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【解説】医師の17.5%が「知らない」―コロナ5類移行で<医師の応召義務>はどう変わったか

【解説】17.5%が「知らない」―コロナ5類移行で医師の「応召義務」はどう変わったのか

新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが2023年5月8日から「5類」に見直されたことに伴い、現在 医療提供体制の見直しが進められています。
また、コロナに係る医師の応招義務についても改めて整理され、厚生労働省がその考え方を示しました。

本記事では、コロナ5類移行後、医師の応招義務はどのように解釈されるようになったのか。
そして診療にあたる医師が取るべき対応には、どのような変化が生じるのか。

アンケートで寄せられた医師の声をご紹介しながら、分かりやすく解説します。

医師の応召義務とは?

そもそも、医師の応召義務とはどのようなものなのでしょうか?

医師は、「正当な理由」がなければ 診療の求めを拒否できない

医師法第19条第1項において「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められています。

これを一般的に、医師の応召義務といいます。

なおこの義務は患者様に対して医師が負うものではなく、国に対して負担する公法上の義務とされています。

応召義務の違反によって、罰金や懲役を科されることはない

なお、応召義務違反に対する刑事罰は規制されていません

医師法上、医師免許に対する行政処分はあり得るとされていますが、実例として行政処分を受けた例はまだ確認されていません。

参照)厚生労働省「医師の応召義務について

コロナ診察は対象外?医師が診療を拒むことができる「正当な事由」とは

医師が診療を拒むことができる「正当な自由」とは

医師が応召義務を免れるのは、「正当な事由」がある場合です。

それでは、この「正当な事由」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。またコロナ5類移行に伴い、医師の応召義務に関する考え方がどのように変わったのでしょう。

2019年に厚生労働省が発出した医政局長通知から 読み解いていきます。

医師が診療を拒んでも構わないとされる、4つの「正当な事由」

2019年12月25日、厚生労働省は「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」において

医療機関の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが正当化されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)であること。

引用:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

としたうえで、以下のような考え方を示しています。

医師が応召義務を免れる正当な事由①診療時間外・勤務時間外である

1つめは、診療時間(医療機関として診療を提供することが予定されている時間)、勤務時間(医師が医療機関において勤務医として診療を提供することが予定されている時間)外で、医師が診療を求められた時です。

診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合
応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない(※)。

※ 必要な処置をとった場合においても、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低い。(例えば、心肺蘇生法等の応急処置の実施等)

※ 診療所等の医療機関へ直接患者が来院した場合、必要な処置を行った上で、救急対応の可能な病院等の医療機関に対応を依頼するのが望ましい。

引用:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

医師が応召義務を免れる正当な事由②専門外の疾患であるとき

診療を求められたのが診療時間・勤務時間内であっても、以下の場合は正当な事由とされています。

医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される。

引用:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

医師が応召義務を免れる正当な事由③患者様による迷惑行為があるとき

診療と無関係のクレーム等を繰り返す患者様の診療を拒むことも、正当な事由とされます。

診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。

※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等

引用:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

医師が応召義務を免れる正当な事由④医療費不払いのとき

以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されないとする一方で、悪意がある未払いと推定される場合には、診療を拒む正当な事由となります。

支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される。

引用:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

5類移行前は、「新型コロナにり患・り患疑い」も正当な事由だった

同通知では、感染症に関する応召義務について以下のような記載があります。

特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。
ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない

引用:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

そのため2023年5月8日以前は「2類」であった新型コロナウイルスは 診療を拒む「正当な事由」であり、応召義務の対象外と考えられてきたのです。

コロナ5類移行で、医師の「応召義務」の解釈はどう変わった?

コロナ5類移行で、医師の「応召義務」はどう変わった?

それでは感染症法上の位置づけが「5類」となった今、新型コロナウイルスに係る診療の応召義務については、どのような解釈となっているのでしょうか。

5類移行に伴い、コロナ診療に対応する医療機関の拡大が促されている

これまで新型コロナウイルス感染症の診療は、「入院措置を原則とし 行政の関与を前提とした限られた医療機関による特別な対応」として扱われてきました。

しかし政府では、新型コロナウイルスが5類へ移行された2023年5月8日以降は「幅広い医療機関による自律的通常の対応」に移行していくことを目指すという方針を示しています。

参照:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制の移行及び公費支援の具体的内容について

実際に「Dr.転職なび」の会員医師に実施したアンケートでも、5類移行後は制限を設けずに発熱患者様など「すべての患者様を受け入れ」する医療機関が、5類移行前と比べて6.5%増えたことが分かっています。

5類移行で、「新型コロナウイルス」も応召義務の対象となった

また同通知では新型コロナウイルスに係る応召義務の考え方について、「新型コロナに罹患またはその疑いのみを理由とした診療の拒否は『正当な事由』に該当しない」と明記されました。

