長時間労働や過重な業務、様々な人と関わりながら働く医師の労働環境には、精神的な疲弊に繋がりかねない要素が数多く含まれています。
Dr.転職なびの調査によると、7割以上の医師は仕事でストレスを感じており、最も多い要因は「職場の人間関係」という結果が出ています。
本記事ではアンケートで寄せられた医師353名の声から、医師のストレス事情と勤務先からのケア状況、セルフケアの方法等をご紹介します。
▼仕事上のストレスによる、休職・転職事情の調査結果はこちら
医師が感じているストレスの要因は?
7割を超える医師が、仕事でストレスを感じている
医師として働く中でどのくらいストレスを感じているか尋ねたところ、最も多かったのは「適度に感じている」(55.7%)、次いで「かなり強く感じている」(19.9%)という回答でした。
Q:現在、仕事上でストレスを感じていますか?
コロナ禍で医師のストレスは増えた?減った?
新型コロナウイルス感染拡大の前後で仕事上のストレスが発生する頻度に変化があったか尋ねた質問では、「あまり変わらない」(56.6%)という回答が最多で、「増えた」(26.9%)、「かなり増えた」(9.8%)の順に多くなっています。
▼コロナ禍でストレスが増えた理由
・N95マスクを装着したり防護服を着るなどの手間がかかり、仕事の効率が悪くなった。(50代/一般病院勤務)
・マスクをしていると表情が読めず、診察が難しいことがある。(30代/一般病院勤務)
・救急受け入れなどで、考慮すべき事項が増えた。(30代/非常勤のみ)
・他院との情報のやり取りなど、情報提供に時間がかかる。(50代/クリニック・診療所勤務)
・発熱外来の業務はクレームが多いので、とにかく苦痛。(40代/一般病院勤務)
・自分自身の感染リスクと、家族に感染してしまう恐れ。(30代/一般病院勤務)
・コロナでの受診抑制による外来患者数減少による、収益の減少。(50代/クリニック・診療所勤務)
▼コロナ禍でストレスが減った理由
・入院患者数が減った。(40代/一般病院勤務)
・緊急対応が減った。(50代/非常勤勤務のみ)
・付き合いの飲み会が無くなったのは良かった。(30代/大学病院勤務)
・仕事が減ったが、勤務医のため給与面はほぼ変わらず。勉強会や学会の現地参加も減り、可処分時間が増えた。(30代/大学病院勤務)
医師のストレス要因で最も多いのは「職場の人間関係」
仕事上のストレスを感じる理由を聞いたところ、最も多くの医師が選択したのは「職場の人間関係」(37%)でした。
Q:仕事でストレスを感じる理由として、当てはまるものを教えてください。(複数回答可)
医師の人間関係は、医療従事者のなかでも特に複雑になりやすいと言われます。
同じ医師であっても上司や先輩、同僚、後輩といった立場の違いや診療科の違いがあり、さらには看護師やコメディカルなどの多職種とのコミュニケーション、患者様やそのご家族との信頼関係を構築することも求められます。
このように全方位的な人間関係に囲まれながら勤務する労働環境が、多くの医師にとってストレスとなっていることが伺われます。
▼職場の人間関係
・大学病院で働いていた頃、教授や上級医から理不尽に怒られた。(30代/一般病院勤務)
・若い医療従事者は自己主張が強いのに打たれ弱いので、指導に苦労する。(70代/介護老人保健施設勤務)
・看護師さんとのやりとり。表面的には上手くやっていても、潜在的にストレスはある。(30代/大学病院勤務)
・コメディカルが偉そうな態度で接してきた時には、心が折れる。(50代/一般病院勤務)
▼患者との人間関係
・患者からの理不尽なクレームを受けたとき。(50代/クリニック・診療所勤務)
・健診の仕事の際に男性(特に年齢が高い方)から男尊女卑とも取れるような事を言われる時。中にはセクハラ発言もある。(30代/一般病院勤務)
医師のセルフケアと勤務先によるメンタルケア
もしも医師が何らかの心の問題を抱えたとき、自らのストレス状態や異変を自覚し、対応していくためにはどうしたら良いのでしょうか。
医師のメンタルヘルスを維持するためには、勤務先が実施している対策だけではなく、医師自身によるセルフケアも重要です。
