改定の年です。
中でも、少子高齢化やインフレなどを背景とした2024年の診療報酬改定は、多方面から非常に高い注目を集めています。

2024年3月、エムステージでは医師へのアンケートを実施。
現役医師439名が「2024年診療報酬改定の中で、とくに関心がある」と回答した上位4項目のポイントをご紹介しています。

第2回目となる今回は、いま大きな話題を呼んでいる特定疾患療養管理料や生活習慣病管理料といった見直しや再編の要点を、医療経営のプロである株式会社エムプラットの濵岡さんにわかりやすく解説いただきました。

濵岡 勇介(はまおか ゆうすけ)

株式会社エムプラット 
代表取締役 

大学卒業後、大手都市銀行での法人貸付審査や中小企業再生支援に従事。
医師人材紹介会社に転職し、事務職紹介や医師採用コンサルティングを経験。病床転換コンサルティング事業の新規サービス立ち上げを経験。
その後医療経営の実情を知るため、病院の事務長に転職。事務長勤務、在宅医療事務管理職、クリニック立ち上げを経たのち、2023年エムステージグループに参画。
株式会社エムプラットの代表取締役として、「変化する時代に、進化できる医療経営」をビジョンに医療機関の経営支援事業を展開している。

今後は算定できる施設が激減?「特定疾患管理料」とは

2024年度診療報酬改定では、特定疾患療養管理料から生活習慣病の3疾患(糖尿病、脂質異常症、高血圧)が除外されたことが大きな話題となっています。

Q:そもそも「特定疾患療養管理料」とは、どのような管理料なのでしょうか。

「かかりつけ医師」が計画的に対象疾患を持つ患者を管理することを評価

特定疾患療養管理料とは、厚生労働省が定める対象疾患を主病とする患者に対して、プライマリ機能を担う地域のかりつけ医師が、計画的に服薬・運動・栄養などの療養上の管理を行うことを評価する点数です。

◆特定疾患療養管理料 

1_診療所の場合 225点

2_許可病床が100床未満の病院の場合 147点

3_許可病床が100床以上200床未満の病院の場合 87点


※月2回まで算定可

糖尿病、高血圧、脂質異常症を主病とする患者の場合、算定不可に

今回の改定では、厚生労働省が定める特定疾患療養管理料の対象疾患が見直されました。

その結果、これまでは対象疾患であった「糖尿病」「高血圧」「脂質異常症」の3疾患が削除されたのです。

つまり、これまで糖尿病や高血圧、脂質異常症を主病とした患者に対して特定疾患療養管理料を算定していた医療機関は、2024年6月以降は算定ができなくなってしまうということです。

また、プライマリ機能を担う地域のかかりつけ医師が総合的に病態分析を行い、それに基づく処方管理を行うことを評価する特定疾患処方管理加算も、糖尿病や高血圧、脂質異常症が主病である場合には算定ができなくなります。

なお厚生労働省の調査によると、特定疾患療養管理料の算定時に係る主病名の上位3位は今回対象疾患から除外された糖尿病、高血圧、脂質異常症であり、この3疾患が全体の97.8%を占めている状況です。

そのため、今回の診療報酬改定が適用開始となる2024年6月以降は特定疾患療養管理料を算定する医療機関がほとんどなくなることが推察されます。

Q:このように大きな割合を占める3疾患を対象疾患から除外したことには、どのような意図があるのでしょうか。

「かかりつけ医機能の向上」という加算趣旨と実情には乖離があった

そもそも特定疾患療養管理料は、かかりつけ医師による計画的な療養管理を評価する点数です。

つまり、かかりつけ医機能を向上させることがこの加算の趣旨となっていたのです。

一般的には、高齢患者が抱えている疾患は、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病であるケースが大半なので、そのような患者が定期的に通院する流れの中で、「受診先となる医療機関に、かかりつけ医機能を十分発揮して欲しい」という目論見が厚生労働省にはあったということですね。

しかし実際には、特定疾患療養管理料を算定している医療機関であっても、必ずしもかかりつけ医機能は高くないという調査結果が出ています。

以下のグラフは、機能強化加算や地域包括診療料、地域包括診療加算を算定する施設と、特定疾患療養管理料を算定する施設が有する「かかりつけ医機能」を調査・比較したものです。