加えて、自院でどうしても診療が困難な場合には、対応可能な医療機関を案内するといった対応を求めています。

応招義務の整理

・新型コロナウイルス感染症に係る医師等の応招義務については、緊急対応が必要であるか否かなど、個々の事情を総合的に勘案する必要がある。

・その上で、特定の感染症へのり患等のみを理由とした診療の拒否は、応招義務を定めた医師法(昭和 23 年法律第 201 号)第 19 条第1項及び歯科医師法(昭和 23 年法律第 202 号)第 19 条第1項における診療を拒否する「正当な事由」に該当しないが、現在、新型コロナウイルス感染症は、2類感染症と同様、制度上特定の医療機関で対応すべきとされていることから、その例外とされている。

位置づけ変更後は、制度上幅広い医療機関において対応できる体制に移行することから、「正当な事由」に該当しない取扱いに変わることとなる。

・具体的には、位置づけ変更後は、患者が発熱や上気道症状を有している又はコロナにり患している若しくはその疑いがあるということのみを理由とした診療の拒否は「正当な事由」に該当しないため、発熱等の症状を有する患者を受け入れるための適切な準備を行うこととし、それでもなお診療が困難な場合には、少なくとも診療可能な医療機関への受診を適切に勧奨すること

引用:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制の移行及び公費支援の具体的内容について

17.5%の医師は、5類移行後の応召義務の考え方を「知らなかった」

それでは、この「応召義務」に関する考え方の変更をどのくらいの医師が認識しているのでしょうか。

Q:5類移行後(5月8日以降)は、コロナにり患している・その疑いがあるということのみを理由に、診療の拒否ができなくなりました。このことをご存知でしたか?

それでは、この「応召義務」に関する考え方の変更をどのくらいの医師が認識しているのでしょうか。

Q:5類移行後(5月8日以降)は、コロナにり患している・その疑いがあるということのみを理由に、診療の拒否ができなくなりました。このことをご存知でしたか?

上記のように82.5%の医師は「知っていた」と回答した一方で、17.5%の医師は「知らなかった」と回答しています。

今回のアンケートを実施した5類移行からおよそ2週間後のタイミングにおいては、およそ2割の医師が「新型コロナウイルス」も応召義務の対象となったことを認識していなかったという結果となりました。

5類移行に伴い「新型コロナウイルス」に対応する医療機関が拡大し、応召義務の対象となったことについて、医師からは以下のようなコメントが寄せられています。

◆賛成

・医療従事者としては、どこの施設でも対応して頂いた方が助かります。(50代/小児科/勤務医(大学病院以外の病院))

・これまでは地域の中核になるべき総合病院が時間外の発熱患者を断り続け、緊急コールの回線さえもつながらない状態だった。なので、診療を拒むことができなくなるのは良いことだと感じる。(60代/一般内科/勤務医(大学病院以外の病院))

◆自身の感染リスクが心配

・タミフルのような抗ウイルス薬があれば、それを飲みながら診療を続けることができる。
しかし今の段階では気軽に自分に処方ができないため、感染予防ができなくて困る。(50代/整形外科/勤務医(大学病院以外の病院))

◆医師の診療科を考慮すべき

医師は、内科だけではない。(60代/整形外科/開業医)

・私は上気道炎を診る診療科なのでやむを得ないと思いますが、もともと上気道炎を診ない診療科の医療機関や先生方にそれを求めるのは酷だと思いますし、日本の医療事情に合わないと思います。
もしもその上気道炎を診ない先生がコロナに感染したり、医院がクラスターになったりした場合、国は責任取ってくれるのでしょうか?(50代/耳鼻いんこう科/勤務医(診療所・クリニック))

◆医療機関の構造的な問題などで、現実的ではないと感じる

・これまでに新型コロナウイルス患者の診察を行っていなかった病院や診療所で、新たに患者様の動線を考慮して診療体制を整えることは簡単ではない。(60代/小児科/勤務医(大学病院以外の病院))

・そもそも、全医療機関が感染性の高い感染症への診療に適しているわけではない。
小さなクリニックなどの実態を知らなすぎる。(30代/整形外科/勤務医(診療所・クリニック))

・コロナにり患した患者の希望と、り患したくない患者の希望が全く相反しているので、同じ空間で対応ができるわけない。(50代/脳神経外科/勤務医(大学病院以外の病院))

◆受け入れ体制は大きく変わらないのでは

いまだに「発熱患者様お断り」の医療機関が多い印象。(40代/糖尿病内科/勤務医(大学病院以外の病院))

・「求められる」ことはそうでも、病棟設備やマンパワーの関係で受け入れを断る病院は一定数あり、受け入れ状況は大きく変わらないと予想される。(50代/麻酔科/勤務医(大学病院以外の病院))

応召義務はあるが他院への紹介は出来るので、引き続きコロナ診察をしないところは出ると思う。(60代/一般外科/勤務医(大学病院以外の病院))

以上、コロナ5類への移行に伴う医師の応召義務への影響についてお伝えしました。

今後も感染状況などに応じて、医療機関や医師に求められる対応が変更となる可能性もあるでしょう。
引き続き、最新情報を常にキャッチアップしていく必要がありそうです。

なお今回の調査をもとにした以下の記事も、公開中です。ぜひ合わせてご覧ください。

◆調査概要「コロナ5類移行に関するアンケート」

調査日:2023年5月22日~5月29日

対象:Dr.転職なび・Dr.アルなびに登録する会員医師

調査方法:webアンケート

有効回答数:412

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ライター

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