医師が行っているセルフケアの第1位は「たくさん眠る」こと
ストレスを解消するために行っていることを尋ねたところ、最も多い回答は「たくさん眠る」(50.1%)となりました。
なお、日本医師会の「医師が元気に働くための7か条」においても、最初に挙げられているのは「睡眠時間を充分確保しよう」という項目です。
補足として「最低6時間の睡眠時間は質の高い医療の提供に欠かせません。 患者さんのために睡眠不足は許されません。」とあり、医療の質を担保するためにも医師がしっかり睡眠をとることの重要性を訴えています。
ストレスチェックが「義務」の勤務先であっても、毎年受けている医師は約6割
「労働安全衛生法」の改正により、平成27年12月以降 50人以上の労働者がいる事業所では、ストレスチェック制度の実施が義務づけられています。
Q:ご勤務先(労働者50名以上の医療機関)で「ストレスチェック」を受けた経験はありますか?
このストレスチェックの実施が<義務>となっている労働者50名以上の医療機関に勤務する医師のうち、ストレスチェックを「毎年受けている」医師が最多で、全体のおよそ6割でした。
一方、ストレスチェックの実施が<努力義務>となっている労働者50名以下の医療機関に勤務する医師では、「一度も受けたことがない」医師がおよそ4割で最も多く、「毎年受けている」医師は2割程度にとどまっています。
Q:ご勤務先(労働者50名以下の医療機関)で「ストレスチェック」を受けた経験はありますか?
職業柄、医師は患者様の異変に対しては敏感に察知できますが、自分自身の事についてはなかなか自覚しにくい面があるのではないでしょうか。
勤務先でストレスチェックが実施されている場合には、定期的に自分のメンタルヘルスの状態を確認・メンテナンスする機会として、ぜひ積極的に活用してみましょう。
産業医面談を経験したことがある医師は、およそ5%
労働者50名以上の医療機関では、職場の安全や働く人々の健康を守る産業医の選任も義務付けられています。
長時間労働者や、ストレスチェックで高ストレス者と判定され実施者(産業医や保健師など)が面談指導を受ける必要があると判断した人については、産業医による面談が実施されます。
今回のアンケート調査でも、約5%の医師が「産業医による面談を受けた経験がある」と回答しています。
・労働時間や睡眠時間、睡眠の質などについて聞かれた。(20代/一般病院(従業員50名以上)勤務)
・鬱状態で休職したときに面談を受けた。(30代/一般病院(従業員50名以上)勤務)
・前職場でストレス過多となり持病の精神疾患がコントロール出来なくなった時に、面談を受けた。(30代/クリニック・診療所)
ストレスチェックや産業医面談については、以下のような意見も寄せられています。
・結局ストレスチェックは形式上のもので、業務形態の改善が図られることは困難だと思う。(30代/一般病院勤務)
・形だけのストレスチェックをするのではなく、ヒアリングを徹底して根本的解決を行うべき。(40代/その他勤務)
・いつも高ストレス群だったが、産業医と面談する時間すらないような職場環境。自分がうつなどで仕事を休んだら同僚に迷惑をかけてしまう可能性があるため、必死に平常を保つようにした。(30代/一般病院勤務)
・ストレスチェックで引っかかっても、その後どうすればいいのか分からない。(40代/一般病院勤務)
ストレスチェックで判定可能な内容と実情の乖離や、ストレスチェック実施後の対処法など、現状ではまだ様々な課題も残されているようです。
今後は、より良い取り組みとなるよう改善が期待されます。
医師がメンタルヘルスを保つための2つの方法
・以前産業医をしていた医療機関では、一般企業の約2.5倍の高ストレス者がいた。(60代/クリニック・診療所勤務)
上記の医師コメントからも、医療現場はストレス要因が特に多い労働環境であることが伺われます。
そのような医療現場で日々働く医師が自分のメンタルヘルスを保つためには、どのような方法があるのでしょうか。
信頼できる相手に話を聞いてもらう
1つ目の方法は、「誰かに話を聞いてもらうこと」です。