なお、機能強化加算や地域包括診療料、地域包括診療加算も、特定疾患療養管理料と同様に高血圧、糖尿病、脂質異常症が対象疾患に含まれている、かかりつけ医機能を評価する加算です。

かかりつけ医機能には、「どのような病気でもまずは診察する」「夜間や休日であっても、患者の緊急時に受け入れるか、受診できる医療機関を紹介する」「往診や訪問診療等の在宅医療を行う」などさまざまな項目があります。

上記の調査では、特定疾患療養管理料を算定する施設は、他の加算を算定している施設よりもすべての項目において該当している割合(=かかりつけ医機能)が低くなっていることが分かります。

このように厚生労働省が趣旨としていたかかりつけ医機能の向上が見られていない実情が明らかになったことから、今回の診療報酬改定ではメインとなる3疾患が除外されたという形となっています。

「生活習慣病管理料」とは?2024年診療報酬改定における2つの変更点

Q:続いて、今回再編された「生活習慣病管理料」についても教えてください。

生活習慣病に関する「総合的な治療管理」に対する評価

生活習慣病管理料は、糖尿病や高血圧症、脂質異常症を主病とする患者に対して、当該患者の同意を得て治療計画を策定し、その治療計画に基づいて生活習慣に関する総合的な治療管理を行うことを評価する点数です。

生活習慣病を悪化させないためには、食事や運動、喫煙といった患者本人の生活習慣をまず改める必要があります。

そのため厚生労働省は、生活習慣病管理料を算定する医療機関には、患者と一緒に生活習慣を見直す計画を立てて、定期的に指導や管理を行っていく役割を担って欲しいと考えているのです。

加えて、特定疾患療養管理料の加算では実現が困難であった「かかりつけ医機能」の向上についても喫緊の課題として捉え、状況を改善したいという意向もあります。

このような背景があることを念頭においておくと、今回の診療報酬改定の内容がより理解しやすくなると思います。

Q:生活習慣病管理料には、今回の改定でどのような変化があったのでしょうか? 

変更点①生活習慣病管理料は、(Ⅰ)と(Ⅱ)に再編された

まず今回の改定では、従来の「生活習慣病管理料」が「生活習慣病管理料(Ⅰ)」という呼称に変更されました。

さらに「生活習慣病管理料(Ⅱ)」が新設され、2つの評価という形に再編されています。

変更点②従来の生活習慣病管理料より、点数が引き上げられた

なお、「生活習慣病管理料(Ⅰ)」については、従来の「生活習慣病管理料」から40点ずつ点数が引き上げられています。

生活習慣病管理料
※2024年5月末まで適用
生活習慣病管理料(Ⅰ)
※2024年6月1日から適用
1_脂質異常症を主病とする場合 570点
2_高血圧症を主病とする場合 620点
3_糖尿病を主病とする場合 720点
1_脂質異常症を主病とする場合 610点
2_高血圧症を主病とする場合 660点
3_糖尿病を主病とする場合 760点

出典:厚生労働省保険局医療課「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】

前章では、今回の改定によって「特定疾患療養管理料」を算定できなくなってしまう医療機関が非常に多いとお話ししましたが、今後は「特定疾患療養管理料」の受け皿として、この「生活習慣病管理料(Ⅰ)」への移行を検討する医療機関が多くなるでしょう。

(Ⅰ)と(Ⅱ)の違いは、注射・検査等が包括されているかどうか

なお生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)の違いは、各注射や検査を包括しているかどうかです。

生活習慣病管理料(Ⅰ)には各注射や検査が包括されており、生活習慣病管理料(Ⅱ)は、検査や注射を出来高で算定する方式となっています。

生活習慣病管理料(Ⅱ)333点 
※月1回まで算定可

(Ⅰ)と(Ⅱ)のどちらを算定するかは、患者の状態に合わせて選択します。

患者の重症度や抱えている疾病数などに応じて頻回の受診や検査が必要となる場合には、生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定するケースが多くなると思います。
ただし、生活習慣病管理料(Ⅰ)を算定した日の属する月から6か月間は、生活習慣病管理料(Ⅱ)は算定できないというルールがありますので、その点には注意が必要です。

Q:今回の生活習慣病管理料に関する改定内容には、どのような厚生労働省の意図や狙いが反映されているとお考えになりますか?

