医局からの転職を考える際、多くの医師にとって大きなハードルとなるのが「退職交渉」です。
Dr.転職なびが医局を辞めた経験のある医師・205名に調査したところ、42.0%の医師が「医局からの引き留めにあった」と回答しています。
また、引き留めにあった医師が申し出から退職までにかかった期間は「半年以上」が39.5%を占め、医師が医局を辞めるためには長期的に取り組む必要があることが分かりました。
本記事では、退局経験のある医師の声をご紹介しながら、円滑に医局からの転職を進めるための動き方や退局トラブルを回避するための秘訣をご紹介します。
目次
医局を辞めるとき、院内・局内の誰かへ相談した?
医局を辞めることを検討している段階で、上司や先輩、同僚などの関係者に相談をした医師はどのくらいいるのでしょうか。
約7割の医師は、退局について勤務先関係者には「相談せず」
今回の調査では、「相談した」と回答した医師は全体の3割程度にとどまりました。
一方で、7割近くの医師は「相談しなかった」としています。
Q:退職日が決まる以前、医局を辞めることを勤務先(院内)の誰かに相談しましたか?
退局について、勤務先関係者に相談をしなかった理由は?
上記で「相談しなかった」と回答した医師にその理由を尋ねたところ、以下のようなコメントが寄せられました。
◆相談できる人がいなかった・相談できる状態ではなかった
・誰も信じられなくなったから。(50代/呼吸器内科/産業医)
・メンタルの失調があり、相談できる状態ではなかった。(50代/整形外科/勤務医(診療所・クリニック))
◆自分の意向が固まっていたため、相談する必要がなかった
・医局を辞める意思が固まっていたため。(60代/麻酔科/勤務医(大学病院以外の病院))
◆情報が局内に伝わってしまうことを回避したかった
・教授に直談判するつもりだったので、その前に医局へ情報がリークするのを避けたかったため。(50代/呼吸器内科/勤務医(診療所・クリニック))
\第三者だから話せること、ありませんか?/
約3割の医師が、退局することを相談した相手や理由は?
一方で退局について勤務先関係者に相談した医師は、どのような方に相談をしたのでしょうか。
退局に関する相談相手で最も多いのは「直属の上司(医師)」
Q:具体的に、どなたに相談しましたか?(複数回答可)
上記のグラフが示している通り「直属の上司(医師)」(回答数:33)が最多となり、次いで「同僚の医師」(回答数:26)、「先輩の医師」(回答数:20)が多くなっています。
少数派ではありますが、「院長や経営陣など」に退局を直談判した方もいるようです。
合わせて、上記の方々に相談した理由についても尋ねました。
◆先輩や上司への恩義・礼儀を重視した
・長年の交流があり、信頼できていたから。(直属の上司(医師)・同僚の医師・ 医師以外のスタッフに相談/70代以上/一般内科/勤務医(診療所・クリニック))
・医局にいる間、ずっとお世話になった先生だったので。(先輩の医師に相談/50代/一般内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・礼儀として、形を整えただけ。迷っていたから相談したわけではない。(直属の上司(医師)に相談/50代/消化器内科/勤務医(非常勤のみ))
◆退職時のトラブルを回避するため
・3か月前位に伝えておけば、トラブルにはならないと思ったから。(直属の上司(医師)に相談/50代/整形外科/勤務医(大学病院以外の病院))
◆自身の退局により医局人事への影響があると考えたため
・医局派遣で民間病院へ出張中であったので、辞めるにあたり代替医師が必要と思い、相談した。(直属の上司(医師)に相談/50代/腎臓内科/勤務医(診療所・クリニック))
引き留めは?どのくらいで辞められた?医師205名の「医局への退職交渉」
続いて、実際に医局を辞めた医師205名が経験した「退職交渉」についてご紹介します。
約4割の医師が、「医局からの引き留めにあった」と回答
退職交渉の際、医局からの慰留・引き留めが大きな心理的負担になるという医師も多いのではないでしょうか。
実際には、どのくらいの医師が医局からの慰留・引き留めを経験したのでしょうか。
Q:医局を辞めるとき、引き留めにあいましたか?