今回のアンケート調査で、仕事上のストレスを感じた時に話を聞いてもらえる相手がいるか尋ねたところ、「相談できる相手がいる」と回答した医師は71.1%でした。
一方、約29%の医師は「相談できる相手はいない」と回答しています。
医療のプロフェッショナルとして働く医師の中には、「他の誰かに助けを求めることが苦手である」という人が実は多い、とも言われます。
しかしこれまでにご紹介してきた通り常的にストレスを感じている医師は多く、一人で抱え込んでしまうと心身の健康を損なってしまう可能性が高くなります。
医師が仕事上のストレスとうまく付き合っていくためには、適切なタイミングで誰かに助けを求めることができるような環境を日頃から整備しておくことが大切です。
医師がストレスを感じた時に自分の気持ちを吐露する相手を尋ねたところ、最多となったのは「家族」(78%)で、次いで「友人・知人の医師」(20.5%)、「医師以外の友人・知人」(16.5%)の順に多くなっています。
「同僚の医師」や「上司・先輩の医師」「後輩の医師」など勤務先に関わる相手ではなく、職務上の利害関係がない相手に話を聞いてもらっている医師が多いようです。
転職をする
信頼できる相手に包み隠さず自分の気持ちを聞いてもらうことも、メンタルヘルスを保つために有効な方法の1つです。
しかし、それでも思うような結果にならないこともあるかもしれません。
例えば、医療機関全体の方針や雰囲気、チームワークなどは、どれほど個人が努力しても大きく変えることが難しいというケースも少なくないでしょう。
過度なストレスが続くことでメンタル不調に陥ってしまったり、仕事へのモチベーションが低下してしまったりすると、医師としての業務にも支障が出てしまうかもしれません。
このような事態を回避するためには、働く環境を変える「転職」をすることも方法の1つとなります。
・報酬や価値観に見合った仕事であればストレスを感じることが少ないように感じる。周囲のスタッフと協調できる雰囲気も大事だと思うし、将来・キャリアへの不安が無ければもっといい。(30代/一般病院勤務)
今の勤務先だけが、医師として活躍できる場所ということはありません。
ストレスを最小限に抑えながら、しっかり納得できる仕事内容や年収、幸せと感じることができる働き方を叶えるための選択肢は数多くあります。
今の勤務先ではどのようなことがストレスとなっているのかを明確にしたうえで、転職先の検討に活かしていきましょう
なお、入職後のギャップを最小限に抑えるためには、病院見学をはじめとした事前の情報収集をしっかりと行うことも有効です。
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日々、人々の命や健康を守る責務を担っている医師ですが、医師自身の体や心の健康状態に関しては見過ごされがちです。
・まさに医者の不養生で、メンタルヘルスに関する意識は医師自身も医療機関も、一般社会と比べると低いと感じる。(40代/一般病院勤務)
医師に限らず、仕事上のストレスを完全に無くすことは難しいものですが、ストレスを最小限に抑えたり、過度なストレスでメンタル不調に陥ってしまったりすることを未然に防ぐための対処法はあります。
日頃から意識して周囲とコミュニケーションをとることを心がけたり、いざとなれば環境を変えることも検討したりしながらストレスを減らすような工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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◆調査概要「医師のメンタルヘルスとストレス解消法についてのアンケート」
調査日:2022年10月25日~10月28日
対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師
調査方法:webアンケート
回答数:353
参照)
厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」