患者の生活習慣指導も含む、効率的かつ質の高い生活習慣病管理を促している

今回の診療報酬改定における生活習慣病関連の見直しや再編は、患者の生活習慣に今まで以上に深く関わり、生活習慣を改善させていくことを、医療機関に対して求めるという内容です。

国としては、膨れ上がる医療費を抑制するためには、生活習慣病を予防することが最も効果が高いと考えています。
しかし、どんなに薬を処方したところで、患者本人の生活習慣が改善されなければ、症状悪化を防ぐことは不可能です。

よって医療費抑制のためには、患者の生活習慣を見直させることが必要になるという考えが前提にあります。

たしかに、理想としてはその通りですが、今回の診療報酬改定では、このような患者の取組み姿勢の改善に向けた指導部分も含めて、医療機関に丸投げしてきた印象が強くありますね。

一方で、診療報酬改定の概要説明の資料内では「生活習慣病に対する質の高い疾病管理を推進する観点から、生活習慣病管理料の要件および評価を見直す」としています。

参照:厚生労働省保険局医療課「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】

つまり厚生労働省は、今回の改定内容によって必要以上に頻回な検査や受診を減らし、適切な頻度の通院や検査を行い、効率的かつ質の高い生活習慣病管理をして欲しいとも考えているということです。

このような意図が反映された改定内容としては、
・生活習慣病管理料(Ⅰ)に注射や検査を包括
・生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定要件から「少なくとも月1回以上の総合的な治療管理を行う」という要件を廃止
・28日以上の長期投薬やリフィル処方箋に対応可能である旨を院内の見やすい場所に掲示し、患者からの求めがあった場合には応じることという要件を追加
といったことが挙げられます。

「療養計画書」とは?今後の生活習慣病管理は、どう変わる?

Q:ここまで解説いただいたような生活習慣病管理に関する評価の見直し・再編の影響を受けるのは、どのような医療機関で働く医師となるのでしょうか。 

とくに大きな影響を受けるのは、内科クリニックで働く医師

今回の改定における生活習慣病管理に関する評価の見直し・再編は、とくに内科クリニックで働く先生方の業務や、開業医の先生方の収入に大きな影響を与える内容といえます。

▼診療報酬改定によって勤務先の経営状況に「マイナス影響」があると回答した医師のコメント

生活習慣病管理料の算定が全員にできなくなる可能性があり、算定できない分がマイナスになると推測される。(40代前半/リウマチ科/勤務医/民間病院)

生活習慣管理料と再診が減ると思う。(70代以上/一般内科/勤務医/診療所・クリニック)

高齢者が多い地域では、患者の受診控えが懸念される。(50代前半/麻酔科/勤務医/民間病院)

とくに今回の改定の影響によって特定疾患療養管理料が算定できなくなった医療機関では、生活習慣病管理料に切り替えることを検討します。

しかし、受け皿となる生活習慣病管理料(Ⅰ)および(Ⅱ)では、「療養計画書」を作成し、さらには患者の同意を得た上で署名を取り付けることまでが算定要件となっているため、医療従事者の業務負担増が懸念されているところです。

中でも、患者から「同意と署名を得る」という部分については、苦労される医療機関が多いのではないかと思います。

必ずしも「生活習慣を改善しよう」とすんなり納得してくれる患者ばかりではないことも予想されますし、これまで特定疾患療養管理料を算定していた患者の場合には負担額が増えることも説明しなければなりません。

その上で療養計画書に署名をしてもらわなくてはならないことに、今から不安を感じていらっしゃる先生も多いのではないでしょうか。

Q:「療養計画書」とは、具体的にどのような書類なのでしょうか? 