医局から引き留められたと回答した医師は、全体の42%を占めました。
一方で引き留めはなかったとした医師は58%となり、本調査においては多数派となっています。
退職交渉・引継ぎの期間は、医局から引き留められた医師の方が長い
次に、退局意向を示してから退職できるまでに要した期間について、医局から引き留められた医師と引き留めはなかった医師それぞれに尋ねました。
いずれの場合も最も多いのは「3~6か月以内」という回答でしたが、全体的には医局からの引き留めがあった医師の方が、退職交渉や引継ぎに長い期間を要するという傾向がみられました。
Q:医局を辞めると決意してから実際に退局するまで、どのくらいの期間がかかりましたか?(引継ぎ期間も含む)
◆「引き留めはなかった」と回答した医師
医局からの引き留めがなかった場合は「3~6か月以内」(26.9%)が最多で、次いで「1~3か月以内」(24.4%)、「6か月~1年以内」(21%)が多くなりました。
全体的に見てみると、「半年以内」とした医師が66.4%(「1か月以内」「1~3か月以内」「3~6か月以内」を合計)で、およそ7割を占めています。
◆「引き留められた」と回答とした医師
一方の「引き留められた」場合も「3~6か月以内」(26.7%)が最も多くなっていますが、次いで多いのは「6か月~1年以内」(25.6%)でした。
全体的には「半年以内」は60.5%(「1か月以内」「1~3か月以内」「3~6か月以内」を合計)で、引き留めがなかった医師より約6%低くなっています。
一方で「半年以上」かかった医師が39.5%と全体の4割を占める結果となっています。
これまでに医局を辞めた医師の状況などから「自分も引き留めに合うかもしれない」と考えられる場合には、長期的な視点で退職交渉を進めた方が良いでしょう。
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教授室で2時間慰留…辞めるまで3年!?退局トラブルを回避する秘訣
医局の体制や状況によっては、退局のタイミングを逃してなかなか辞められないこともあるかもしれません。
このようなトラブルを回避するためには、どのような対策があるでしょうか。
医師のエピソードから紐解く、退局トラブル回避法・4選
最後に、医局を辞めた医師から寄せられた声をご紹介しながら、退局に関するトラブルを避けるためにできることを解説します。
退局トラブル回避法①医局に交渉する「タイミング」を見極める
民法上は、退職の申入れから2週間経過すれば辞職できることになっています。
しかし、医師としての責任を全うし、勤務先や患者様への負担を最小限にとどめるためにも、できる限り早めに退職の申し出をするべきという声が複数の医師から寄せられました。
また「教授の退任」など、医局内の人事に動きがあるタイミングに合わせて戦略的に交渉をするという声もありました。
・社会人として、一年前から意向を伝えて了承を得た。(40代/皮膚科/開業医)
・退職意向は、早めに伝えておいたほうが良い。
良い人ぶっているとあれこれ考えてしまったり、周りからも色々なことを言われたりする。(50代/消化器内科/勤務医(非常勤のみ))
・教授退任前のタイミングで、教授室に直談判に行った。
好条件の人事の提示など2時間ほど慰留されたが、最終的には退局を認めていただいた。
トップの了承さえ得てしまえば、他の誰からも干渉を受けないで済みます。(50代/呼吸器内科/勤務医(診療所・クリニック))
退局トラブルの回避法②自分の意思をしっかり固めてから、交渉に臨む
医局からの圧力や強力な慰留によって、退職交渉がスムーズに進まない場合もあるかもしれません。
その際、自分の中に「医局を辞めて、本当に大丈夫だろうか」「医局の関連病院でも、自分のやりたいことができるかもしれない」「周りの医師に迷惑がかかってしまう」等の不安や迷いが残っていると、そこを突かれて退局の決意が鈍ってしまう可能性もあります。
辞め時を逃さないように、自身の中の不安や迷いとなる要素を洗い出し、それらに対する回答を明確に出しておくことも大切です。
その上で 退職交渉は「相談」ではなく「報告」と考え、強い意志を伝えられるようにしましょう。
・「大学院へ行って新たな勉強がしたい」という自分の意向があった。