患者の生活習慣を改善するために、医師と患者で作成する治療の計画書

療養計画書は、医療者と患者が情報共有しながら、ともに生活習慣改善に向けた意思決定をしていくために作成する書面です。

以下のように、医師と患者間で定めた生活習慣改善に向けた目標や血液検査の結果、食事や運動・喫煙・その他患者の生活習慣の確認を行った上で記載します。

参照:厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)令和6年3月5日保医発0305第4号_様式(医科)
※22ページに初回用の様式、23ページに継続用の様式があります。

書式は、従来のものより簡素化された

以前の書式と比べてみると、検査・問診欄がなくなり目標欄に統一されたり、担当者の氏名記載および捺印が不要になり医師の氏名のみを記載すればよくなったりと、全体的には簡素化されています。

なお、療養計画書の書式には、初回用と継続用の書式があります。

今回厚生労働省が公開した継続用の書式では、「患者が療養計画書の内容について説明を受けた上で十分に理解したことを確認した」「なお、上記項目に担当医がチェックした場合については患者署名を省略して差し支えない」という項目が新設されており、生活習慣病管理料を継続して算定する医療機関の業務負担増に配慮した形となっています。

Q:療養計画書の作成など、医師の負担増を乗り切るための工夫等があれば教えてください。

看護師や事務職員など多職種による協業で、業務負担の軽減を

医師の業務負担を軽減するためには、さまざまな職種の方と連携して業務を進めるための工夫が必要です。

今回の生活習慣病管理料に関する改定では、総合的な治療管理は、看護師や薬剤師、管理栄養士等の多職種と連携することが望ましいという旨も記載されています。

出典:厚生労働省保険局医療課「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】

たとえば、療養計画書の作成を行う場合には

事務職員…採血などの検査データを事前に入力しておく

医師…診察時に生活習慣をヒアリング、おおよその方針を説明

看護師または管理栄養士…患者へ詳細の説明を行い、同意・署名を得る

といった役割分担をしながら、チームとして取組みを進めることも1つの方法です。

生活習慣病管理料(Ⅰ)の場合、電子カルテ情報共有サービスの活用で手続きが簡素化できる

なお、2025年から始まる電子カルテ情報共有サービスを活用する場合にも、手続きを簡素化することが可能です。

電子カルテ情報共有サービスとは、オンライン資格確認、電子処方箋の次に位置づけられる、政府の医療DX政策の1つです。

今回の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」において、2025年年9月末までに体制を整備することが求められています。

この電子カルテ情報共有サービスを活用する場合、血液検査項目についての記載が不要になります。

また、電子カルテ情報共有サービスにおける患者サマリーに療養計画書での記載事項を入力し、診療録にその記録及び患者の同意を得た旨を残している場合には、療養計画書の作成及び交付をしているものとみなされることになっています。

つまり、療養計画書を紙ベースで作成して保管することや、患者から署名を得る必要がなくなるのです。

このように医師をはじめとする医療従事者の業務が大きく省力化できますので、この電子カルテ情報共有サービスを活用するメリットは大きいと思います。

今回は、2024年度診療報酬改定のポイント解説の第二弾として、「生活習慣病管理」の要点を株式会社エムプラットの濵岡さんにお話を伺いました。

株式会社エムプラットでは、診療報酬改定の影響シミュレーションをはじめ、医療経営に関する課題に関するご相談・サポートを承っています。

クリニック等の医療機関経営を行っておられる中で何かお困りのことがある先生は、ぜひお気軽にお問合せください。

(クリックすると、株式会社エムプラットのページに移動します)

◆調査概要「2024年度診療報酬改定に関するアンケート」

調査日:2024年3月5日~12日

対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師

調査方法:webアンケート

有効回答数:439

Dr.転職なびに相談する

濵岡 勇介(はまおか ゆうすけ)

専門家

濵岡 勇介(はまおか ゆうすけ)

株式会社エムプラット
代表取締役 

大学卒業後、大手都市銀行での法人貸付審査や中小企業再生支援に従事。
医師人材紹介会社に転職し、事務職紹介や医師採用コンサルティングを経験。病床転換コンサルティング事業の新規サービス立ち上げを経験。
その後医療経営の実情を知るため、病院の事務長に転職。事務長勤務、在宅医療事務管理職、クリニック立ち上げを経たのち、2023年エムステージグループに参画。
株式会社エムプラットの代表取締役として、「変化する時代に、進化できる医療経営」をビジョンに医療機関の経営支援事業を展開している。

関連記事

ページトップへ戻る