また丁度お世話になった教授が定年退職で辞職のタイミングだったので、難なく辞めることができた。(50代/腎臓内科/勤務医(診療所・クリニック))
・退局を決めても、他の先生に先を越されたり、医局のことを考えたりしてなかなか退局出来ず。結局、辞めるまでに3年かかりました。(50代 /皮膚科/勤務医(診療所・クリニック))
退局トラブルの回避法③頻回かつ低姿勢で、交渉に臨む
退職交渉は、できる限り短期間で終わらせられるのが理想的です。
しかし医局を辞める場合には「上司」「医局長」「教授」等、複数の関係者から了承を得ることが必要なケースも多いでしょう。
なお、上述のように複数名に退職意向を伝える場合には、自分に最も近い上司から順番にアポイントを取るのが一般的です(例:「上司」→「医局長」→「教授」)。
何度も退職交渉に臨むことは心理的に負担ではありますが、これまでお世話になった感謝を伝えつつ、毅然とした姿勢で退局への強い意思を見せることで退局への了承を得やすくなります。
・交渉は、一度ではなく頻回に行うことが必要。
また、常に低姿勢であることも重要です。(30代/消化器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
退局トラブルの回避法④退局を受け入れざるを得ない理由を用意する
また、医局ではどうしても対処できないような事情や、了承せざるを得ない理由を話すことで退局を認められたという声も複数上がっています。
・家庭の事情など、複数の理由を説明して了承を得られた。(50代/整形外科/勤務医(大学病院以外の病院))
・退局後の就職をしっかり決めてから辞める事を話すと無理な引き留めに合わず、すんなり辞められると学びました。(50代/皮膚科/勤務医(診療所・クリニック))
特に次の勤務先から内定を得られている場合は、自分自身も精神的に安定し、毅然とした姿勢で退職交渉に臨むことができるでしょう。
・退職後の行き先、非常勤としてやっていくならバイトがどれぐらいあるのか、しっかりリサーチしてから辞めましょう。(50代/皮膚科/勤務医(診療所・クリニック))
リサーチを行う場合は、転職エージェントを活用すると在職中も匿名で転職活動を進めることができます。
転職を検討している方は、医局に知られることなく、情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。
約9割の医師が「医局を辞めて良かった」と回答
最後に 本調査で回答を寄せてくださった医局を辞めた医師・205名に、医局を辞めたことを今どのように捉えているか尋ねました。
Q:「医局を辞める」という選択をして良かったですか?
上記のグラフが示しているように、87.8%の医師は「医局を辞めるという選択をして良かった」と答えています(「非常に良かった」「まあ良かった」を合計)。
・今の職場が苦しいなら、退局という選択肢もあることを知ってほしい。(30代/呼吸器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・専門医など資格、学位が取れ、教授や准教授などの地位に就く夢がないのであれば、大学にいる必要はない。(30代/脳神経外科/勤務医(大学病院以外の病院))
・医局が派遣する病院人事にはなんの契約関係もなく、言われたとおりに赴任する義務はありません。差配するトップの人格、理念や能力に疑問を感じるようならとどまる必要はないでしょう。(50代/泌尿器科/勤務医(大学病院以外の病院))
・自分に自信が出てきた時には(過信は禁物ですが)、退局してもいいように思います。(50代/循環器内科/勤務医(大学病院以外の病院))
・自分の人生でやりたいことを、最優先に。(50代/一般内科/勤務医(非常勤のみ))
医局を離れるという大きな決心をするためには、様々な不安がつきものです。
そんなときには、医局からの転職サポートの経験も豊富な「Dr.転職なび」のコンサルタントをぜひご活用ください。
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◆調査概要「医局に関するアンケート」
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